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どれくらい時間が経ったのだろうか。
処刑されると宣告されてから、ずっと今までの人生を振り返っていた。
あのときああしてたら、こうしてたら、うまくやれたんじゃないか。
そんなたらればの話ばかり。
足音がする。
4、5人ぐらいの。
国王と兵士が僕の牢屋の前に現れた。
もう、時間なのか。
「目隠しをし、腕に縄をかけろ」
国王がそう言うと、兵士が布で目隠しをし、縄で僕の両手首をきつく結んだ。
僕は、もう何も考えられなかった。
終わるしかない、希望のない状況ってあるんだ。
緊張も恐怖もなかった。
僕の両手首を縛った縄は、僕を引っ張れるように片側が伸びている。
それを引っ張られ、歩かされる。
処刑場、だよな。
断頭台、かな。
兵士に首を切られるのかな。
五分ほど歩いただろうか。
いつの間にか外に出たようで、頬を風がくすぐった。
そして、階段を登らされる。
結構高い。
4、50段はある気がする。
「着いたぞ、人間。ここが貴様を処刑する場所だ」
「…」
「ずっとだんまりか。ならば、最後に思い残すこともなかろう」
「クルト!クルトがいるのか!?」
リィム王女の声がした。
近くにいるみたいだ。
「くっ!目隠しと縄を外せ!!」
「ならん、今のお前を自由にさせるわけにはいかん」
「愛した男の最後くらい、見届けさせてくれないのか!?」
どうやら僕と同じ状況にされているらしい。
処刑されるわけでもないのに。
僕を助けないようにするため、なのだろうか。
「私も殺せ!!クルトのいない人生なんか、私には意味がないし、何の価値もない!!
今の私があるのはクルトがいたからだ!!」
リィム王女の叫び声が響く。
「リィム、この人間がいないとお前の人生には価値がないのか?」
「当たり前だ!!クルトを愛したからこそ、剣も作法も頑張れたのだ!!クルトに…愛してもらえるように…!!」
「そうか、なら」
「結婚しちゃおっか?」
「へ!?」
「え!?」
国王の突然の言葉に、僕とリィム王女は同時に素っ頓狂な声をあげた。
「もう良いぞ!クルト王子とリィムの拘束を解け!!」
王が言うと、腕の縄と目隠しが外される。
目に飛び込んできた景色は
城のバルコニーだろうか。
王が国民に対して演説とかするようなところ。
ちょうど手すりの前にいたので、下を覗くと、エルフの国民がみな僕らを見上げていた。
ものすごい笑顔で!!
エルフ国王の方を向くと、ものすごい笑顔で。
リィム王女の方を向くと、ものすごい驚いた顔で。
「ドッキリ大成功!!…なんちゃって!!」
国王がそう言った瞬間、ものすごい歓声が響き渡った!!
「クルト王子ー!!」
「リィム王女万歳!!」
「エルフ王万歳!!」
そんな声が聞こえてくる。
僕はまだ思考が定まっていなかった。
え?
ドッキリって、なに?
「ちーちーうーえー!!」
ものすごい形相でエルフ王を睨む、リィム王女。
「リィム、そんな顔してると大好きなクルト王子に嫌われてしまうぞ」
「だ れ の せ い で、この顔になってると思います!?」
「誰であろうか…ヘクターか?」
「っ~~~!!!!」
リィム王女は、悔しいという感じで地団駄を踏んでいる。
「いやぁまさかこんなに綺麗に引っ掛かるとは思わなかったよ」
ヘクターが現れる。
相変わらずイケメンだ。
「姉上、すまない。父上がどうしてもやりたいというから…」
「ヘクター!!国民も巻き込んで、来客であるクルトも巻き込んで、いったいどういうつもりだ!!」
「いや、だから父上が…」
怒り心頭のリィム王女は、止まりそうにもない。
やれやれ、と笑顔のエルフ王が口を開く。
「リィムよ、お前がクルト王子のために頑張ってきたのは皆知っておる。その可愛い娘から愛する男を連れて帰ってくると言われれば、それは盛大な迎え方をせねばと思ったのだ」
「盛大なドッキリで私が喜ぶと思ったのか、父上!!」
「最後まで聞きなさい。どうやって迎えようか考えていた時に、アイネリア女王から届いたのだ」
「それから!?」
「手紙には、「こんなお願いをするのは心苦しいが、クルト王子を楽しませてやってくれないか。今まで女王制のために苦しい生活をしてきから。クルト王子がリィムを気に入ったら婿養子にしてやってください☆…とな」
ヒャッヒャッヒャ、と心底楽しそうにエルフ王は笑った。
「アイネリアの女王とは付き合いが長い。手紙と一緒にわしが好きな酒を10樽も送ってきおって!もうね、やるしかないと、ね☆」
「ね☆ …ではない!!私がどれだけの思いをしたか父上にはわからぬであろう!!」
「だが、思いの強さをみなに知らしめることができた。わしも再確認した。お前の想いの強さを」
「ち、父上…」
「私の後を継ぐのはヘクターだ。女のお前は、女としての充実した人生を送れ。それがわしの願いだ」
「う、うぅ…父上…!!」
「泣くでない、リィム。大好きなクルト王子が見ているぞ」
リィム王女はエルフ王にしがみつき、泣きはじめた。
美しい親子愛だ!感動するなぁ!!
僕は自然と拍手をしていた。
そらがヘクターに伝わり、兵士に伝わり、エルフ女王に伝わり、国民に伝わった!!
また、ものすごい歓声が響き渡った!!
しばらくして歓声も収まり、リィム王女も落ち着いた。
リィム王女は顔を上げた。
「そういえばヘクター、クルトを蹴り飛ばしたよな」
「あぁ、あれはでも怪我しないように蹴ったよ。台本通りに」
「他人を蹴った奴は自分が蹴られても文句ないよな」
「ははは、姉上、やだなぁ。蹴られて喜ぶのはそういう性癖の人たちだけだよ?」
ヘクターは言い終わると同時に、凄まじい蹴りをリィム王女から食らった。
倒れたヘクターが動かなくなった。
「母上は、クルトに一服持った」
「あれすごいのよ、リィム!先日、人間の薬師から買ったもので、温度管理をしっかりしないと効果が出ない、悪用できないやつなのよ!はい、これリィムの分!クルト王子が喉渇いた時に使いなさい!使い方のメモはこれね!」
「ありがとう、母上」
エルフ女王はおとがめなしのようだ。
「この扱いの差は一体・・・」と倒れているヘクターから聞こえてきた気がしたが、気のせいだと思う。




