55
アイネリアから二日かかると言っていたから、今日はどこかの村に泊るのだろうか。
それとも夜通し馬車を走らせるのだろうか。
いや、馬が持たないか。
「さて、そろそろ夜が近いな」
「そうですね・・・どこかの村に泊まるのですか?」
「あぁ。ちょうどこの近くの森にエルフの村がある。今日はそこで一泊だ。」
「なるほど」
リィム隊長によると、ある程度大きい森の中にはエルフの村が必ずあるらしい。
しかし誰でも入れるわけではなくて、通常はエルフのみにしか入れないように魔法がかけられているらしい。
普通の人間には絶対にたどり着けないのか・・・
ほどなくして森の中に入り、気がつくとエルフの村の前だった。
結界をくぐるとかするのかな?と思ったけど、何事もなくスッと着いた。
本当に魔法がかかっているのか不思議なくらいだった。
宿に着き、馬車を走らせていたエルフの男女が手続きをしている。
どうやら部屋は・・・
エルフの男女以外は、別々のようだった。
良かった!!
なんとなく良かった!!
「クルトと別の部屋になってしまうのが寂しいが、仕方がない」
「はは・・・」
「お互い王族だからな。私も従わざるをえない」
食事も部屋食で別々、お風呂はもちろん男女別。
ゆっくりした時間を過ごしていたが、リィム隊長の乱入などもなく、平和に時間は過ぎていった。
森の中にあるエルフの村。
すごく静かで、厳かで、心が休まる。
寝る前に、少し外に出てみようと思った。
フロントのエルフの人は快く送り出してくれた。
人間にも優しいんだな。
リィム隊長と一緒だからかな。
王女だもんな。
もうみんな寝てる時間なのかな。
すごく静かで、木々の隙間から覗く月の明かりだけが、村を照らしていた。
僕は民家を避け、小道に向かっていった。
森の中、か。
トモエ隊長と双子のマリアさんに会いに行ったとき以来だな。
ちょうど良い高さの切り株があったため、そこに腰掛ける。
マリアさん、元気かな・・・
ぼーっとしていると、ふいに後ろから優しく、ふわりと抱きつかれた。
僕は少し驚いて顔を上げながら後ろを見る。
「リィム隊長・・・」
「驚かせてしまってすまない。クルトが、寂しそうに見えたものだから」
「僕が、寂しい?」
「クルトが外に出ていったと従者から伝えられたものでな。この村の中なら安全だろうが、ちょっと不安になってな。追いかけてきてしまったよ」
ふふ、と笑うリィム隊長は風呂上りなのか、良い匂いがふわっと香る。
「寂しかったのは、私なのかもしれないな」
「寂しい・・・のですか?」
「あぁ。部屋割りにしろ、食事にしろ、風呂にしろ、私は全部クルトと一緒で構わないと思っていた。だが従者たちは「今はまだいけません!」と頑なに譲らなかった。よくできた部下たちだよ」
「ははは・・・」
スキャンダルにならないように、とのことだろう。
僕みたいなハリボテ王子だとしても、なるのかな。
僕と関係を持った国に対して、戦争を仕掛けるなんてことには絶対ならない気がするけど。
むしろ早く引き取れとか、婿養子にしてくれたらむしろ金を払おうなんてことしそうだけど。
審議会の人たちは・・・ね。
「クルトは私が抱きついてもあまり驚かなかったな」
「え?」
「昼間、胸に手を当てさせたときは良い反応だったのだが、今私が抱きついたときはそれほど驚かなかった気がする」
「い、いや、驚きましたよ」
「女性に免疫があまり無いと踏んでいたのだが・・・思ったより慣れていそうだな、クルト」
ふふん、とニヒルな笑みを口に浮かべる。
横顔が本当に綺麗だな、リィム隊長は。
「トモエ殿、か」
「はい!?」
「同じ女だ。分かるよ。トモエ殿の目を見れば」
「え、えーっと・・・」
「トモエ殿は素晴らしい女性だ。統率力、実力、容姿、立ち居振る舞い、男を見る目、全てパーフェクトだ」
男を見る目、って・・・
僕のこと・・・なのかな・・・
「私より胸だって大きいし」
「・・・」
「今回の研修で絶対に意識させてやるからな」
覚悟しておけ、と最後に囁かれた。
唇は耳に触れていた。
ぞくっとした。
でも、嫌じゃなかった。
その後、一緒に宿屋まで帰った。
リィム隊長から自然に手を繋がれて歩いた。
リィム隊長は楽しそうだった。




