日雇いコリーと血染めの白薔薇
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“星屑の休憩所”から少し離れた森の奥。そこに建つ洋館は、いかにも歪な雰囲気を纏わせていた。ここに“白薔薇の錬金術師”と思しき人物がいるのは間違いなさそうだが、入りたいとは思えない。しかし、ずっとここでこうしていては埒があかない。俺は意を決すると、門の近くまで進んだ。一人の少女が門の前に立っている。助手かなにかだろうか。とにかく、彼女に聞いてみるのが無難だろう。
「すまない。ここに住んでるレティ氏に会いに来たんだが――」
「主に会うことはできません。お帰り下さい」
少女は無機質に告げると、俺を見上げて首をかしげた。人間離れした青白い顔に、赤い瞳が印象的だ。よく見ると髪は灰色がかっているようだった。
「なら、せめて伝言だけでも頼めないか?」
「不可能です」
俺が冷静に問いかけると、少女はきっぱりと言い放って顔を伏せた。何か嫌な予感がする。俺は戸惑いながらもはっきりと問いかけた。
「……分かった。最後に一つだけ、教えてくれ。――レティ氏は、生きてるのか?」
「……その答えは、分かっています。しかし――いえ。分かりました。お答えします。主、ギルベルト・レティ様は六日前、何者かに殺害されました」
嫌な予感の的中に、俺は頭を抱えた。この流れからすると、その“何者か”とはラウラのことだろう。手遅れだったか、と俺は小さく呟いて舌打ちをした。
「おい、その何者かってどんなやつだった?」
「さっきの質問が最後なのでしょう? パティーにはもう何も答えられません」
自分のことをパティーと呼んだ少女は、棒読みで告げると両手で耳を塞いだ。質問は受け付けない、という意味らしい。これ以上は無駄そうだ。俺は肩を落としてため息を吐く。しかし、そこであることに気づいた。
「……ちょっと待てよ。ロットーが殺されたのが八日前。レティが殺されたのが六日前だよな? なら、移動時間からしてラウラには――」
殺せないだろう、と言いかけ、背後に視線を感じる。
「おいコリー! 何で君がここにいるのさ? ――まさか、ボクを止めようとか思ってないよね?」
後ろから現れた小柄な少女――ラウラは、初めて会ったときのように頬を膨らませた。しかし、その目つきは真剣そのもので、静かな殺意さえ感じられた。
「ラウラ……お前、やっぱり」
「新しいお客様ですか? 主はもういません。お帰り下さい」
俺の横を通り過ぎたラウラは、パティーに近づいて目を細めた。幼さは微塵も感じられない。
「パティーとか言ったっけ? 君、レティを殺した奴を知ってるでしょ。しかも、君はそいつのことを話さないようにレティーから言われてる。……そうでしょ?」
「主の命令は絶対です。主が死んだ今、私にはその命令に従うことしかできません」
パティーはそう言うと、黙り込んでしまった。ラウラは眉を顰めて地面を見ている。
「なら、ボクが君の新しい主になるよ。そうすれば答えてくれるんだよね?」
「あなたが、私の主に、ですか? それは……ええ、あまり嬉しくありませんが――いいでしょう」
パティーの言葉に、俺は拍子抜けした。彼女はもっとレティに依存しているものだと思っていたのだ。しかし、彼女は意外にあっさりと了承した。戸惑っているようにも聞こえたが、それもほんの些細な変化だった。パティーが小さくお辞儀をする。俺はラウラの強引さに呆れを通り越して感心した。
「パティー。レティを殺した奴。――その女の名は」
「あぁら、久しぶりね。アストルガのお嬢さん?」
ラウラの声を遮った女性の声に、彼女は身を強ばらせて後退した。パティーは無表情のまま、屋敷の庭を見ている。
「“紅薔薇の魔術師”――やっぱりお前か!」
「何のおつもりですか? ロース=マリー・フェルト様。ここにはもう用はないはずでは?」
“紅薔薇の魔術師”ロース=マリー・フェルトと呼ばれた女性は、手元の白いバラを手折ると、それに銀のナイフを突き刺した。
「こうなりたくなければ、パティーをこちらに引き渡しなさい」
フェルトが言い終わると同時に、パティーが手榴弾を投げた。その隙にラウラの手を取り走り出す。状況に戸惑いながらも、俺はただ少女の背を追いかけていった。
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