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猫守紀行  作者: ミスター
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白奪還

おねん修正-8/14

俺達は盗賊のアジトの近くまで来ていた。

サウスは『ウルフリーダー』なだけあって鼻も利くようだ。

もっとも、白の『テイムモンスター』だからかもしれんが。

サウスのおかげで夜にはアジトを突き止めることが出来た。


「さて、見張りは1人か…リンマード、矢は届きそうか?」

見張りとの距離は直線で大体300メートルほどか。


「…長弓ならいけると思いますが、持ってません。御免なさい」

確かにリンマードの使っている弓は短弓だ。

アリーナンを守りながら戦うには長弓は向かないのだろう。


「まあ仕方ない。ハーネ、投げナイフを貸してくれ」

「うん。でも、届かない」

ハーネから投げナイフを受け取る。


ふぅ、と一息つき一度、体から力を抜く。

そして、右手の人差し指と中指にナイフを挟み、俺の身体能力を使っての『投球術』。


家のバカ流派にも『投擲術』は有るがそのほとんどが乱戦用の石を利用する術や威嚇などで狙撃用の物なんてのは無い。


その点、『投球術』は野球の投球をもとに新しくできた術理で如何に早く遠く正確に投げられるかに重きを置く。

一般に教えてもいい術理で『神薙流』とは認められていない。

もっとも『神薙流』の人間が使うと凶器になるんだが。


こんなふうにねぇ?

「ふっ!」

息を吐くと同時に深く踏み込み、アンダースローから投げナイフを投擲する。

チュインッ!と言う音と共に夜の闇へと消える投げナイフ。

すぐに見張りの居る場所から、バチュンッ!と音が聞こえた。


…やりすぎたか?


「まあ、これで見張りはやった。中に何人いるか分からんが、行くしかないだろう」

そう言って振り返ると全員が唖然とした表情でこちらを見ていた。


「イチナ……今の、何?」

ハーネがそう聞いてきた。


「何って…投げただけだが?」

ハーネは「投擲?アレが?」などと言っているが他のメンツも「スゴイですね…」「投げたってですって?見えなかった…」「腕が消えてましたよ!」ソルファにも見えなかったのか、本当にやりすぎたな。


「そんな事は良いから行くぞ。白が待ってる」

全員がその一言で我に返って…なかった。

アリーナンが白を思い出しトリップし始めたので、ソルファに任せてアジトに向かう。


見張りの所まで来るとハーネが投げナイフを回収しようと死体に近づく。

頭がない。

まぁ、苦しまずに逝けただろう…

人を殺す事に対しての感覚が麻痺してきたようだ、その程度の感想しか浮かばなかった。


ハーネはナイフを見つけたのだが岩壁に根元まで刺さっており抜けないようで、諦めて戻ってきた。

ジト目で見てくるハーネ。

俺は目を逸らしアジトに入っていくのだった。


アジトに入ると、中は静かな物だった。

細い通路に部屋がポツポツと点在するといった、洞窟のような狭い作りになっていた。


「おかしくないか?静かすぎるし50人規模の盗賊の根城とは思えないんだが?」

そう、狭いのだ。50人どころか20人入ればいい所。

通路は人1人すれ違うのがやっとと言った感じである。


やはり大半は『偽物』だったという事か?

しかし、盗賊の頭はココに戻っているはずだ。白を連れて。


本当に50人規模の盗賊ならば少なくともアジトに守りのために20人は残しているはずだがねぇ。




各部屋を調べながら進み、最後の1部屋に差し掛かった所で、その部屋の中から声が聞こえてきた。


「・わ・・なぁ、お・え・食っち・・た・ぜ・・・」

食った?何をだ?…まさか白の事か!

思わず扉を蹴破り、突入する。

後ろで引き止める声がしたが無視だ。


「テメェ等、白を返s…何?」

そして、目の前に広がっていた光景に愕然とした。


「は?な、何で貴様らがここに居やがる!あいつ等はどうした!」

そこには盗賊の残りが集まっていた。


お頭は子猫を抱えデレデレの表情で凄んで来るわ。

下っ端は「ダメですぜ、お頭!ミーちゃんの居る所で剣は!」などと叫んでいる。

狭い部屋に10人のむさ苦しいおっさん共が集まり子猫を愛でていた。


1人が「ミーちゃん」と呼ぶともう一人は「アンナだろうが!」と叫び。

各々が自分の付けた名前を叫びはじめ最後はお頭が。

「ばかやろう!こいつはスワリーに決まってんだろうが!」

と一喝、もうカオスでしかない。


そのあとは簡単だった、なんせその流れで乱闘が始まり、最後に立っていたお頭を捕縛するだけだったからな。

信じられるか?その間、俺達は完全に無視されてたんだぜ?

乱闘の間、白はきれいな毛布の敷かれた檻に入れられていた。

変なとこ冷静な奴らである。


乱闘を勝利し名前を付ける権利を得たお頭は白を檻から出した。

その瞬間に関節を決め捕縛したのだ。


「白、おいで」

耳をぴくぴく動かして「み~」と鳴きながらこっちに寄ってくる白。

お頭が親の仇でも見る目でこっちを見てくる。

その顔は良く似合うが理由を考えるとなぁ。


白を抱き上げ腕の中で遊びながら皆を呼ぶ。

「終わったぞ、俺は何もしてないが」

外に待機させていたソルファ達も招き入れる。


「とりあえず理由も知りたいから、生かしてある」

問題ないよな?と問いかけると…。


「ええ、ありがとうイチナ。久しぶりねディマン」

おいおい、…誰だお前?

