7話:アイツは神懸ってる
問題児の吉田が生徒指導室へ連れて行かれた後、朝礼が始まったが担任が1限目は自習とだけ告げるとそそくさと教室を出ていった。
間違いなく吉田が揉めているのだろうというのはクラス全員の共通認識だ。
中学3年生とはいえ、世間ではまだまだ子供。進学校でもなければ、自習と聞いて大人しく自習する生徒は少ないだろう。
担任が出ていき、少し経つと隣の席の女子でクラス内カーストでも上位に位置する田中さんが話し掛けてきた。
「御堂くん、徳井くんとの会話で聞いたけど、職業なしってどんなジョブなの?」
職業なしを知らない人からしたら、ごく自然な質問である。
他にも気になる奴らが席を立ち、俺の周りに集まってくる。意外だったのは女子の多さ。
ここで濁すのは得策じゃないと素直に俺の考察を含めて良い風に言おう。
「職業なしは0次職で剣士や荷物持ちの下のクラスだよ。その為かレベルアップ時の上昇率も最も低くて、尚且つスキル取得に必要なポイントも貰えない」
ここまで説明したところで全員の顔が引き攣ってることに気付く。
これは不味いかもと思ったところで流石は親友、合いの手を入れてくれる。
「でも、レベルが上がればクラスアップするんだろう?」
「それがクラスアップした人もいるにはいるみたいなんだが今のところ、クラスアップ出来た人は少ないみたいなんだよな」
ネットで職業なしを調べて、すぐにわかったこと。
職業なしはクラスアップしないというのが定番になってるらしく、クラスアップできたのは俺確認では一人のみ。当初、事実を受け入れ難かった俺は必死に掲示板を巡り、そして見つけた。
たった一つの希望に満ちた書き込み。
それを信じている俺はあえて、クラスアップしないとは言わない。
「ふ〜ん、でもそれってクラスアップ出来たら他のジョブより能力値がアドバンテージになるんじゃないか?」
今日の親友は神懸っている。その言葉に全員の顔がハッとした。
「無事にクラスアップ出来ればな」
「じゃあ、御堂くんが優良物件かどうかはまだ保留だね」
全員が田中さんを見て、ギョッとした顔をする。
しかし、そんな顔をしたのは男子だけで女子達に至っては頷いている者が多数だ。
確かにブレイバーという職業が出来てからというものスポーツ選手なんかを抑えて、高額所得者の上位をブレイバーが占めている。
将来、結婚したい職業不動のNo.1だ。[女性]
将来の事を考えるならブレイバーは有りかもしれないがまだお互いに中学生ですよね?
年頃の女子怖ぇ〜よ。
「とりあえず、連絡先交換しようよ」
「…はい」
女子からの誘いを断る勇気なんて、俺は持ち合わせていませでした。そんな俺を見て、親友が苦笑いしてたのが印象的だった。
その流れから次々と連絡先を交換する流れになり、クラス全員のいや吉田と浜口はいないので2人以外の連絡先を交換したところで誰かが浜口の話題を口にする。
「浜口来てないけど、御堂は何か聞いてるか?」
浜口とは別に仲が良いわけではないので「何も聞いていない」と答えつつ、浜口が鑑定を受けた時の話を最初から最後まできっちりと話しておいた。
勿論、自分が受けた時の話は一切していない。
ただ俺の話を聞き、浜口が荷物持ちだと解った瞬間のクラスメイトの浜口を蔑む姿を見て、俺は怯え小さく震えてた。
下手したら自分がなっていたかもしれないと思うとね。
まあ、浜口は選別の時からやらかしていたし、鑑定を受けてショックで呟いていた、ハーレム計画も俺がバラしたせいでクラスメイト達に火がついたわけだが嘘は言っていない。
親友の徳井が俺にだけ聞こえるように「お前、自分が助かる為に浜口を売ったな」と囁いてきたが「そうだ」と返しておいた。
吉田は帰ってこないまま、荷物はなくなり。
なんとか午前中の授業を乗り越え、昼休憩に入った頃、俺と浜口の噂はすでに学校中に知れ渡っていた。
当事者になって改めて知ったが噂が広がる早さは異常だよ。
それでも今回、俺の噂なんてかき消すくらいに最も注目を集めたのは2組の近藤さんだった。
なんせ、近藤さんが引いたジョブは「回復士」だったのだ。
ブレイバーの数あるジョブの中でも最も希少と言われる回復職のジョブ。
よくは知らないが任期中も引退後も引く手あまたとかでブレイバーの中でも飛び抜けて、人気があり高収入だとか。
真っ先に俺の連絡先を聞いてきた田中さんも「あ〜あ、近藤さんが男子だったらな〜」なんて女子全員が同意していた。
今日は帰ったらすぐに寝よう。女子の現実を知るには15歳の俺には早すぎた。
「久遠、ご飯食べようぜ」
「ああ、今日も中庭で食べるか?」
「そうしようぜ」
*名古屋市は学校給食がありません。なので弁当持参かスクールランチになります。
1年生がいる校舎と2、3年生がいる校舎の間に中庭はある。
俺達はちょうど芝生の場所が空いていたのでそこを陣取る。
俺達の他にも生徒の姿は見えるが全員が3年生だ。これは学校規則などではないが俺が入った頃にはすでに中庭は3年生だけみたいな不文律が出来ており、最早伝統のようになっている。
徳井の弁当は運動部らしく、大きい弁当箱で俺も身体を鍛え始めて、食べる量が増えたのでサイズアップした。
そよ風が吹くと芝の少し青臭い匂いが漂うが暑くなってきたこの季節には爽快に感じる。食べ始めてすぐ、徳井が箸を止めて俺の方を見てくる。
「なあ、久遠ひとつ聞いてもいいか?」
「なんだ?」
「吉田が殴りかかってきた時、お前何かしたのか?なんていうか上手く説明出来ないんだけど、ん〜」
ホントに今日のこいつ神懸ってるよ。
「たぶんしたと思う・・・正直、俺もまだ実感がないんだけど、言うなよ」
俺は授かったスキル直感を告白する為、徳井に顔を寄せる。
「俺のスキル、直感なんだ」
「へぇ〜、・・・それって凄いのか?」
「ハッキリ言ってわからん」
「う〜ん、でも先に吉田の動きがわかったっていうなら一種の予測とか予知みたいなもんで凄いんじゃないか?」
「そういう風に言われると凄そうに聞こえるけど、俺が使いこなせるかどうかなんじゃないかな」
「そっか、大変だな」
「他人事かよ〜」
「それはそうだろう!」
「「ははは」」
友人同士、他愛ない会話をしていると今、学校内で最も注目を集める人物がやってきた。