4話:決意
能力鑑定を受けた夜。俺は自室のパソコンの前で静かに画面を見つめる。
目的は告げられた俺の職業:[なし]を調べること。
鑑定室で自分の職業を告げられた後、理解できずに放心してしまった。そんな俺に見かねたのか屈強な男達は優しく肩へと手を回し、外に連れ出してくれた。決して職務の邪魔だったから連れ出してくれたんじゃないと思う。
鑑定が終わった後は泣き崩れた浜口を学年主任が先導し、放心状態の俺を近藤さんが手を繋いで車まで連れて行ってくれた。車の中でも一生懸命に励まし学校に着くまで続けてくれた。後日、感謝を伝えなければ。
学校は人生を左右する選別とあって、授業は行われず選ばれなかった学生達は現地解散している。なので誰にも会わなかったのは幸いだ。
正直、どうやって家まで帰ったのか記憶がない。
気付けば、制服のままリビングのソファーに座っていた。
意識が戻ったのは職場で選別に選ばれたと既に連絡を受けていた母親が両手に大量の食材を持って帰ってきた時だ。
母親の第一声は「久遠、おめでとう〜」だったが俺の顔を見た瞬間、事情を察したのか「今日は暑かったわね〜」と平常運転に切り替えていた。
その後、大量に買ってしまった食材を無駄にするわけにもいかず、母親が先に手を打っておいたであろう神妙な面持ちの父親と3人、豪華な夕飯を無言で食べた。何度か両親が話し掛けてきた気がするが全く耳に入ってこなかった。
ご飯もそこそこに勧められるままお風呂に入り、少しは冷静になってきた。
そもそも、職業なしとはいったい?そこで鑑定を受けたのでステータスが見れることを思い出す。
「ステータスオープン」
名前:御堂 久遠
職業:なし
レベル:1/20 0P
筋力:10
体力:12
魔力:1
精神:11
耐性:7
器用:15
俊敏:10
魅力:10
幸運:13
技能
直感
「・・・これが俺のステータス」
本当に現れたステータスボードにも驚きだが自身の能力が数値化され、ゲームのように表示されていることの方が違和感が大きい。
そして、ギルドで鑑定された通り、職業には「なし」と表示されている。上限レベルは20。
これは低いと言える。
ネット情報だが浜口がなった職業:荷運び人でもレベルの上限は確か30あったはず。
これでは荷運び人以下だ。
それに職業なしなんて聞いたことがない。いや、俺が知らないだけなのか?
悩んでいても仕方ないので急ぎお風呂から出ると俺は自室のパソコンへと向かった。
ネット上にはブレイバーに対する書き込みは数多ある。どうすれば選別で選ばれるか、どの職業が優秀か、どのブレイバーが最強かなど色々だ。
その中で俺が目を惹かれたのはブレイバーの職業に対する考察掲示板。
どんな職業が存在するのか?上級職への条件等、次々に過去のログを巡っていき、ついに目的の職業なしの記事を見つけた。
しかし、職業なしの記事は少ない。
曰く、最弱最低の職業。
いや、なしだから職業ですらない。
ポーターの方が1万倍マシ。
肉壁にしか使えない。
人生乙。
そんな中、ひとつ気になる書き込みがあった。
レベルカンストで1次職の剣士にクラスアップした(涙)。
この書き込みに対してもネット民は辛辣だったが俺にとってはまさに光明が差したようだった。正直、嘘か本当か審議のほどはわからない。所詮は匿名のネット情報。
なら俺がクラスアップして、この書き込みを真実にしてやればいい。
そう決意した夜だった。
〜〜〜
中部本部ギルド、ギルドマスター室
コンコン
「入れ」
「失礼します」
ギルドマスターの執務室に入ってきたのは背筋が真っ直ぐに伸び、一目で武術の心得があると解る老齢の秘書。
「本日、行われた全選別者の鑑定結果が出ました」
「そうか、内訳を頼む」
「わかりました。ではこちらのタブレットをどうぞ」
ギルドマスターの西園寺は秘書から徐ろにタブレットを受け取ると不意に含み笑いを浮かべる。
「どうかされましたか?」
「ふと昔を思い出してな」
「と言われますと?」
「いやなに、若かった頃は難しいことなど考えずにただお前と肩を並べ、モンスターを倒すだけでよかったのに今では肩の凝る役職に堅苦しい報告ばかり、たまには昔のように何も考えず暴れたいものだと思ってな」
「それは残念ながら叶いませんな。今は生存圏奪還と資源の確保が国の急務。その為にも力あるブレイバーを育てるのが会長の責務です」
「そう固いことばかり言うな。儂も少し息抜きがしたいと思っただけだ」
「ではもう少し自覚を持ってください。唯でさえ、最近の魔導技術の遅れは我々ギルド側に責任があると宣う輩が増えて、職員が対応に四苦八苦しておりますのに」
「わかったわかった。儂もそれについては色々と動いているだろうがこの話はお終いだ。報告を始めてくれ」
秘書の小言は長くなることを身にしみて知っている西園寺は途中で話を遮る。話を遮られた執事は不満そうにため息を吐くと切り替えたように報告を始めた。
「ではまず、今年の選別者は234人。そのうち男が107人。女が127人です。」
「わずかにだが年々増えてきているな」
「はい、研究者達によれば人類が魔力に対して徐々に適応してきているとのことです」
「全人類が適応するのはいったいいつになるのやら・・・」
「報告を続けます。今日の鑑定結果で前衛職が4割、補助職が3割、魔法職が2割、斥候職が1割と例年とほぼ変わらない割合となっております」
「希少な回復職は何人だ?」
「今年は4人で過去最多です」
「ふぅ、4人でも最多か・・・」
「はい、こればかりはどうにも神の采配ですので・・・」
「また、クラン同士の争奪戦が起こるな」
「クランだけではありません。医療機関からも熱望されておりますので今年はさらに熾烈を極めるかと」
「頭の痛い問題だな」
「それを穏便に済ませるのも会長の仕事です」
「他人事のようだな」
「はい、私はただの秘書ですので」
「まったくお前と言う奴は、儂と代わらないか?」
「ご冗談を。会長以外に荒くれ者の集団であるブレイバーを従えられる御仁はございませんし、存知上げません」
「いつも持ち上げてくる」
「それが私の仕事ですので」
「まあいい、クランや医療機関には学校を卒業するまで勧誘は禁止するよう再度、通告しておいてくれ。破れば儂が出張る」
「かしこまりました。報告は以上です」
「そうか、ご苦労」
秘書は報告も終わり、西園寺からの指示を部下に伝える為、一礼して部屋を出ようとする。しかし、西園寺に呼び止められる。
「先程、アメリカのギルド協会から[5次職]のジョブが発現した者が確認されたと報告があった」
その言葉に先程まで余裕を崩さなかった秘書に動揺が現れた。
「真に5次職が発現したのですか?」
「ああ、間違いないらしい。友好国として情報を提供してくれた」
「5次職、それが本当なら・・・」
「大きな時代のうねりが来るな」