24
次の日。
食堂でジェシカさんとテレーズさんに会った。
「あ・・・ク、クルト・・・お・・・おは」
「クルちゃん~、おはよう~」
「て、テレーズ・・・!!!アンタ何普通に挨拶してんのよ!!!」
「え~?だって、朝だし~」
「もーーーー!!!」
「あの・・・ジェシカさん、テレーズさん、おはようございます!」
「えっと・・・!!あの・・・!!昨日はごめん!!!!」
いきなり、がばっとジェシカさんは僕に頭を下げた。
食堂の中だったため、ちょっと周りからの注目を集めた。
「あ、その、ジェシカさん!別に謝られることなんて・・・」
「あ、アタシたちもハメを外しすぎたっていうか・・・なんていうか・・・!!!」
「まさかクルちゃんに~・・・えへへ~・・・」
「も、もう、お互い忘れましょう!」
「・・・・うーん・・・でも綺麗さっぱり忘れられるっていうのも・・・」
「クルちゃん~?わたし~、お嫁にいけなくなっちゃったかも~?」
「テレーズ・・・アンタ・・・・アタシが素直にクルトに謝っているってのに・・・・!!!」
「きゃあ~、ジェシカが怒った~!」
と、いつものような展開でなぁなぁになった。
うん。
きっとテレーズさんなりに、気を使ったのだろう。
多分。
「おう、クルト・・・おはよう」
「ベアさん!おはようございます!」
「昨日は・・・すまなかったなボソ」
「いえ・・・いいんです。血を見るようなことが無かっただけ、良かったです!」
「今度うまいもんでもおごってやるからなボソ」
「あら、ベアじゃないの・・・どの面下げてアタシの前にいるんだ!?えぇ!?」
「く、くくく、クルト!昨日のジェシカとテレーズはどうだったんだ?」
「はい!とても綺麗でした!」
「ヴぇ!?」
「ヴぇ~?」
ベアさんに聞かれたことに、素直に答えたら、時が止まった。
あれ?
そして、ベアさんはしてやったり的な顔になった。
「ほほう・・・3人で一体何をしていたんだ?ん?」
「ふ、ふん!ベアには関係ないし!」
「ないし~!」
「あら?・・・いつもだったらここから盛り上がる展開のような気がしたんだが・・・」
「いつまでもベアにからかわれてばかりじゃ、余計な疲れがたまっちゃうからねー」
「ベアの~、ば~か~!」
「お!テレーズいいこと言った!ばーか!ばーか!」
「・・・でも、精神年齢は低いままなのかよ・・・」
いつもの展開でも、少し違う展開。
そういった人間のコミュニケーションっていうのは、すごくおもしろいと思う。
僕は相変わらず、こういうときって黙って立ちすくんじゃうんだけどね。
経験不足かなぁ。
そして、うやむやになったころから朝食を食べ始めた。
みんな、いつも通りになっていた。
これが大人ってやつなのかなぁ。
朝食を食べ終え、食堂を出るときに、歩きながら急にジェシカさんが接近してきた。
「あのさ、クルト・・・ありがとうね」
「え・・・?何がですか?」
「アタシとテレーズのこと!・・・綺麗だったって言われて・・・嬉しかったよ」
「あの、僕は自分が感じたことをそのまま言っただけですから・・・あの状況じゃ、本当なら言わない方が良かった・・・ですよね?」
「んーん・・・いいの。クルトは素直だから、そういうの絶対言っちゃうしさ!」
「でも・・・」
「いいんだって!そのおかげでアタシたちは綺麗だって、本音で言われて、嬉しかったんだからさ!」
「はい・・・」
「うん!ホント・・・また、アタシたちの部屋に遊びに来てね?」
「はい!」
「じゃ、またあとでね!」っと、ジェシカさんは僕から離れていった。
テレーズさんに追いついて、何を話していたのか聞かれているけど、なんとかごまかしているみたいだった。
でも、本当にジェシカさんとテレーズさんは綺麗だったんだよな・・・
家族でない女性の下着姿とはいえ、裸を見たんだよな・・・
いかんいかん!
煩悩よ消え去れ!
