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勇者の隣の一般人  作者: 髭付きだるま
第四章 VS火の魔王編 後編
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第百五話 消えた魔王

 現在激戦が繰り広げられている火の魔王のアジトがある島の近くの町であるヤマカワの町は、朝から凄まじい喧騒に包まれていた。

 まだ太陽も登りきっていない早朝、突如町の中から大勢の人間が移動する音が響き渡り、町の住民は文字通り飛び起きる羽目になった。

 そして恐る恐る家の外に出てきた住民たちが見たものは、町のメインストリートに等間隔で並んでいる馴染みのある町の兵士たちと、彼らに守られたメインストリートを急ぎ足で駆け抜けていく見覚えのない大勢の兵士たちの姿であった。


 初めに町を通っていったのは厳しい顔をした兵士に率いられた人相の悪い集団と現実が理解できていないような顔をした赤と青の集団であった。

 そしてその後に続いていった集団は、彼らも良く知っているこの国の正規兵たちである。

 全員が一糸乱れぬ行軍をし、その士気は高く、その目付きは厳しい。

 まるでこれから戦場に行くような決意に満ちた目をした彼らを見かけた町の住民たちは、突然起こったこの状況を理解出来ずに右往左往してしまう。

 それでもパニックが起きないのは、町の中に多くの兵士たちが配置されているからだろう。

 彼らは日も昇らぬ内から町の中に配備された兵士に何が起きているのかと質問し、兵士たちは現在展開されている作戦内容を町の住民たちへと伝えていく。


 作戦が開始されたら、町の住民たちにも作戦内容を教えても良いと聞かされていた兵士たちは、それぞれ現在起こっていることを説明し、町の住民たちはその時初めて、自分たちが住んでいる町の近くの島に魔王が軍を率いて潜んでいるという事実を知ったのであった。


