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猫守紀行  作者: ミスター
3/141

1円玉と10円玉

「長!イチナさんが無事鎧熊を討伐してくださいました!」

村に戻ってくると、早速ジェイ・ゴブを見つけ報告に走るバ・ゴブ。


「おお!良くやってくれた!」

ジェイ・ゴブが良やった!良くやった!とあまりに嬉しそうに飛び跳ねてくれるので、カートンという尊過ぎる犠牲も少しは浮かばれるってもんだろう。

…チクショウ。


ぴょんと跳ねた高い位置で我に返ったジェイ・ゴブが着地と同時に話し出す。

「ハッ!浮かれとる場合ではなかったんじゃ!実は、おぬし等が退治に出た後に依頼を受けた冒険者から連絡が来てのぅ。おぬし等が戻ってこなかったら自分たちが行くから報酬を用意しろとな」


報酬なんかあったのか?

俺は好奇心で無理矢理バ・ゴブについて来たようなものだ。

熊退治もこの世界でどの程度やれるかを確かめるためだったから報酬については考えてなかったな。


「何、俺達報酬貰えるのか?」


「もちろんじゃ!この村のために危険な鎧熊を倒してくれたんじゃ!本来なら冒険者協会を通さずに受けた依頼は報酬対象外なのじゃが、その方の路銀を少し多くするくらい問題ないじゃろ」

それに魔法でお姿を変えておられるのじゃろ?と、小さな体をさらに縮めて白に耳打ちするジェイ・ゴブ。

中々にぶっ飛んだ事を言う。

これがジェイ・ゴブの『子猫大魔道士説』である。


「しかし良いのか?その冒険者とやらは」

「依頼取り消しと入れ違いになっただけじゃ。珍しいことでもない。何より感謝は示さねばならん!」

ズイっと渡された袋の中を確認すると、四角い銀貨2枚に丸と四角の銅貨がそれぞれ10枚近く入っていた。

「あ~、まあ、そういう事なら有難く頂戴するよ」

実際、文無しだしな。

恐らく銅貨が路銀だろう、コッチの通貨の価値がわからないが銀が銅より安い事はないと思いたい。


「それで、これからどうするんじゃ?」


「そうさな…。特に当てもないんだが、冒険者にはなろうと思っている」

『神』を探すにしてもなっておいて損はないだろう。


「そういえばイチナさんは、まだ加護を持っていないのでしたね。でしたら『王都シェルパ』の教会などはどうでしょう?あそこの『神託の間』は信じるべき神に会える場所ですから、神を見たことの無いイチナさんにはぴったりだと思いますよ」


