第50話:コア
「……どうやら、ここが正念場のようだな」
リゼット調査官の言葉と共に、俺たちの目の前には、地下深くへと続く巨大な隔壁のような扉が立ちはだかっていた。
扉はひどく損傷し、その隙間からは禍々しいエネルギーの光が漏れ出し、周囲の空間を激しく歪ませている。
「この扉のロックも……異常の影響で完全に故障してる!」
エリシアが解析ツールで調べながら叫ぶ。
「バルガス、ダリウス! 強引にこじ開けられるか!?」
リゼットが指示を飛ばす。
「やってみます!」
バルガスとダリウスが扉に戦槌と戦斧を叩きつけるが、扉は歪んだ音を立てるだけで、びくともしない。
それどころか、衝撃で周囲の空間がさらに不安定になり、壁の一部が崩落し始めた。
「ダメだ、これ以上は危険すぎる!」
エリシアが制止する。
「ちっ、どうする……」
バルガスが歯噛みする。
俺は、扉の隙間から漏れ出す、あの強烈な異常な波動に意識を集中させていた。
この先に、この問題の元凶がいる。
(この扉を開けなければ……!)
「ノア君」
リゼットが俺を見た。「君の力で、この扉のロック……あるいは扉そのものに干渉できないか? あのゴーレムの時のように」
「……やってみます」
俺は頷いた。消耗は激しいが、やるしかない。
イメージは、扉のロック機構、あるいは扉を構成する物質の『情報』そのものへのアクセス。そして、それを『変質』させる。
『収納――物質干渉!!』
右腕に、焼けるような激痛が走る! だが、確かに、扉の表面が、まるで水面のように揺らぎ始めた!
「今だ! 開けろ!」
俺の叫びに、バルガスとダリウスが再び扉に力を込める!
ギギギギ……メキメキッ!
凄まじい抵抗感と共に、ついに重厚な隔壁扉が、内側へとゆっくりと開き始めた!
開いた扉の向こうに広がっていたのは、巨大なドーム状の空洞だった。
C区画まで届いているだろう天井は遥か高く、その空洞の中心には――
「……あれが……」
誰もが、言葉を失った。
そこにあったのは、禍々しいほどの巨大な、脈打つ光の塊だった。 それは、かつてこの迷宮の中心であった『コア』の成れの果てなのだろうか。
赤黒い光と青白い光が不規則に混じり合い、雷鳴のような轟音と、空間を切り裂くようなノイズ音を絶えず発している。
そして、その光の塊の中心部には、D-7区画から引きずり込まれたかのように、あるいは空間の歪みによって融合してしまったかのように、あの木箱の残骸らしきものが、まるで寄生するように取り込まれ、異常なエネルギーをさらに増幅させているように見えた。
それは、木箱が元々持っていた微弱な異常が、コアの莫大なエネルギーと反応し、暴走的な相乗効果を生み出しているかのようだった。
「間違いない……! あれが、この異常の源流……! 『沈黙の迷宮』のコアが、木箱を触媒にして、暴走しているんだ!」
エリシアが絶叫に近い声を上げる。
その時だった。
俺たちが足を踏み入れたことに気づいたのか、あるいは、俺たちが持つエーテル結晶の欠片に反応したのか。
暴走するコアの脈動が、一際大きく、そして激しくなった!
ズオオオオオオオオオオォォォン!!!!
凄まじいエネルギーの奔流が、コアから俺たち目掛けて放たれる!
それは、もはや指向性を持った攻撃というより、空間そのものを破壊し尽くさんばかりの、純粋な力の奔流だった!
「総員、防御!!」
バルガスの叫びと同時に、ダリウスが盾を構え、クララさんが必死に防御魔法を展開する!
リゼットも杖を構え、エリシアは俺を庇うように前に出た!
だが、その絶対的な力の奔流を前に、俺たちの抵抗はあまりにも無力だった。
俺は、迫りくる破滅的な光景を前に、ただ目を閉じることしかできなかった――。