 しかしその情報を聞いたことで心に生まれた恐怖は、もう1つの情報を聞かされただけであっさりと霧散してしまった。

 魔王を退治するために、現在活動中の4人の勇者がこの町に集結しているというのだ。

 彼らは魔王が近くにいるという恐怖も忘れ、勇者様たちを応援するために街の港へと集結していく。

 そこで彼らの目に映ったのは、朝日が登る中、魔王が潜むという島へと出発してく、1隻の船の姿であった。

 周囲の船からはその船へと向かって歓声が響き渡っている。

 だから町の住民たちもその船に勇者様たちが乗っているのだと判断し、声が枯れるまで応援を続けたのだった。


 やがて船は見えなくなり、町の住民たちは兵士に命じられ、町の広場へと集まっていく。

 そこでこの町の町長直々に、現在この町の近くの島で起こっている戦いの内容が町の住民たちに説明された。

 大河の中洲にある島の1つに隠れ潜んでいた魔王軍に対しての、勇者と軍を使っての奇襲攻撃。

 そして奇襲攻撃という性質上、町の住民たちへの説明も出来ずにこれまで隠していた事の謝罪をされたが、町の住民たちは当然のことだと判断し、町長の決断を支持した。

 彼らは朝早くから始まった島での戦いに思いを馳せながらも、各々普段の暮らしへと戻っていく。

 そんな中で1人の子供が父親へ向かって質問をしていた。


「ねぇ父さん。悪い魔王に勇者様たちは勝てるんだよね」

「当たり前だろう。日が暮れる頃には魔王討伐の祭りが始まってるはずだぜ」

「そっかー。ねぇ父さん。魔王は一体島の何処にいるんだろうね?」

「馬鹿だなお前は、魔王と行ったら魔王城の中にいるって相場が決まっているだろう。王様がお城に住んでいるのと同じくらい当然の話だぜ」

「でも島の中にはお城はないでしょう?」

「おおっそう言えばそうだな。でもあれだ、やっぱり何だかんだで一番奥の方に城っぽい建物を作って暮らしてるんじゃねぇのか?」

「そっかー。ちゃんとしたお城じゃないなら勇者様たちも楽に勝てそうだよね」

「あたぼうよ! さぁ俺たちも朝飯にするぞ!」

「はーい!」


 そんな会話が町のそこかしこで聞こえていたという。

 しかし彼らは想像もしていなかった。

 軍を率いて攻め込んだ島の中、勇者が倒すべき魔王の所在を見失っているなどという状況を。




 倒すべき魔王が何処にいるのか分からない。


 想像もしていなかった事態に直面し、俺たちは全員動きを止めていた。

 この作戦は、相手の準備が整う前に最高速で突撃し、一気に魔王を退治するという奇襲攻撃だ。

 だから俺たちは途中で倒れている味方を見捨ててでも速度を重視してここまでやってきたのである。

 最終的にはその方が味方の損耗が少ないと考えられていたからだ。

 それなのにいるはずの場所に魔王がいない。

 俺たちはこの時点で今回の作戦が失敗したことを理解したのであった。


「理解している場合じゃねぇ! 魔王は? 魔王は一体何処にいるんだよ!!」

「魔王どころか側近の魔族の姿も見当たらないぞ。マンティスと後はバーニング・スネークだったか、奴らは何処へ行ったんだ?」

「周囲に魔力の揺らぎはないよ~、幻覚魔法は使っていないみたいだね~」

「駄目ですね、僕の目でも痕跡が確認できません」

「吾輩もだ、魔族の匂いも気配も感じられん」


 全員揃って周囲を探索するが、魔王の姿は影も形も見当たらない。

 山の向こうからは兵士たちの戦いの音が聞こえてくる。

 こうしている今も彼らは戦い、血を流して倒れているのだ。

 早急に魔王を退治しなければならないというのに、肝心の魔王は一体全体何処にいるというのだろうか。


「いやその前にさ、そもそもどうしてこの場所に魔王がいるって考えたんだ?」


 一通り探索して成果がゼロだった俺たちにゲンが疑問を投げかける。

 いや、どうしてもこうしても何も……


「だって魔王だぞ? 魔王っていえば、一番奥でふんぞり返って勇者を待っているものだろう?」

「何だよそれ。まさかそんな理由で作戦を決めたのか?」

「流石にそんな事はせん。だがこの島は島全体に幻影魔法が張り巡らされていたから事前の諜報活動が出来なかったのでな。半ば当てずっぽうで決めたことは間違いではない」

「当てずっぽうだったのかよ!?」

「それしか方法がなかったとも言う」


 ジェイクの言葉に思わずツッコミを入れてしまった。

 まぁ確かに島の内部に入って確認していたわけではないから、詳しい事は分かっていなかったのだ。

 そもそも事前に調べていたのならば、アジトの砦化も分かっていたはずだからな。


「だが考え方自体は間違っていないはずだ。魔王とは魔族の最高戦力にして、一団を統べる長でもある。それならば最奥でデンと構えているのが当然であろう」

「でも同じ最高戦力である勇者はいつでも最前線にいますよ?」

「勇者は人類の最高戦力ではあるが、統治者ではない。統治者はあくまでも各国政府や王族・国王なのだからな」

「そうか、魔王は兼任しているから強くても外には出てこないのですね」

「その通りだ。だから島の最奥であるこの場所にいるのだと思っていたのだが……」

「あら? そもそもどうしてこの場所が最奥だと分かったのですの?」

「この辺りの島に人は住んではいないが、かつて何度か調査隊が派遣されていてな。島の地形に関しても大雑把ではあるが記述が残っていたのだよ」

「そんなものがあったのですか。ちなみにそこには何と?」

「『島の形は楕円形、北と南に入江があり、しばらく進むと坂道となっている。坂を登れば広い平地があり、平地を見下ろすようにして小高い山が1つ聳え立ち、その裏にもスペースがある』とそんな記述だ」

