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ベッドに腰掛け、トモエ隊長に寄りかかられている。
「差し支えなければ、リイム隊長とのことを教えてもらいたいのだが」
「・・・いいですよ」
僕は、プリンセスガードのことを知っているトモエ隊長には話しても良いのでは、と判断した。
・・・(説明中)
「なるほどな。リイム隊長はエルフの国の王族かと思っていたが、まさか王女とは」
「僕も驚きました」
「そして、クルトが悲しい目をしていた時期から好いていたとは・・・中々に見る目がある」
「・・・」
「別にお前を蔑んでいる訳ではないぞ。クルトには、人をひきつける何かがある」
言いながら、僕の腕をぎゅっと強く抱く。
恋人同士のような雰囲気が、何だか出ている気がする。
「しかし、プリンセスガードの技術試験の相手が、リイム隊長か・・・一筋縄ではいかないぞ」
「ですよね・・・」
「今日、リイム隊長とクルトとの手合わせを見ていたが、かなりの剣の使い手だ。とても始めて5年とは思えない」
「・・・」
トモエ隊長は、僕と腕を組んでいない方の手を、顎にあてて「んー」と唸った。
僕に抱きついているのに、真剣に思案しているトモエ隊長のギャップが、少し可愛いと思ってしまった。
「勝てばプリンセスガード、負ければリイム隊長のプリンセスガード、か・・・」
「いや、負けた後のことは僕が望めばのことですから」
「そうか。いや、でも半ば強制的にエルフの国に連行されるような気がしてならない」
「まさか・・・」
「結婚を申し込むほどの相手だ。ちょっとやそっとのことじゃ、折れないであろう」
それ、と小さく掛け声をかけたトモエ隊長は、僕を優しく押し倒した。
そのまま僕に覆いかぶさる。
「こんなことを言ってはいけないのだろうが、負けた後、私と私の故郷に帰るという選択肢はどうだろうか」
「トモエ隊長と、故郷に?」
「そうだ。クルトさえ望めば、私は力ずくだろうが、エルフの国の軍隊が襲って来ようが、お前を私の故郷にに連れて帰る」
「そんな・・・トモエ隊長に迷惑が・・・」
「私には、お前と一緒にいれなくなることの方が迷惑だ」
トモエ隊長は、僕の片手をとり、そっと自分の胸に押し当てた。
僕は一瞬、手を離そうとしたが、トモエ隊長の手に阻まれた。
「少しぐらい、良いではないか」
「それはどっちかというと男のセリフなんじゃ・・・」
「お前を繋ぎ止めたい。だが、まだ王族なのだ。軽はずみなキスや性行為はしてはならない」
「規律、ですか」
「今まで散々押し倒したり、押し倒されたりして何も無かったが、そういうことだ」
今までの未遂のことは、トモエ隊長がしっかりブレーキをかけていたということか。
誘惑じみたこともあった気がするけど・・・
さすが、トモエ隊長だ。
「しかし、互いの性器を触りあったり、姦通しなければ性行為ではない、接吻をしなければキスではない。胸を触るくらい、どうってことないのだ」
「・・・僕にはどうってことあることなのですが」
「ふふ。お前の憤りを静めることはできないのがもどかしいな」
「・・・」
トモエ隊長の胸に当てている手は、動かしていない。
動かしてはいけない。
きっと、動かしたらその先に行ってしまいそうだから。
「本当は以前のように揉みしだいてもらいたい。だが、今の私の気持ちはそれを許してしまったら、暴走してしまいそうな気もする。だから、これだけで許してくれないか」
「はい・・・」
「すまないな、男のクルトには生き地獄だな」
トモエ隊長は微笑んだ。
生き地獄にされている僕に対して微笑むなんて、それこそ地獄だ。
でも、こんなにも女性を感じることも前の生活じゃなかったことだ。
・・・今が人生の絶頂期だったりしてね。
「それはそうと、エルフの国に行くのだな」
「えぇ。リイム隊長が帰るときに一緒に」
「ふむ。私も同行できれば一番良いのだが。違う国の軍も見たいし、リイム隊長がクルトに何かしないように牽制もしたいし」
