6話:直感スキル
選別と鑑定を受けた次の日。
夏休み前、最後の土日だ。
選別での学生達の心情を考えた上で、計画的に金曜日に行ったと思っている。
特に俺や浜口のように、自慢できないジョブを引いてしまった者には、気持ちを整えるためにも必要だ。
休みが終わり登校すれば、どのジョブに就いたか同級生、下級生問わず聞かれるのは決定事項なのだから。
なぜ、言い切れるのかと言えばなんせ毎年、選別に選ばれた先輩方を見ていたのだからわかる。
俺もポーターを引いてしまった先輩方のように、侮られるのかと思うと鬱になりそうだ。
いや、職業なしなんて、うちの学校では前例がないはず。
あれ以上になるかもしれないと思うと、不登校になりそうだ。
実際に卒業まで登校しなくなる先輩もいたしな。
選別に受かってしまった以上、中学卒業後はブレイバー学校に通うことが義務付けられているから、成績も関係なくなってしまった。
高校受験の勉強しなくて済んだとでも、思っておこう。
気を取り直して、今日から能力値強化の為に体力作りを始める。
掲示板に身体を鍛えれば、普通に能力値が上がるので死にたくなければ、他人より上に行きたければ身体を鍛えろと酸っぱいくらいに書き込みがされていた。
ブレイバー学校に入っても嫌と言うほど体を使った授業がメインになるらしく、鍛えといて損はないと。
むしろ鍛えとかないと、ついていくのが大変だとも書かれていた。
帰宅部の俺には筋トレとか、ハードルが高いので、まずは軽いジョギングから始めることにした。
――――――――――
休み明け、日頃の運動不足が祟ったのか、久しぶりに筋肉痛に悩まされている。
一昨日から始めた俺の努力に両親は目を丸くして、驚いていたが授かったジョブの説明をしたところ、泣きながら応援すると言ってくれた。
両親にとっても職業なしは想定外だったみたいだ。
朝食を摂り、身支度を済ませるともう一度、鏡の前へ行き、自身を見る。
「普段と変わらないな、よしっ!」
自分に気合いを入れる。
落ち込んでいる様や弱みは見せたくない。
俺のせめてもの強がりだ。
玄関で靴を履いていると、後ろから母親が激励を飛ばしてくる。
「久遠、頑張って!」
「わかった。行ってきます」
正直、思春期真っ盛りで親との接し方がよくわからないので、簡潔に挨拶を済ますと逃げるように飛び出した。
通い慣れた通学路、いつもと景色は変わらないが明確に違うものがあった。
途中で出会う同じ中学校の生徒達の態度だ。
どうやら俺が選別に通ったことが、すでに噂で流れているのか。
ハッキリとは聞こえないが「あの人が選別で」とか、「ほらほら、あの人だよ」みたいな声が聞こえてくる。
これが憧れの先輩に対する後輩の声だったなら、どれ程良かったことか。
帰る頃には「聞いたあの人、ププッ」とか言ってそうで嫌だ。
なんとか、学校に着くまでは声を掛けられることはなかったが、校門をくぐった当たりから感じる視線が異常だ。
まるで自分が裸で歩いているのではと。
もしくは間違えてパジャマのまま、学校に来てしまったのではと思えて、何度も確認してしまった。
教室へ向かう廊下でも、楽しく友達と会話している奴らが俺を見た瞬間、黙りずっと見てくる。
ヤバイ、すげー気が重くなってきた。
深呼吸を一回して、教室の扉を開ける。
すると、やはりここでも一瞬で教室内は沈黙に包まれた。
俺は何事もないように自分の席につくが、気不味さで動けなくなる。
「(やべー!俺から皆に話し掛けた方がいいのか?)」
などと、迷っていると聞き慣れた声がかかる。
「久遠、おはよう」
声を掛けてきたのは、一番仲の良い親友の徳井。
「とりあえず、ご愁傷様」
あんまりな挨拶だが、この徳井とはお互いにブレイバーになんて、なりたくないよなとよく話していた。
「で俺、お前からの連絡ずっと待ってたんだけど?」
「悪い。それどころじゃなくて、忘れてたわ」
「ふーん、良くなかったのか?」
徳井のこの一言で、クラス全員の耳が物理的にこちらを向いたのがわかった。
せっかく、徳井が話しやすいようにしてくれたこの機会を逃すわけにはいかない。
でも、さらにハードルを下げる為にも、わざと卑下するように言い回す。
「最悪の下をいったかもしれない」
「最悪の下?何?まさか、ポーターだったのか?」
「いや、無職だった」
「「「・・・?」」」
教室にいる同級生全員の頭の上に「?」マークが見えた。
「どういうことだ?」
「それが・・・」
「おいおい!御堂!お前、ジョブなしだったのかよ!マジ笑えるぜ!」
あっコイツ、職業なしのこと知ってるな。
「朝から最高に笑えるぜ!ははは!」
ちなみに朝から笑っているこいつは校内ではまあまあ有名な悪。
で、自分は将来ブレイバーになって活躍するってイキってたのに選別に受からなかった奴だ。
確か2歳年上の兄貴が選別に受かり、ブレイバー学校に通っているとかで、自分のことのようにいつも威張ってたな。
「そもそも、お前みたいな奴が選別に受かること自体おかしいんだよ!ざまぁ!」
ここまで言われると、逆に冷静になれるとか知らなかったわ。
おかげでこいつのこと、分析しちゃったよ。
自分が選ばれなかったことが、よっぽど悔しくてやるせなくて、誰かに当たらないといられないんだろうな。
ただ、冷静になれたのは俺だけだったようで、親友がブチギレてることに気付いていなかった。
「おい!吉田!散々、自分はブレイバーになって活躍するとか、フカシしてたくせに!なれなかったら他人に当たるとか、くそダセーんだよ!」
「なんだとぉ!てめぇ!」
吉田は図星を当てられて、頭に血が上ったのか真っ赤な顔で席を立つとこちらに寄ってくる。
マイ・フレンドも普段見せたことがない表情で、吉田を睨み返していた。
その時だった。
俺の中で、吉田が右の拳を徳井に振りかぶる気がした。
それと同時に俺は勢いよく席を立ち、吉田から振るわれた拳を受け止めていた。
拳を受け止められた吉田は驚いた顔をしていたが俺も直感が働き、感覚で拳を受け止めていたことに内心で驚いていた。
「お前ら何してるんだ!」
声を上げたのは生徒指導の教師、その後ろには担任と学年主任の姿もあった。
タイミングよく入ってきた教師達を見た瞬間、ここでも直感が働く。
こういういざこざは毎年のことなんだろうと、さては俺に合わせて、あんたら待機してたね?
吉田の発言は教師達にバッチリと聞かれており、そのまま生徒指導室へ連れて行かれた。
徳井の発言も聞かれてはいたが、友達を庇った為と注意だけで済んだ。
「久遠、さっきはありがとうな」
「俺の方こそ、代わりに怒ってくれて嬉しかったぜ。だけど、もうすぐ最後の夏の大会が控えてるんだから暴力沙汰はやめとけよな」
「悪い悪い、俺もついカッとなっちゃって」
徳井はバスケ部のエースで学校内外でもちょっとした有名人だったりする。
そして、後輩想いで下級生からの信望も厚い。
その徳井が怒ってくれたことで俺への質問攻めは起こらなかった。
友情の大切を再確認したよ。