それから、ジェシカさんたち3人と絆を深めながら、日々は過ぎていった。
相変わらず、孤独な筋トレの日々が続いたけど、3人に励まされたり、リムのことを思って頑張っていると、あっという間だった。
入隊してから、ちょうど一ヶ月が経った日。
「よし、今日の訓練はここまでだ」
「「「はい!!」」」
トモエ隊長の号令で、隊員はみな訓練の手を止めた。
「ん・・・?ジェシカ、クルトはどこだ?」
「クルトなら、いつものところでまだ筋トレやってますよ?」
「ふむ・・・」
「クルちゃん~、いつも頑張ってるよね~」
「俺なんか、トモエ隊長の号令が聞こえたらすぐ止めていたけどな」
ベアさんの言葉に、他の団員もうんうん、と頷く。
「ちょっとベア、クルトをアンタと同じように考えないでよね!4ヶ月も筋トレしていたアンタと!」
「おいおい・・・手厳しいなぁ・・・」
ジェシカの言葉に、団員はみな笑っていた。
「はぁ・・・はぁ・・・」
僕は、そんなことが起こっていることなんて知らずに筋トレを続けていた。
筋トレを始めたときから、いつもそうだ。
リムのことを考えてやっていると、自然と集中してしまって、熱中してしまっていた。
「クルト」
「はぁはぁ・・・あ、は、はい!」
「今日の訓練は終わりだ、もう上がれ」
「はい!」
こうやって、トモエ隊長に声をかけられて僕の一日は終わる。
トモエ隊長は僕に声をかけたら、そのまま背を向けて去っていく。
・・・はずだったんだけど。
「なぁ、クルト。ちょっと、いいか?」
「え・・・。あ、はい!」
「ん、いや、ここで話すのもなんだな。夜のミーティングが終わったら、私の部屋に来い」
「・・・・・」
「いいな?」
「は、はい。ではミーティング後にトモエ隊長の部屋に伺わせていただきます!」
「よし、では、また後でな」
トモエ隊長は終始顔色を変えず、そのまま去っていった。
これって・・・呼び出しってやつだよね・・・
僕・・・なんか変なことしたかな・・・
知らないうちに、団員の規則とか破っていたのかな・・・
トモエ隊長が去ったあと、すぐにジェシカさんたちが僕のところにきた。
「クルト!トモエ隊長と何話していたの?・・・あのトモエ隊長と珍しく長く話していたみたいだけど・・・」
「いや、あの・・・なんでもないです」
「む~、クルちゃんがなんでもないって言うときは~、絶対何かあるときだよ~」
「大方・・・呼び出しでもくらったんじゃないのか?」
「(どきっ)」
「あ、図星だ。クルトは分かりやすいねー!」
「でも~、クルちゃん~、何か悪いこととかした~?してないよね~?」
「・・・うーん、まぁ真面目すぎるっていうのが、ちょっと気になるくらいだな」
「真面目の何が悪い!アタシは逆立ちしたって真面目すぎる人間になんてなれないよ!」
「そうだね~」
「そうだな」
「・・・」
「だ、誰か否定してくれよーーー!!!」
と、いつものドタバタで話は進んでいったが。
最後にジェシカさんは、「トモエ隊長には聞かれたことに素直に答えるのがいいよ。下手に嘘つくと、すぐ見破られてげんこつトリプルヒットだからね!」と言っていた。
でもベアさんとテレーズさんはそのことについて、「普通、嘘なんてつかないだろ・・・げんこつくらうのはジェシカくらいだ」と語っていた。
もちろん、それを聞いたジェシカさんは、しどろもどろでむきー!ってなっていたけど・・・
ミーティング後。
トモエ隊長の私室前。
僕は若干の緊張を感じながら、扉をノックする。
「クルトです」
「おお、開いているから入れ」
「失礼します」
それにしても、執務室じゃなくて、私室に呼び出すってのは・・・どういうことなんだろう。
そりゃ隊長を務めるぐらいになれば、個人の執務室を持つことになる。
大体、何かあるときにはそこに呼び出すのが当たり前だったんだけど・・・
なんで、だろう。
部屋に入ると、僕ら一般団員よりちょっと豪華な感じだった。
1部屋しかない一般団員からすると、3部屋ある広さは少しうらやましかった。
