50話:考え
俺の発言の後。
誰も口を開かない。
いつもなら一番先に口を開きそうな姫川は俺の意図に気付いたのか、真剣な目で俺を見ていた。
「御堂、あんたのパーティーメンバーが出来ないなら、そのゴブリンうちのパーティーが貰ってもいいかしら?」
姫川のパーティーメンバーがギョッ!?とした顔をする。
「この実習は戦闘の経験とレベルを上げることが目的よ」
姫川は自身のパーティーメンバーに振り向いて、語りかけているが俺のパーティーにも伝えているようだった。
「みんな聞いてるでしょ?一ヶ月後、スタンピードが起こる」
そう俺達、一年生は後方で雑用がメインになるが安全だという保証はない。
これまでのスタンピードでの死傷者が何よりも語っている。
「私は私のメンバーを死なせたくない」
姫川は俺のパーティーに告げた。
「出来ないと言うのなら、こっちに譲ってもらえないかしら」
流石は姫川。伝えたかったことを、俺より上手く言葉にした。
俺の舌っ足らずな言葉を補い、みんなを諭している。
まさに飴と鞭。
人間関係が不得意な俺では真似出来ない。
実際にみんなの表情は一変している。
「私たちがやります!」
真っ先に声を上げたのはメンバーの中で最も控えめだと思ってた魔法科の如月さん。
「そうね、御堂くんの考えもわかったし」
同意するのは戦闘科の伊勢さん。
「ただ、恋人の近藤さん程とは言わないけど、私たちにももう少し優しくしてもいいと思う」
ジトっとした目で見てくるのは斥候科の早川さんだ。
俺はタジタジだ。
「というわけだから、姫川。そっちはそっちで見繕ってくれ」
はいはい、と言った態度で姫川はメンバーを連れて離れていった。
その姿を見送ると、うちのメンバーを再び手招きする。
「とりあえず、次のゴブリンが来る前にみんなでコイツを囲んでくれ」
武器を握り締めたみんながゴブリンを囲む。
囲まれたゴブリンは危機を感じているのか、余計に騒ぎ出す。
「3、2、1で攻撃してくれ」
俺の説明はそれだけ。
でも、みんなの表情を見れば、大丈夫だと確信した。
「それじゃあ、3」
「2」
「1」
一斉に武器が振り下ろされた。
ゴブリンはギャッ!?っと、小さく悲鳴を上げると黒い霧になった。
武器をみんな振り下ろした姿勢のまま、動かない。
いや、動けないのか。
「みんな、良くやった」
さっき、姫川から学んだ教訓を活かすべく、回らない口をなんとか開いて褒める。
「結構、呆気ないだろ?」
ここで苦手意識を持たれては、後々に響くと考えて大したことではないと刷り込みを行う。
「そ、そうだね……思ってたよりなんというか」
「う、うん。死体が残らないのが実感を薄くするわね」
みんなは自分は間違ったことをしたわけじゃないと確認するように、視線を合わせていた。
これがたぶん、普通の反応だ。
そう考えると、姫川の初回は異質に思える。
「あんた、変なこと考えてるでしょ」
俺は慌てて振り返る。
「も、もう終わったのか?」
「終わったから戻って来たんでしょ、さっさと次行くわよ」
うん、いつもの姫川だわ。
「みんな、気負ったばっかりだけど、次へいこう」
俺達パーティーは再び並んで歩き出した。
「そっちも上手くいったみたいね」
みんなから少し先を歩く俺達二人はボリュームを抑えて話す。
「ああ、姫川サンキューな。おかげで躓かなかった」
「ふん、別にあんたの為じゃないから……」
姫川ならそう言うと思ってた俺は何も言わず、口角を上げた。