「そしてここがその裏のスペースだと」

「そういう事だ。地形を考えれば魔王がいる場所はここ以外にないはずだったのだがなぁ」


 ジェイクは首をひねっている。

 何しろここで魔王を見つけられず、再び取り逃がしてしまうと、次の発見がいつになるのか見当もつかないのだ。

 偶然手にしたこの機会、逃がすわけにはいかないのである。


 しかしいくら探しても痕跡すら見つからず、いたずらに時は過ぎていく。

 奇襲自体は成功しているし、魔王も側近も島の中にいることは確認済みだから島内の何処かにはいるはずなのだ。

 だがどれだけ探しても見つけられない。

 ひょっとしたら地下ではないのかと考え、ロックに地面の下に潜ってもらったりもしたが、地面の下には何もないとのことだった。


 このままでは不味い。不味いがどうにもならない。

 誰か知っている者はいないのか。

 と、そこまで考えて、当たり前の解決方法を忘れていたことを思い出した。

 魔王の居所が分からないのならば、知っている奴に聞けば良いのだ。


「ああ、なるほど確かにそうだな。私としたことがうっかりしていた。奇襲という行為に囚われていたな」

「待て待て待てーい! おめぇらそうは言うけれどもな、知っている奴って具体的には誰のことだべさ」

「事前に潜り込んでいた人間はいないのでしょう? 一体誰に聞こうというのですか兄さん」

「んなもんあそこにいるカエルに決まってるだろ」


 俺は山の中腹を指差す。

 そこには先程からサムたち氷の勇者一行と戦っている火の魔王の側近、バーニング・フロッグがいた。

 山の斜面を飛び回り、サムたち相手に善戦しているようだが、細かい傷も増え討伐は時間の問題の様に思える。

 俺は奴に魔王の居場所を問い質すことを提案したのだ。

 魔王の側近である奴が、そう簡単に口を割るとは思えない。

 しかし側近である奴ならば、魔王の居場所を必ず知っているはずなのだ。

 そもそもこの場でウロウロしていても状況が好転しないのならば、次善の策へと移ったほうが良い。

 俺は皆にこのことを提案し、全員揃って了承したのであった。


 そうして俺たちは山の裏側からサムたちが戦っている巨大毒ガエルへと近づいて行った。

 この山は登りやすい角度の付いた三角型の山になっており、サムたちは山の斜面の反対側で魔王の側近相手に戦いを繰り広げている。

 俺たちはゆっくりと彼らに近づき、カエルへと奇襲を掛ける機会を伺っていた。


 そしてその時が訪れた。

 俺たちに対して完全に後ろを向いたカエルは、サムたちを一旦遠くへと弾き飛ばしてから、海に向かってその長い舌を伸ばしていく。

 恐らくは例の船舶落としを行おうとしているのであろうが、それこそ正に絶好の機会だ。

 古今東西、攻撃を行うタイミングこそが、最も無防備な瞬間なのだから。

 俺たちは奴がサムたちへ船を叩きつけるタイミングに合わせて、奴に襲いかかるつもりであった。


 奴の舌が戻ってくる。

 その舌には1隻の船が巻き取られている。

 先程までの船とはカラーリングが違う、これは朱雀の国の船ではなく、俺たち玄武の国の船のようだ。

 カエルはその船を高く振り上げて、サムたちへと叩きつけようとする。

 その時、船の端がピカッと光った。

 見覚えのある光り方だった。

 ここしばらく散々浴びてきた光を見た俺たちは一斉に顔を上げた。

 空を舞う船の端ではシャインが発光しており、そのすぐ近くではハヤテとデンデが船の柵に必死の形相でしがみついていた。

 事態に気がついたテルゾウ殿と老師が、船に向かって突っ込んでいく。

 俺たちもそれに続こうとして、しかし2人以外のメンバーは動きを止めた。


 空に舞う船から照らされた光。

 その光は周囲を眩しく照らし出す。

 そしてその光は有り得ないものをも照らし出した。

 俺たちの視線の先。

 空に舞う船のその先に、小高い山の影が見えたのだ。

 しかしそれはおかしい。

 先程ジェイクはこう言っていた。

 島の形についてこう言っていたのだ。


『島の形は楕円形、北と南に入江があり、しばらく進むと坂道となっている。坂を登れば広い平地があり、平地を見下ろすようにして小高い山が1つ聳え立ち、その裏にもスペースがある』


 『小高い山が1つ聳え立ち』

 ジェイクは確かにそう説明していた。

 俺たちが立っているのはその小高い山の中腹だ。

 しかしシャインの発する光は、平地の反対側にも山があると証明している。

 これに気づいたその瞬間、俺は罠に嵌められていたことに気がついたのであった。


「全員今すぐ山から降りろ!!」


 そう言ったか言わないかのタイミングだったと思う。

 目の前のこれまで隠されてきた山の中腹から、こちらに向かって高速で小さな火の玉が飛んできたのだ。

 それは一直線にテルゾウ殿へと向かっていき、彼を下の戦場へと弾き飛ばした。

 そして人類最強の勇者を弾き飛ばしたその火の玉はこちらの山へと着弾、いや『着地』する。

 そして火の玉が着地するとすぐに、こちらの山も上から下まで全て炎で覆われた。


 いや、『これは山ではない』。

 山の形に擬態していた何か巨大なものがその本性を表したにすぎないのだ。

 俺たちは魔王軍に奇襲攻撃を仕掛け、先手を取ったつもりでいたが、まんまと罠にハマっていたのである。


 不気味に蠢き、その体の表面から火を吹き出した巨大な生物の体の上から転がり落ちていく中、俺たちはその事実を噛み締めていたのであった。

諸事情により暫く更新を停止致します。

12月中旬から再開の予定です。

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