仲間になろう
「とりあえず、逃げるぞ!」
ムルムスの脇に自分の肩を入れて、肩を貸してやろうとするとムルムスは一瞬驚いた顔を俺に見せた。
……なんだよ?
むっと顔をしかめて見返すと、ムルムスは表情も変えずに呟いた。
「……柄じゃないんだけどね」
そういうと、何やら呪文を唱え始めた。
そして次の瞬間には、屋敷の外から燃える炎を見上げていた。
「君は、僕が大魔法使いだってこと忘れたのかい? 降霊術はすべての魔術の上位に相当するからね。ってことで、転位魔法その一」
ムルムスは得意げになって人差し指を空に向ける。
ぽんと投げ出された庭には、アディールとユマとマドラが尻餅をついていた。
「あれ?」
マドラを見ると、違和感を感じる。
「お前、そんなに小さかったっけ?」
マドラに向かってそういうと、マドラは首を傾げて「ピイ?」っと鳴いた。どうやら自分では気がついてないらしい。だけど、さっきよりか明らかに小さくなっているような気がしたが、……気のせいかな?
深く考えないことにした。
俺たちはカルガリ伯爵邸を見上げた。
さっきまでどんよりと黒い空気に覆われていた屋敷は、いつの間にか夜になっていた。夜空に浮かぶたくさんの星と丸い月。
そして、燃え盛る屋敷はどこかおとぎ話の中の景色のようで、俺達はただぼんやりとそれを見上げていた。
紫色の煙が、様々な人の表情を模りながら空に消えていく。
「たくさんの魂が、空に向かっていきます……」
ぽつりとアディールが呟いた。
「霊は炎には弱いから。炎はすべての穢れを浄化させる力を持つ初歩魔法だからね。しかし、初歩だからこそ奥深いんだよ」
ムルムスは笑う。
「あの中に、お父様もいるのかな……」
ユマもぽつりと呟いた。
「お前の父ちゃんは、先に天に昇っていったから大丈夫じゃねえ?」
鼻の頭を掻きながらそういうと、ユマは「ん」と小さく頷いた。
「ああ、カルガリは光の空へは行けないよ。彼は地の闇に行くんだろうね」
あっさりと言う空気の読めなさに、俺達はムルムスを睨み付ける。
光の空――きっと天国のことだろう。そして地の闇は地獄なのだろう。世界は違うのに、天国と地獄の概念がある。光があれば闇があるように、人の行きつく先はどの世界でも変わらないのかもしれない。
全ての魂が天に行き、建物が崩れ落ちたところでムルムスに魔法で消火してもらえるように頼んだ。めんどくさそうに眉をしかめながらも律儀に魔法で消火してくれたこいつは結構憎めないやつなのかもしれない。性格は悪いけど。
「……さ、ギルドに報告に行くか。仕事終わんないで、屋敷燃えちゃったから怒られっかもしれねえけど」
空笑いしてみせると、アディールとユマは顔を見合わせながら「そうね……」と残念そうに呟いた。
「僕も一緒に行こうかな。このパーティの仲間にしてもらうよ」
ムルムスがさも当然と言うように、俺を見て言った。
……。
一瞬みんなで動きを止めて、次の瞬間顔を見合わせた。
「はあ!?」
「え……?」
「やめてよ~!!」
俺たちはそれぞれ思わず口に出してしまうと、ムルムスはあっけにとられた顔をしている。まるで自分が何でそんなこと言われているのかわからないようだった。
おい、そこで気がついてないなんてどんだけなんだよ、あんた。
「傷つくなあ。その言い方。
だけど、僕気になるんだよね。君のその力。
レベル1のくせに、レベル1とは思えない力を出してみたり。突然ステータスが読み取れなくなったり。意図的に隠したわけでもなさそう――っていうか、君ステータスの隠し方知らないでしょ? 興味あるんだよね。僕の研究魂に火がついちゃった。責任取ってくれる?」
責任とってくれるって、取るようなことをした覚えはねえ……けど、にっこりと笑っているけど目は全然本気のムルムスは、絶対断ってもついてくる気だ。
「お断わり~」
ユマがべえっと舌を出す。
「創造主に逆らってはいけないと、昔教えたはずだよ?」
「今の私は、お師匠様の魔力からは切り離された存在ですから」
ユマが腰に手を当てて、得意げになって返す。
そう言えば、そんなこと言ってたっけ。失ったものは取り返せない。ムルムスは確かにそう言った。
「うわ、傷つくなあ。僕が手塩にかけて育てたリリムが……」
ムルムスは泣き真似をしておどけていたけど、指が少し震えていたから、本気で傷ついているみたいだ。アンだけユマを傷つけておいてどの面で言うんだ? とも思うけど、お師匠様と慕っていたユマを思い出すと、やっぱり奴は奴なりにユマを大事にしていたみたいだ。
「……それより、ムルムス。お前、病院行った方がいいよ、早く」
「病院? 何ですか、それ?」
アディールが横から尋ねる。
え? こっちの世界ってもしかして、病院ないの?
「医者だよ、医者」
するとアディールがああ、と頷いた。よかった。医者はいるらしい。
「ああ、これ?」
そういうとムルムスは自分の鼻を軽く抑える。
「ずっと治癒魔法で痛みだけは軽減してたんだけど、時間を戻しておこう。見栄え悪いもんね」
ひょいっと手を離すと、鼻は元に戻っていた。
「これは時間魔法。怪我する前の僕に戻ったんだよ。鼻だけね。治癒魔法よりもこっちの方が手軽だから、僕はよくやるんだ。でも時間魔法は、結構高度な魔法だからそうそう身に付けられないよ。覚えるなら治癒魔法からだね」
確かに怪我したなんてことはなかったようだ。こんなことができるなら、この世界はもしかしたら医者なんていらないのかもしれない。
「ま、そういうわけで僕は便利だから仲間にしておいた方がいいと思うよ、新米勇者くん」
俺の肩をぽんと叩いたムルムスに「ユマもいやがるし、お断り」と片手を挙げて拒絶してみせる。
「さあ、行こうぜ」
3人に向かってそういうと、俺達は歩き出した。
「あ、ちょっと待って。僕も行くよ」
ムルムスが後ろからちゃんとついてくる。俺たちはその様子を確認すると、3人で笑った。マドラもアディールの腕の中で楽しそうに鳴き声を上げていた。
こうして俺たちの仲間に一人、大魔導師(自称)ムルムスが加わった。
現在のパーティ 勇者 レベル1
ハンター レベル20
薬師 レベル3(ただし人工魔法生物)
魔導師 レベル75
マスコットレベル??(ただし魔法生物)




