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第46話:歪な生命

ピィィィィッ!!


甲高い警告音が、閉ざされた研究室跡に鳴り響く。

ガシャン!と重い音を立てて金属製の扉が完全に閉まり、俺たちの退路は断たれた。


「なっ!?」

「罠か!?」

バルガスたちが武器を構える。


警告音は鳴り止まない。そして、部屋の中央にあった、空のはずの巨大な円筒形の水槽に、亀裂が走り始めた!

ミシミシと嫌な音を立てながら、水槽のガラスが内側から破壊されていく。


そして、その亀裂の奥から、ぬるり、と『それ』は姿を現し始めた。


「…………っ……!」

神官のクララさんが、息を呑んで後ずさる。俺も、フィンも、そして歴戦の勇士であるはずのバルガスたちですら、目の前の光景に言葉を失っていた。


それは、かつて人であったのかもしれない、と思わせる歪な輪郭を持っていた。

だが、その体は灰色がかった半透明のゼリー状物質と、錆びついた機械部品、そして黒く変色した肉片のようなものがおぞましく融合した姿へと成り果てていた。


顔があったであろう場所はのっぺりとしており、代わりに不規則に赤黒い光が明滅している。体からは何本ものコードや金属片が突き出し、蠢く触手のように揺れていた。


(なんだ……これ……)


以前遭遇した『何か』とも、バグ・スライムとも違う。これは、古代の研究施設で生まれた、バグとテクノロジー、そしておそらくは生命そのものが、悪意をもって混ぜ合わされたかのような、冒涜的な存在だった。


『それ』――融合実験体とでも呼ぶべきか――は、砕け散った水槽から完全に這い出すと、その空虚な顔(?)をゆっくりと俺たちに向けた。明確な敵意というよりは、ただそこに存在するだけで周囲の空間情報を掻き乱し、精神を圧迫してくるような、異様なプレッシャーを放っている。部屋全体のバグのノイズが、さらに強まった気がした。


「……解析不能……! 情報汚染が酷すぎる……! でも、これは……生体部品と機械部品、それに高密度のバグエネルギーが強制的に融合させられた……まさか、例の『コア安定化実験』の失敗作……!?」


エリシアが、解析ツールを構えながらも、恐怖と研究者としての興奮が入り混じったような声で呟く。彼女が先ほど見つけた記録媒体の内容と、目の前の怪物が結びついたのだろう。


「グ……ギ……」

融合実験体が、不快な軋み音のようなものを発した。攻撃してくるのか!? 俺たちは咄嗟に身構える。


だが、怪物は俺たちを無視するかのように、ゆっくりと腕のようなものを上げ、部屋の壁――エリシアが調べていた記録媒体の残骸――へと伸ばした。

まずい! あの記録を破壊する気か!?


「させるか!」

バルガスが叫び、戦槌を構えて突進する! ダリウスも、フィンの援護を受けながら側面から斬りかかった!


しかし、融合実験体は彼らの攻撃を意に介さない。その体表を覆う歪んだ空間が、まるで盾のように物理攻撃を吸収し、いなしてしまう。


「硬い!」

「攻撃が通じにくいぞ!」


「クララ! 浄化と聖属性攻撃を!」

リゼットが指示を飛ばす。


「はい!」

クララさんが杖を掲げ、聖なる光を放つ。光は融合実験体の体に命中し、バチバチと音を立てて黒い煙を上げた! さすがに効果があるようだ!


「ギ……ギギ……!」

融合実験体は、初めて苦痛の声を上げたように見えた。そして、そのターゲットを、聖属性の力を放ったクララさんへと変更する!

歪んだ触手のようなものが、高速でクララさん目掛けて伸びる!


「危ない!」

俺は咄嗟に叫び、右手を突き出していた。消耗はまだ残っている。だが、仲間が目の前で!


(固定! あの触手を!)


『ストレージ――ポイント・ロック!』


ズキッ! と頭痛が走るが、スキルは発動した!

伸びてきた触手の動きが、ほんの一瞬だけ空中で停止する!


「ナイスよ、ノア!」

エリシアが叫び、その隙に杖から光弾を放って触手を撃ち落とす!

同時に、バルガスとダリウスが後退し、クララさんを守るように陣形を立て直した。


「……助かりました……ありがとう、ノア君……」

クララさんが、息を切らしながら俺に礼を言った。


「いえ……」

俺は自分の右手の痺れを感じながら答える。少しずつだが、力の制御ができるようになってきている……? いや、まだだ。油断はできない。


融合実験体は、攻撃を阻害されたことに怒ったのか、その体からさらに強いバグの波動を放ち始めた。部屋全体の空間の歪みがさらに激しくなり、精神への圧迫感も増していく。


「まずいな……こいつ、この部屋の異常なエネルギーを吸収してやがる!」

バルガスが苦々しげに言う。


「何か弱点は……!?」

リゼットがエリシアに問う。


「分からない……! でも、エネルギーを吸収しているなら、その供給源を断つか、あるいはコアを……! さっきの記録媒体にも『コア安定化』ってあった! やはり、中心に制御コアがあるはず!」

エリシアは解析ツールを操作しながら叫ぶ。


「だが、この歪みの中じゃ、まともに狙えん!」

ダリウスが歯噛みする。


その時だった。

俺の『感知』能力が、融合実験体の内部――その歪んだ体の中心、赤黒く明滅する核のような部分のさらに奥に、何か別の、『異物』のような感覚を捉えた。それは、周囲の禍々しいバグエネルギーとは違う、もっと純粋で、しかし不安定なエネルギー……。


(あれは……もしかして……?)


俺は、以前エリシアから聞いた話を思い出していた。起動に必要な『高純度エーテル結晶、もしくは同等の代替エネルギー供給』。


「エリシアさん……! あの怪物の、体の奥……中心部分に、何か……結晶みたいな……すごく不安定だけど、綺麗なエネルギーを感じます!」


「えっ!? 結晶!?」

エリシアの目が、驚きと、そしてある可能性に行き当たったかのように、大きく見開かれた。

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