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ep.38

ちちち、という鳥の鳴き声で、風流だと思う反面、煩わしいなぁなんて思いながら起きた私はベットの横に置いてある棚の上にちょこんと乗ったカレンダーを確認した。


「あ、今日か...」


カレンダーには今日の日付が赤でぐるぐると囲ってあり、小さく「お出かけ!」と書いてある。

恐らく眠い時に書いたのであろうそれを、はしゃぎ過ぎでしょ、なんて透かして見せながらも、その実私の心中は『お出かけ!』と叫んでいた。

本命の目的は別にあるにしろ、ラズさんとどこかへ出かけるのに心が躍らないわけがない。

私は少し勢いをつけてベットから飛び降りた後、水面越しの様にゆらゆらと揺れる目を擦りながらカーテンを開ける。

今日は快晴だ。

太陽が今日も今日とて余計なことをしてくれているが、夏の山場は過ぎたので日によっては涼しかったりする。


―目に染みるような空をなんとなく眺める。


白からだんだんと青くなっていく空を見ていると、ふと、境界はどこだろうと探してしまうときがある。

空は必ずしも綺麗なグラデーションではない。

どこかの線を境に青になるし、白になる。

それは色としての厳密なものではなくて、言語として、青だの白だのの境界がある。

夏でも冬でも、はたまた曇天で灰色の空でも、私はふとした時にそれが気になって、立ち止まってしまう時がある。

ゆっくりと移ろっていく何かを何処かですっぱりと分けて、ここからこっちはこれ!と定義するのが好きなのかもしれない。

というか、その色彩上は白でも青でもない場所があまり好きじゃないという可能性もある。考えてみれば、確かにあやふやなのは嫌いだ。

今度ガブエラさん辺りに話してみるのもありかもしれない。あの人は凄く私に近い気がするのだ。なんというか、感覚で生きてるというか、考え方が少し似ている気がする。

今日も今日とて境界線を見つけて、すいーっと指でなぞってみる。

これもいつもの事だが、途端に馬鹿らしくなって、私は窓に背を向けた。


お風呂に入ってさっぱりした後、まだラズさんは起きてこなかったので朝食を作り始めるのは少し遅らせ、その間別の事をすることにした。

私はこの前の西区旅行で明確に一つ、後悔していることがある。

それは、お洒落をして行かなかった事だ。

しかし、これに関しては致し方ない側面が強い。あの時はあくまでお仕事の付き添いのつもりで出かけたし、状況的にも緊迫していたのでそんな余裕など微塵もなかった。

だとしても。だとしても一乙女としては、お出かけするのならばばっちり髪を巻いて可愛い服を着て行きたいのである。

いざ、とクローゼットを開けると、お小遣いで買ったものやラズさんに買ってもらったものが掛けられている。

その中から、季節に合いそうなものをいくつか引っ張り出してベットの上に並べてみた。

目を引くのはラズさんに買ってもらった、ボタンと七分袖がフリルになっている白のシャツと、チェックのコルセットスカートだ。

この組み合わせは自分自身、気に入っているというのもあるが、これを着てフェリアのおうちに行ったときに、フェリアが手放しに絶賛してくれたので少しばかり自信のようなものがある。

が、しかし折角ラズさんと出かけるのならば知らない服を着て行って驚かせたいという気持ちもある。

となると自分で買った、水色のワンピースだろうか。

アクセントとして裾や襟に白のフリルが付いていて、夏らしい涼し気な服装でありながらフェミニンで可愛らしいためこちらも気に入っている。

このコーデだと恐らくショルダーバッグか、アクセサリーをつけることになるだろうが、これからの予定を考えると有事の際に邪魔になる可能性もある。


「ぐぬぬ.....................」


暫く、本当に暫く、いやそれすら通り越してもう一歩奥まで行った所で漸く私は今日の服を決めた。

それ以外の物をクローゼットの中に入れ、最後にもう一度これでいいのかと自問した後、着て行く服はベットの上そのままに部屋を後にした。




自室の扉の前で少し逡巡する。

もう一度鏡を見て、おかしな所が無いか念入りに確認し、一つ大きな深呼吸をして、えいっと扉を開け放った。


「お、準備で...きた、か...」


私を見るなり、段々と言葉のペースを落として行き、しまいには呆然と口を半開きにしているラズさんに、「この前買ったんですけど......どうですか...?」と申し訳程度に裾をひらひらとさせると、高めの場所で結ったポニーテールが連動するように揺れる。

選んだのは水色のワンピースだ。

凄く、すごーく悩んだ結果、シャツとスカートはもう少し後でも着れる上に、寒くなればかえって着こなしの幅が増えるので秋に着る事として、今日は夏らしいワンピースを着て行こうと結論付けた。

果たして、とラズさんを伺うと、ぽかんと口を開け放っている。

しかし、私と目が合うと少しだけ顔を赤くしながら微妙に視線を逸らして、「あーー...に、似合ってる。と思い...ます」と吹けば飛ぶような声で言った。

その緊張ぶりがこの選択が間違いではなかった事をありありと表現していて、私は思わず飛び上がってしまいそうだった。


「師匠!今のもう一回お願いします!今度はもっとハッキリ!」

「...あぁうるせぇうるせぇ!準備できたんなら行くぞ!」


どったどったと近寄って、腕やら服やらをぐいぐいと引っ張りながらおねだりすると、ラズさんは顔を真っ赤にして頭をガシガシと掻いた。

そのまま玄関に行ってしまうので、すすすっと近寄ってがばりと腕に抱きつくと、ラズさんはまるで機械のように動きを止めたものの、すぐに回復し「この馬鹿弟子が...」と愚痴るように溢す。

どうやら暫くはこのままで居ていいらしい。

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