「・・・」
「現在のエルフは魔法は使わないらしいのだが、エルフの国に足を踏み入れる人間などごく僅かだ。100パーセント信頼できる事実ではない」
エルフの国は人間との共存を進めているとい言っているが、現在は行商人やごく一部の王族などしか出入りしていない。
元々、エルフは人間と一線を引いて、エルフ一族でのみ生活してきた種族だ。
エルフの国は深い森の中にあるというが、一般の人間には到達できない仕組みになっているらしい。
・・・って、トモエ隊長が教えてくれた。
「あの美しさだけでも魔法並みだというのに。さらに魅惑の魔法でもかけられたら、人間では一たまりもないな」
「女性からでも美しいと感じるほど、エルフは美形なんですね」
「あぁ。ただ耳が長いってわけではないな。種族の違いが、これほどまでとは思ってもいなかったよ」
トモエ隊長は胸に当てている僕の手を離し、抱きついてきた。
耳元に、トモエ隊長の息が当たる。
こそばゆい感覚と、トモエ隊長の体温を感じた。
「お前は私を綺麗だと、見とれてしまったと以前言っていたな」
「はい」
「私とリイム隊長、お前はどちらが綺麗だと思っている?」
「え!?」
「・・・意地悪な質問だったな。だが、答えて欲しい」
トモエ隊長の手が、僕の頬を撫でる。
「・・・正直に言いますと。どちらも美しいと思っています」
「ほう」
「リイム隊長は見た目の美しさもそうですが、まだ知り合ったばかりで、心の中は分かりません。でも、トモエ隊長とはこうしてプライベートでも懇意にして頂いて、考え方や振る舞いなど、心が綺麗だということが分かっています」
「・・・」
「僕にはまだ、女性の好みというのが無いので、自分の感情だけで判断するというのが分かりません。だから、どちらも美しいですが、トモエ隊長は心も美しいと思っています」
僕の頬を撫でていたトモエ隊長の手が止まる。
失言してしまったかと僕は思った。
「なぜ、お前は私が嬉しくなるようなことばかり言うのだ」
「トモエ隊長・・・」
「私の心なんて、綺麗でもなんでもないと自分では思っていた。けど、クルトが綺麗だというのなら、クルトに綺麗だと思ってもらえるなら、それでいいと思った」
「・・・」
「どちらが綺麗か、という答えにはなっていないが。私は嬉しい。ありがとう、クルト」
ぎゅぎゅーっと強く抱きつかれる。
一瞬、息ができなくなりそうだったが、トモエ隊長はすぐに力加減をしてくれた。
「今日はここで寝る。朝まで、互いの温もりを感じていよう」
「はい」
「ふふ。テレーズにお泊りされたのだから、私もだ。酒臭くて申し訳ないが」
「そんなことありません。トモエ隊長はいつも良い匂いです」
横向きになり、トモエ隊長の胸に顔を埋めた僕は息を吸い込む。
トモエ隊長は少しみじろぎをした。
「匂いなんて、なんだか恥ずかしいな・・・そういえば恥ずかしいなんて感情も久しく感じていなかったことだ」
「良い兆候なのでは」
「そうだな。私はクルトに女としての大切なことを学んでいる気がするよ」
トモエ隊長は優しく僕の頭を撫でてくれる。
自分からトモエ隊長の胸に顔を埋めたことに、今更ながら驚いているが、この感触はすごく安心する。
顔をこすりつけると、トモエ隊長は「ふふ」と嬉しそうに一層僕の頭をやさしく撫でてくれた。
「さぁ、明日も訓練だ。このまま眠ろう」
「はい。トモエ隊長、おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ。私はどこにもいかないからな」
目を閉じると、さらにトモエ隊長の温もりを感じた。
「良い夢を」というトモエ隊長の言葉が聞こえたかどうかわからないうちに、僕は眠りに落ちていた。
・・・そういえば、「私はどこにもいかない」というトモエ隊長の言葉は、母上にも言われたことだった。
僕の味方だと、信じていいのかな・・・
心を預けても、いいのかな・・・




