37話︰触診
「スキルが二つも生えるなんて……」
誰もいない部屋に俺の声が響く。
そして、東雲先生との最後の対戦を思い出す。
ハッキリしなかったあの時の感覚。
ゾーンだと思ってたのは、集中スキルだったのか。
あれこれと考えてみると実感が湧いてくる。
とりあえず、どんな感じなのか。
「集中!」
ベッドに腰掛けたままの俺は集中を発動してみるが変化が解らない。
いや、感覚が研ぎ澄まされているような?
何気なく、時計に目を向けた。
秒針の動きが僅かに遅く見える。
「効果は薄いが……直感との相性はいいのでは?」
そこで剣を振った時はどうなるのか。
壁に立て掛けてあったサーベルを持ち、ゆっくりと構える。
集中。
手に持つサーベルがいつもより、自然。
身体の一部とまでは言わないが、上手く振れる気がした。
短く息を吐き、一閃。
それは思い描くイメージに近い素振りだった。
「あぐっ!?」
回復してもらった胸が痛む。
手で胸を押さえながら、片膝をついてゆっくりと呼吸する。
来月からはダンジョン実習なのだ。
怪我が治らず、不参加ではみんなに離されてしまう。
サーベルを鞘にしまうと、今は身体を休める時だと自分に言い聞かせて、ベッドに横になる。
入学して、もうすぐ二週間。
それでスキルが二つも生えたことを思えば、上出来過ぎる。
何より、職業なしにも関わらずだ。
東雲先生から聞いたことを思い出す。
職業なしからクラスアップするには、スキルが欠かせない可能性があると……。
恐らくであって、確定ではないが肩の荷が少しだけ下りた気がした。
緊張の糸が緩んだのか、気付けば寝入っていた。
翌朝。
一日の休養を言い渡された俺の部屋に、回復科が押し掛けていた。
「それでは、皆さん。今日は回復魔法の実習です」
うん、俺の状態の確認が目的なのだが、野々村先生がどうせならと実地でやろうと思ったみたい。
保奈美は明らかにソワソワしてる。
「ここが久遠くんの部屋……」なんて、呟いて視線を泳がせているが――。
あくまで寮の部屋だからね?保奈美さんやい。
まあ、他の女子たちも初めて弟や父親以外の男の部屋に入ったとか言って、落ち着きがない。
「はい!皆さん、異性の部屋だからと言って浮つかない!」
野々村先生の一喝。
流石、先生だよ。
何処ぞの先生に爪の垢を飲ませてやりたい。
「年頃の男子はベッドの下とかに、見られては困るものを隠しているので、決して詮索しないように!」
えっ!?今、なんて?
「もし、見つけてしまっても優しく見なかったふりをするんですよ?」
「「はい」」
ちょっと?これは何の教育ですか?
「よろしい!では、私が今から触診の仕方を見せるのでしっかり覚えてね」
振り返った野々村先生はにっこりと微笑む。
「それでは御堂くん、上着をめくって横になってね」
……なんか、おかしいと思いながらも俺は指示に従った。
野々村先生がわかりやすいように、説明していく。
そして、みんなが順番に触診していく。
恥ずい……とにかく恥ずい。
なんなんだ、これは?
俺は人形になったつもりで、徹することにした。
「やっぱり、教えるなら人形よりも、生きた患者がいいわね」
野々村先生の不穏な言葉がやけに耳にこびりついた。
お昼休憩、俺は回復科と食堂に向かう。
午前中は結局、触診と魔力回路の確認で終わった。
ただ俺の魔力量は最低なので、残念ながら先生以外は感じることが出来なかった。
ならばと確認しやすいように称号スキル『完全試合』を発動しようとしたが残念ながら、発動しなかった。
恐らく、怪我が完全に癒えていないのが理由だ。
食堂で一足早く、食事をとっていると徐々に人が増えてくる。
そんな中、モーゼのように人垣が割れた。
歩いてくるのは、姫川。
姫川は俺たちが食事をとるテーブルを見つけると鋭い眼光で近寄ってくる。
ここ最近は、いつも一緒に食べてるからね。
ただその目は俺を捉えていた。




