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第33話:監視下での仕事

リゼット調査官による尋問と、ギルド本部での待機命令から数日が過ぎた。

俺たちの生活は、遺跡での死と隣り合わせの日々とは打って変わり、奇妙なほど規則正しいものになった。

朝、ギルド職員に起こされ、簡単な食事をとり、そして割り当てられた『業務』へと向かう。それが終われば、指定された個室に戻り、次の日まで自由な行動はほとんど許されない。


まさに、監視下での生活だった。


俺に割り当てられたのは、ギルドの地下にある大倉庫での物資整理だった。

冒険者たちが持ち帰った素材、討伐依頼で使われる支給品、遠征用の保存食……ありとあらゆる物が、巨大な倉庫の中に無造作に積み上げられている。俺の仕事は、それらを指示された棚に運び、種類別に分類し、【収納】スキルを使って効率的に格納していくことだった。


「そこの薬草の束は、C-3の棚だ。スキルで頼む」

監視役としてつけられた、ギルド職員の男性が無愛想に指示を出す。

彼は俺のスキルに興味があるというよりは、単に面倒な力仕事が減ることを喜んでいるようにも見えたが、その視線は常に俺の動きを注意深く追っていた。

リゼット調査官から、何か異常があれば報告するように言われているのだろう。


俺は指示された薬草の束に右手をかざす。


収納ストレージ


意識を集中し、スキルを発動する。薬草の束が淡い光と共に消える。そして、指定された棚の前まで移動し、再びスキルを発動して取り出す。

作業自体は、かつて勇者パーティーで荷物持ちをしていた頃にやっていたことと大差ない。


だが、今の俺にとって、この単純な作業は、以前とは全く違う意味を持っていた。

スキルを発動するたびに、俺は意識して『余計なこと』を感じないように努めなければならなかった。

薬草の持つ微細な『情報』、棚や周囲の空間の『状態』……それらが、スキルを使うたびに奔流のように流れ込もうとしてくるのを、必死で抑え込む。


(ただ、仕舞うだけ。ただ、出すだけ……)


それは、暴走しかねない力を、そのごく一部の機能だけを使うという、奇妙な制御訓練のようでもあった。

力の流れを意識し、蛇口を捻るように、必要な分だけを使う。エリシアが言っていたことが、少しだけ実践できているのかもしれない。

それでも、時折、収納したアイテムの重さや質感、あるいは内部構造といった情報が、断片的に流れ込んできて、俺は内心で冷や汗をかいた。監視役の職員に気づかれていないだろうか……。


一方、エリシアに割り当てられたのは、ギルドの資料室での古文書整理や記録の筆写といった仕事だった。彼女の知識や几帳面さを評価された(あるいは、危険の少ない場所に置かれた)結果だろう。


その日の業務を終え、部屋に戻る前のわずかな時間、俺たちは廊下の隅で言葉を交わした。


「そっちはどうだった?」


俺が尋ねると、エリシアは少し退屈そうな顔で肩をすくめた。


「んー、まあ、ひたすら古い書類の整理だよ。埃っぽくて、退屈で……。でも」


彼女は少し声を潜め、悪戯っぽく笑う。


「おかげで、ギルドの過去の遺跡調査報告書とか、特殊事例の記録とか、ちょっとだけだけど、面白い資料に目を通すことはできたかな。もちろん、重要な部分は厳重に管理されてるみたいだけどね」


さすがはエリシアさんだ。どんな状況でも、自分の研究に繋がる情報を見つけ出そうとしている。


「ノアの方は? スキルの練習にはなった?」

「……はい、少しだけ。でも、やっぱりまだ……怖いです。いつ、また暴走するか分からないし……」

「焦らないで。一歩ずつだよ」


エリシアは優しく励ましてくれる。


そんな俺たちの横を、ゴードンとセリアが通り過ぎていった。彼らにも、何か簡単な作業が割り当てられているのかもしれない。

ゴードンは、俺と視線が合うと、気まずそうに顔を背け、足早に去っていく。セリアは、やつれた顔で俯いたまま、ゴードンの後を追うだけだった。

彼らとの間には、まだ深い溝が横たわったままだった。カイトさんのこと、石版のこと、そして俺のスキルのこと……。解決すべき問題は、何も変わっていない。


その夜、俺は自室のベッドで、エリシアに教わったスキルの制御訓練――収納空間の感覚を掴む練習――を密かに試していた。

目を閉じ、意識を集中する。俺のスキルが生み出す、異空間。そこに、先ほど倉庫で収納した小石を思い浮かべ、それを空間内の特定の位置に……例えば、右隅の、床から10センチの高さに……正確に配置するイメージ。


(難しい……)


力の流れを微調整しようとすると、すぐに頭痛がし、集中が途切れる。空間の感覚も曖昧で、正確な位置を指定するのが困難だ。

それでも、諦めずに何度も繰り返す。エリシアのためにも、そして、俺自身の未来のためにも、この力と向き合わなければならないのだから。


数日後。

倉庫での作業にも少し慣れてきた頃、あの監視役の職員が、いつもとは違う指示を出してきた。


「ノア、今日はこっちの荷を頼む」

彼が示したのは、厳重に封印された木箱がいくつか積まれた一角だった。木箱には、ギルドの紋章と共に、「取扱注意」「要浄化処理」といった警告を示す印が付けられている。

「中身は、低レベルだが呪い属性が付与された武具や、不安定な魔力反応を示す素材だそうだ。他の物とは隔離して、地下の特別保管庫に『収納』してほしい」


呪われた武具……不安定な素材……。

それはつまり、俺のスキルを試す、新たな『テスト』ということだろう。

俺は、ゴクリと唾を飲み込み、その不気味な木箱を見つめた。

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