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50 『二人で決死の覚悟を持って』

 しくじった!


 クレアは思う。何故、こんな派手な魔法を発動してしまったのか、と。


 場所は森の奥深く、周囲に魔人がいるというのは確認済み、殲滅あるのみ!

 ということで、私は召喚魔法を使い、以前に呼び出した大男をここに出し、魔人を一網打尽にしてやろうと考えていた。


 周囲に満ち足りる光、召喚する前に間違いなく、何かしら寄ってくるはず。そう、この魔法は相当目立っていた。

 クレアが前回召喚したときは運が良かったのもあったが、誰にも悟られずに成功させていた。しかし、近くにあるものがあれば、その光におびき寄せられる事は必然的。魔人が顔を覗かせクレアと視線がバッチリ交差した。


「やばいよ……」


 魔人が目の前に……やばいのは当然であるが、追い討ちをかけるように、クレアはさらに背後に気配を感じた。後ろは振り向かない。しかし、魔人ではなく人であることは確認できた。


「えっ……」


 ので、逆にクレアはとても動揺した。

 魔人であれば、囲まれた! 程度に考えるのだが、人が来るというのは予想外。それも1人2人ではなく、数十人単位で後方にいるのだから、なおビックリである。


「やっぱり、魔人か」


 そして魔人の方を凝視してがっつり正体当ててるし!

 もう、あれだよね。目がさ、関係者感をバリバリ出してるよね!?


「あの……えっと」


 そうして、クレアはアクアと別れた時の威勢はどこへやら……おどおどして、魔人をチラリ、後ろの人たちをチラリと忙しなく視線を移す。


 ……えっと、これどういう状況ですか?


 しかし、そんなことを考えている場合ではない。

 既に魔人に存在がバレてしまった。ということはつまり、今から戦闘態勢に移行しなければということ。

 さっさと魔人を退けて、迅速に帰る。これがクレアの頭の中で思いついた最善策であった。となれば、面倒で周りくどいやり方をしている暇はない。


 と決まれば、召喚した大男で一網打尽! ……って、アレ?


 決意を新たにしたクレアであったが、またも予想外の出来事が……。


「よう、あんたが俺の主人か。まっ、せいぜい仲良くしてくれや」


 えっと……。


「誰ですか? 貴方」


 クレアが本来召喚したかったのは前回召喚した大男。しかし、今回のは小柄な若い男であった。

 あの大男なら、周囲に蔓延った魔人の多くを一蹴することができそうであったが……。大男を頭に想像して、次の召喚した小柄な男を見やる。

 筋肉が詰まった腕っ節はない。

 胸板も大男に比べると見劣る。

 目つきがわるく、なんというか噛ませ犬的な顔つき。


「……普通に無理っぽい」


「なあ、なんか悪意篭ってない?」


 初対面、それも馴れ馴れしい男は少し困ったように眉を動かした。そんなことを言われる筋合いはないとクレアは一つため息を吐きながら、視線を魔人の方へと向けた。


「忌々シイ、人間ドモメ」


 対面にいる魔人達はこちらの馬鹿っぽいやりとりを暫く見た後、一言告げて手を空に掲げた。魔法を放つ予備動作。狙いは勿論クレアと若い男である。数十の魔人が一斉に魔法を放つのだから、大被害不可避である。 


「まずい……貴方達、早くそこから離れて!」


 後方にいた人達の中で、先頭の女性がクレアと若い男に向けて、注意を呼びかける。しかし、今更回避したところで既に詠唱は終わっていて、避けられるとは思えない。それを考慮して、クレアは考える。今出来る、最善策を……。


「しょうがない。貴方の名前知らないけど、取り敢えずあの魔法を弾くよ!」


 目をかっと見開いたクレアは若い男にそう命ずる。


「はぁ!? 主人さんよ。流石にあれだけの数の魔人が魔法を一手に降らしてくるんだぜ? ちょーっと防ぐのは、骨が折れるっつーかさぁ……」


「いいから、防げなかったら私と心中ね。呼び出されて、1分も経たずに退場とか、嫌でしょ?」


「いや退場って、俺そもそも生きてないし……まあ、いい。主人の命令なら承ったぜ」


 クレアと若い男は共に詠唱を……せずに即座に魔法を発動する。


「「いっけー!」」


 薄いバリアのようなものが辺りを取り囲んで、魔人が落とそうとしてある魔法と対峙。そして、魔人達の詠唱は終わり、その手は振り下ろされた。


「無駄ダ。死ネ」


 魔人達は気付いていない。無詠唱で魔法を放つ存在。それが2人もいるということに。殺すことに目を向けすぎた結果だが、無詠唱で魔法を使える者というのは、計り知れない実力を持っている。


 魔人達は力を見誤ったのだ。


 刹那、爆音と共に周囲に物凄い風が吹く。

 2人の張ったバリアのようなものと、魔人が放った攻撃魔法がぶつかり、物凄い力が発生したのだ。バリアの内側にない木々は木っ端微塵になり、凄い砂埃がその場を包んだ。

 何も見えない。

 砂が舞っているせいで、魔人、クレアと男、そして、後方に控えていた人達はピタリと動きを止めた。


「バ、馬鹿ナ……人間如キガ、防ゲルモノジャナイハズダ!」


 驚きに満ち、動揺を隠しきれない魔人に対し、クレアは余裕の笑みを見せつける。


「どうよ!」


 そのドヤ顔を見て、男はにやけながら軽口を叩く。

 

「うわぁ、マジか……俺だけじゃ、アレは防げねぇぞ。流石、俺の主人になるだけのことはあるな」


「貴方も思ったよりも使えるのね」


 二人の談笑は事情を知らない者から見れば、仲の睦まじい兄弟の会話のようであるが、実際にその場にいた面々にしたら、二人の脅威は計り知れないため、その会話を余裕を持って聴いている者は誰一人としていなかった。

 しかし、魔人が絶望的な顔で、後退りしている反面、武装したその人達はある種の希望を抱いたような顔もしていた。

 魔人を人間が圧倒した瞬間を目撃したからだ。


「クソッ、一旦引クシカナイ……」


 魔人達は不利であると理解したからか、森の奥へと敗走を始める。その様子を見逃さなかったのは、後方の人達である。指揮者であると思われる女性が魔人の方へと手を伸ばし、声を上げる。


「奴らを逃すな。狙撃部隊、追撃せよ!」


 その命を聴くと、手慣れた動きで人々の半数が魔人の後を追いかけ始める。残されたのは狙撃部隊なるものに属しているであろう半数の人達と、クレア、そしてクレアが呼び出した若い男だけである。

 若い男は、何やら厄介ごとの気配を察したのか、クレアに一言。


「えと、それじゃあ俺はこの辺で。また用事があったら呼んでくれ」


 短くそう伝えると、クレアの返事も聞かずに颯爽と消えてしまった。いや、正しくは空気中に消え去ったというかんじであるのだが、とにかくクレアは一人その場に残される結果となった。


「まだ名前も聞いてなかったんだけど……」


 しかし、そんなことを愚痴ったところで男には聞こえないし、この後の興味津々な顔でクレアの方を見つめている女性を始めとする人達の対処を一人ですることに変わりはない。


「まったく、今日は厄日以外のなんでもないわね」


 そんなことを一人呟きながら、クレアは後方の人達の方へと向かうのだった。


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