トモエ隊長からソファに座っていた。
その格好も、いつもの騎士団員の鎧や服ではなく、寝巻きと思われる服装だった。
ちょっと透けていたりして・・・変な感情を抱きそうになった。
トモエ隊長は・・・やっぱり美人だし・・・胸も大きいし・・・
ワインを飲んでいたらしく、グラスを片手に持っていた。
くいっっと、グラスに残っていたのを飲み干すと、対面のソファに座るように指示された。
「すまんな、クルト。急に呼び出す形になってしまって」
「いえ!」
「ふふ・・・これがあのクルト王子とは思えないな」
「・・・え?」
「いや、悪い意味で言ったんじゃない。私は・・・お前が小さい頃から知っているからな・・・」
「・・・」
「お前だって・・・私がこの騎士団に入隊した頃のことを知っているはずだ」
プライベートである空間であることと、ワインを飲んでいて少しほろ酔いということもあるのだろう。
少しくだけた感じのトモエ隊長に、僕は違和感を抱かざるをえなかった。
「たまに・・・ふらっと訓練場とかに来たこともあっただろう?」
「はい・・・」
「でも・・・王子だったときのお前の目は、正直、私の目から見ると、とても悲しい目だった。生きているのか、死んでいるのか、分からなかった」
「・・・」
「それが、いきなり騎士団に入隊してきて、私の隊に配属されて・・・正直最初はとまどった面もあった。だが、お前は私の指示通りに・・・今でも筋トレをやっている」
「・・・」
「お前の目は今・・・輝き始めているな。何がそうさせたのかは分からない・・・きっと女王制に対する何かを始めようとしていることぐらいしか詮索できんからな」
饒舌すぎる、と僕は思った。
いつもなら要点だけをピシャリと言って終わる会話が常なのが、トモエ隊長だ。
いくらプライベートとはいえ、酒が入っているとはいえ、なんだか人情話に傾いている気がした。
「おっと、すまんな・・・どうにも歳を取ると話が回りくどくなってしまう」
「い、いえ!」
「私だって・・・プライベートでくらい、いつもとギャップがあったっていいだろう?・・・大方、普段は鉄面皮だの、鋼鉄女だの、女にとってはよろしくない敬称で言われているのだろうが」
「・・・そんなことはありません!トモエ隊長は、3番隊の隊員・・・いえ、全隊員から絶大な支持を受けています!」
「ふふ・・・ありがとう。お前の目は嘘をついていないな」
「・・・はい!」
「ん・・・また話が脱線してしまったな・・・。なぁ、クルト。私が何を言いたいかというとだな」
「お前のことが・・・心配でしょうがないんだ・・・いきなり環境の違うところに入って、がむしゃらに頑張るのは分かる・・・お前にしか分からない事情だってあるのは分かる・・・だがな・・・小さい頃から、あの目をしていたお前を見てきた私からすると・・・それはとても脆くて、はかないものだと感じてしまうんだ」
「・・・」
「王族の辛さなんて私には分からない・・・所詮、一介の使われる身であるから。辛いんだろうな、そういう類の同情心しか生まれない・・・だがな、お前の境遇や王族の規律や態度から考えると・・・どうしても・・・今のお前が心配でたまらなくなってしまうのだ。いきなり壊れてしまってもおかしくない」
「・・・トモエ隊長。自分は、騎士団に入って、やっと人間としてのスタートラインに立ったと思っています!自分の意思で、自分の力でやっていこう、そう思えたんです!」
「クルト・・・」
「自分の境遇に同情してくれる人もいますが、王子なのに関係なく接してくれている騎士団のみなさん・・・もちろん、トモエ隊長もそうです!みんな、一人の人間として見てくれている、そんな気がするんです!今・・・自分は・・・すごく嬉しいんです!」
「・・・クルト」
「辛くても・・・今はやらなくてはいけないんです!できるところまで・・・いや、成功を掴まないといけないんです!」
トモエ隊長の心配そうな顔を見てしまって、僕も感情が爆発してしまった。