いや、アリーナンなのだが何時もの残念さが鳴りを潜めてお嬢様っぽく振舞う姿に違和感しか覚えないんだが…


いや、白をチラチラ見ている辺り完全に残念さを払拭出来たわけでは無いようだ。

それでこそアリーナンである。


「お久しぶりでございますね。アリーナン様?」

そして、お前もだれだ?

今まで白を巡って仲間と乱闘していたとは思えない豹変ぶりである。


「おじい様の私兵である貴方が何故、盗賊の頭なんかになっているのかしら?」

ディマンとはこのお頭の事のようだな。しかし、おじい様の私兵ねぇ。


「もちろん命令を受けて、ですよ。分かってるでしょう?あの方が用意した王子との結婚を蹴り、メンツを潰した貴方を消すためにこれまで色々やってきた事ぐらい」

おい、喋るときは相手の目を見て話せ。

白を見ながら話すんじゃねぇよ。


アリーナンは苦い顔をしているが俺はいまいち釈然としていなかった。


「ソルファ、アイツが元領主なのは分かったが、何故王子との結婚なんて話になったんだ?」

俺は小声でソルファに問いかける。

「それは、アリーが…いえ、お嬢様が強い魔力と加護を2つ持っていたからです。それにあの歳でオリジナルの魔法を完成させるなどの才もありましたから。領主としても、それなりに仕事をしていましたし…、王家は才能を重要としますから」


…アリーナンが領主の仕事をしている姿が想像できん。


「そのおじい様ってのは、どんな奴なんだ?」


「ジャンクル様は、…そうですね。権力とメンツを一番に考え、その為なら家族すら道具扱い。私たちはお嬢様のご両親の計らいで領地追放で済みましたが。…そのまま残っていたら間違いなく消されていたでしょう」


度々このような追っ手を放ってくるのです。とソルファは言う。


「結婚を蹴った事で兵達が反乱起こしたのですが、その反乱はお嬢様が退くことで形として終結しました。領地は妹様が継いでおられます。が、反乱の折に兵士たちにかなりの財産を持っていかれ財政難なのです…。すいませんでした。まさかこんな形で襲ってくるとは」


あぁ、だから資金集めしてんのか?

盗賊同様、本物の『反乱軍』だったか怪しいもんだな…。


問題は何故未だにアリーナンの命を狙うのか、だ。

これは聞いちまった方が早そうだな。

「おい、何故まだアリーナンを狙うんだ?」


「あぁ?だから、メンツを…」


「そんなもんは『孫』を追放した地点で充分だろ?何で居場所まで調べて盗賊に扮し、待ち伏せまでして狙ったのかを聞いてるんだよ」


ディマンは、さも愉快そうに顔を歪める…しかし視線は白に固定されているが。


「メンツを潰されたのはジャンクル様だけじゃないって事だよ。俺を送ったのはせめてもの慈悲らしいぜ?」

あんだけ連れてきて見事に失敗しちまったがな。とつぶやくディマン。


「なるほどねぇ、居場所を調べたのもソイツな訳だ」


おじい様とやらの兵士相手に善戦どころか圧倒したソルファ達。

次来るとしたら、…その王子関係か?

どっちにしろ面倒では有るが。


「ジャンクル様も人間だ。『孫』が可愛くない訳がない。今急いでアリーナン様に次ぐ才能の持ち主を探してる所だよ」

探して見つかる『孫』ねぇ。

むしろ探しているからこそアリーナンが邪魔なのだろう。


「さて、こいつどうする?俺の聞きたいことは聞けたから、好きにしてくれ」


ソルファが無言でハルバードを構えた。

「待ちなさいソルファ。ディマンにはそのまま帰ってもらうわ。私たちの事をどう報告するかは任せるけれど。…待ち伏せた場所を通ってね?」


俺は盗賊達の屍の山を思い出す。


おい、それはまずいんじゃないですか?

下手したら復讐の鬼が出来上がるだけですよ?

恐らくアリーナンは警告のつもりなんだろうが逆効果になりかねん。

好きにしろと言った手前、口には出さないが。


部屋で伸びてたやつもアジトの外に連れ出して解放する。


ディマンは視界に白が入る度に作った無表情が崩れる、他の奴らも白を名残惜しそうに見ていた。


サッサと行けよ。


「とりあえず、ココで一夜過ごしてから出発でいいか?流石に疲れた」

白はサウスの上で早々に寝入っている。


「そうね!白ちゃんもかわいいし、そうしましょ!」

アリーナンはハァハァと息を荒くし白に向かいジリジリと近寄っている。

平常運転なのは結構だが、さっきまでのコイツとのギャップが激しすぎてついていけない。


白がピクリと反応し「フシャー!」と威嚇した。


何!?

鎧熊相手にも無邪気に近づく白が威嚇!?

アリーナン、馬車の中で何をした?


サウスから離れ俺のもとへと走ってくる白。

拾い上げると、まだ不安なのかシャツの中に潜り込みモチャモチャ動いている。こそばゆい。


「ああ~…」

手をこっちに伸ばしがっくりとうなだれるアリーナン。

「早く寝ろ」

俺達はそんな様子に苦笑を浮かべつつ明日に備えるのであった。



皆が寝静まり、しばらくした時だった。

俺がサウスを枕に初めての人斬りの罪悪感を飲み込んでいる最中に、アリーナンから声がかかった。

「ねえ、イチナ起きてる?「…おう」…御免なさい。依頼主のイチナを巻き込んじゃったわ。多分次は…」

「王子の私兵かなんかだろ?いや、楽しみだねぇ。だから、気にすんな。ほれ、さっさと寝ろ。どのみち、お前等に案内してもらわなきゃ、俺は『王都』に行けねぇんだからよ」

「うん。ありがとう」

そう言って今度こそ寝るアリーナン。


「あいよ…、おやすみ」

それだけ言って、俺は夜空を見上げた。

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