自分以外の人間が、悲しい表情をしていることを・・・どうしても変えたくなってしまった。
「そうか・・・クルトの気持ちは分かった・・・いや、この騎士団に入って1ヶ月いられたってことは、相当な信念あるってことぐらい、分かっていたはずなのに」
「トモエ隊長・・・」
「よし、ではこれからも精進するように。1ヶ月いられたからといって、これからずっといられるとは限らないんだ。筋トレの日々から抜け出したいのなら、早く体を作るんだな」
「はい!」
「明日からも、変わらず厳しくいくからな・・・。おっと、その前に、ちょっとこっちに来てくれないか?」
安堵感を覚えた僕だったが、トモエ隊長に呼ばれたため、近くにいった。
トモエ隊長も立ち上がった。
「少しだけ、いいか」
「え・・・?」
トモエ隊長は、ぎゅっ、と僕の顔を胸に抱いた。
突然のことで、僕は身動きが取れなかった。
「勘違いするな・・・誰にでもこういうことをやっている訳ではない・・・」
「・・・は、はい」
「あの王子が・・・ここまで成長しているとは・・・私は・・・嬉しい・・・生きる目を持ってくれたことが・・・嬉しい・・・」
「・・・トモエ・・・隊長・・・」
「大きくなったな・・・クルト・・・」
トモエ隊長は僕より背が大きいため、胸に抱きしめられても割と自然な姿勢でいられた。
母上は僕と同じくらいの身長だからな・・・
でも・・・トモエ隊長の胸・・・すごく大きくて・・・柔らかくて・・・いい匂いがして・・・暖かい・・・
「ふふ・・・その安心した顔を見ると・・・なんだか違う感情が生まれてしまうな・・・お前は・・・甘えることを知らなかったんだな・・・」
「・・・」
「お前ももう16歳・・・男だ・・・軽々しくこんなことをしてはいけないと思うが・・・許してくれ。・・・たまに、プライベートでお前を呼んでもいいか・・・?」
「・・・えぇ?」
「良き姉、良き年上の人生経験者として、お前を見守りたいんだ・・・だめか?」
「いえ・・・」
「そうか・・・だが騎士団の任務中は、厳しくいくからな・・・だが、たまのプライベートでは、な・・・普通の甘えを知らないお前のために・・・甘えさせてやろう」
「・・・トモエ隊長・・・」
「私も・・・27歳になっても独り身だ・・・少し寂しいという感情も人並みに持っている・・・お前さえ良ければ、なんでも教えてやってもいいんだぞ・・・?」
「・・・な、なんでも・・・」
「こんなこと・・・お前にしかしないんだからな・・・王子であったお前だから・・・私は・・・」
さらに、ぎゅうっと少し強めにトモエ隊長は抱きしめてきた。
僕からは抱きしめられない・・・
プライベートとはいえ、上司・・・だし。
でも・・・トモエ隊長の複雑な心境は、僕には理解できなかった。
それから、トモエ隊長に解放された僕は、自室に戻ってきた。
まだ、体にはトモエ隊長の感触が残っている。
あの、任務中にはみんなが恐れるトモエ隊長から・・・抱きしめられるなんて・・・
そして、小さい頃の自分を知っていたなんて・・・
僕は・・・トモエ隊長のことなんて、父上から言われるまで名前も分からなかったのに・・・
でも、僕という人間が存在していることによって、僕の知らないところでも人間が人間のことを見て、考えている。
僕が周りからどのように見られていても、構わない。
かっこ悪くたって、汚くたっていい。
自分のやりたいこと。
それをやろうとしている自分が、好きになってきたから。
王子だから、なんて物差しで計られない、自分を作りたいから。
いつも優しくしてくれるジェシカさん、テレーズさん、ベアさん。
厳しくも、よき姉でいたいと思ってくれたトモエ隊長。
みんなに支えられて、今の僕がいることを忘れてはいけない。
必ず、良いことでみんなに恩返しをしなければならないんだ。
そのためには。
少しくらいの逆境や辛いことなんて、投げ出してはいけないんだ。
やるんだ。
僕は生まれ変わるって、決めたんだから。