「…え?会えるのか?」

はい、と頷くバ・ゴブ。

何言ってんだとコイツいう目で見てくるジェイ・ゴブ。


…とりあえず目標は決まった。


「……じゃあ、『王都シェルパ』に行くか」

神にお目にかかれると聞いてすぐにでも出発したかったが、白が座ったままうつらうつらと頭をゆらしている。

「明日にでも…」

ジェイ・ゴブにもう一晩泊めてくれと頼み、今日は休むことにした。




朝起きると家の前が騒がしい。

サウスも気づいているようだが、白が体の上で寝ていて動けないようだ。

部屋を出て煙草に火をつけ起きがけに一服。

煙草を銜えたまま階段を降りると、玄関前でバ・ゴブがおろおろとしている。


「どうしたよ?なんか問題か?」

「あ、イチナさん!あちらの冒険者達が鎧熊を倒したから報酬をよこせと言ってきていまして…」

少し離れた所でジェイ・ゴブ達が冒険者風の奴らと話していた。


「ん?あの熊なら昨日俺が…」

「なによ!なにか問題ある!?あんた達の頼んだっていう助っ人は居ないみたいじゃない!こっちは証拠に素材だって持って帰ってるのよ!」

騒がしかった原因は彼らだったのだろう、距離があるにもかかわらず俺の声はジェイ・ゴブに詰め寄る冒険者の声にかき消された。


「…話の通じないタイプか?」

「そうなんです。全然話が通じないようで…」

ふふん!とふんぞり返る女冒険者は自慢げに胸を張っている。

残念ながら遠目でも分かるほどに張る胸は無いが…。


やれやれ、と煙草を最後に一吸いして携帯灰皿に吸い殻をしまう。

女冒険者の仲間達であろうか、近づいて来る俺に気付いて顔を青くしている。


「ん?何よあんた?」

ゴブ族の村で、武器を携帯した人間を見てもまだ気が付かないのかこの強気な女は。


「商人かしら?まあ、あんたには関係無いわ。すっこんでなさい!あ、それともこの場で買い取りしてくれるのかしら?」

すいぶん目出たい思考回路をしているらしい。

流石にイラッときたが、後ろの仲間らしき奴らが真っ青な顔で必死に頭を下げているのを見て少し哀れに思えてしまった。


「俺がお前さんの言う助っ人だよ。…しかし、態々あそこから熊を引きずって来たのか?ご苦労なこった」

ようやく気付いたのか、後ろの仲間を振り返る。

ウンウンと頷く奴らを見て青くした顔をこちらに戻す。


「あ、あはは~冗談よ!冗談!…ほら!鎧熊はいろいろ素材として使えるから譲って欲しいな~、なんて…」

それにしてもすごい変わり身だな。

体と違って中身はずいぶんと図太いらしい。

モノの価値が分からないのは中々不便だな…。

とりあえず、この女の言う事は全く信用出来ないのでジェイ・ゴブアドバイスをもらおう。


「そうじゃの、こちらとしては依頼を出した時点で素材は諦めておるからな。本来は退治したおぬし等の物じゃろう。おぬしが決めれば良い。白様も一任しておるようじゃし」

…白は魔道士じゃねぇよ。


しっかし、素材ねぇ。

防具とか作れるのかね?もしそうなら貰った方がよさそうだな。

何せ今着てるのはYシャツにジーンズ、靴はごつい作業靴だ。

うん、防具はいるな。


「なあ、ジェイ・ゴブ。熊の素材で防具とか作れるよな?」


「ん?うむ、結構な大きさじゃからな。防具なら十分作れるじゃろ。同じ鎧熊製の防具を買うよりは作って貰った方が安いじゃろうな」


「そうか、ならコレは俺が貰おう…。しかしなぁ、王都までどうやって運ぼうか、道も知らないしねぇ?」

俺はチラチラと冒険者達を見る。


女冒険者は「なに?あんた私に気が有るの?」とかほざいているが、仲間の奴らは気づいたようだ。


その内の1人、フルプレートを装備した奴が声を掛けてきた。


「すいません、僕たちも王都へ報告に戻るのでどうでしょう?鎧熊の運搬と王都への案内を僕たちにやらせてくれませんか?馬車もありますし、もちろん護衛もします。まぁ、護衛の方は必要ないかもしれませんが…」

俺の刀をチラリと見てそう提案してきた。

声や口調から判断するに恐らく男。いや女か?鎧で声がこもって判断し辛い。


「それは有難い、大荷物だ。馬車は助かる。しかし、報酬の相場がわからんのだが、どの程度の物かおし…」

「丸金貨3枚よ!」

相変わらずの女冒険者に遮られる。

慌てた仲間の女弓使いと小柄な女剣士が、女冒険者の口をふさぎ、羽交い絞めにした。

ハハハ、と乾いた笑いをもらす女弓使い。

どうやら、ぼったくる気だったらしい。


金貨は恐らく銀貨の上、何枚で金貨の価値になるかわからんが、鎧熊の報酬が四角い銀貨2枚だったのだから、金貨3枚はやりすぎだ。

それに丸と四角でも価値が分かれるみたいだな。


「すいません…。少し事情がありましてお金を集めているものでして。運搬と案内ですと…。王都までの距離を考えて大体一人当り丸銅貨10枚ですね。護衛による戦闘を含めますと丸銅貨20枚になります。本当なら迷惑を掛けたお詫びにタダにしたいのですが…」

こいつ等にも事情があるって訳ね。

ま、しゃあないか。


こいつ等4人だから護衛付きで80枚…四角銀貨は丸銅貨100枚と考えていいのか?

「四角銀貨でお釣りは有るか?」


「ええ、大丈夫ですよ。丸銅貨20枚になりますが大体は成功報酬ですので、王都に着いてからで結構です」


もしかして銀貨も100枚で金貨になるとかじゃないよな?

もしそうだとしたら金貨3枚はとんでもない額だぞ、おい。


「なら頼もうか、俺は甘坂一南。ああ、一南が名前な、よろしく。あと、連れが2匹ほどいるからそいつらも頼む」


「よろしくお願いしますイチナ殿。僕はソルファ・カンバスと言います」

そう言ってフルフェイスの兜を取るソルファ、…女だったか。


銀髪のおかっぱ頭に均等のとれた美しい顔。

瞳はグレーと『元の世界』ではありえない組み合わせだ。

フルプレートにフルフェイス、武器はハルバードと中々に重量級の装備である。


「しかしイチナ殿の連れとは?」

そういえばまだ白は寝てんのかね?あいつが起きないとサウスが動けないんだが…。


「ん~、まだ寝てるんじゃないか?とりあえず、あんた等のメンバーを紹介してくれないか?」

ソルファは「分かりました」と言ってメンバーを集めた。


「僕は先ほど名乗りましたので、…では順番に」


「じゃあ、私からね!」

はいはい!と手を挙げる、ぼったくり冒険者。


「アリーナン・バルト・ツァイネン、魔道士よ!」

さあ!ひれ伏しなさい!とバカなことを大きな声で叫ぶ。


まあ一応、アリーナンの容姿もお伝えしようか。


赤毛、サイドテール、小柄なぺったんこ。

顔は美少女のカテゴリだがなにせ言動が残念だ。

喋らなければ…というやつだな。


しかし魔道士か、弱そうなのに。…あえて何がとは言わないが。

魔道士なのに皮鎧を付けている辺り、さらに残念さがうかがえる。


「私はリンマード・パルプです。…うちのリーダーがごめんなさい」

え、むしろアリーナンがリーダーなのに驚きだが?

リーダーはソルファだと思っていた。


リンマードは弓使いのようだ。長い金髪を1本の三つ編みにしている。

瞳の色は青で耳が長い。

エルフというやつか?実際見ると感動ものである。

若草色の服を着て胸当てをしているがデカいな…。

胸当てからこぼれそうだ。


「次、私。ハーネ・クロス。剣士」

白い髪を肩ほどまで伸ばした、褐色の肌で瞳は金色の小柄な女の子である。

額には親指ほどの角がついており、腰にはショートソードを下げている。

…角ねぇ?

『鬼』ぐらいしか思いつかないが装備は軽装でどちらかというと速さで戦うタイプだろうな。


最後にソルファが「パーティー名はツァイネン騎士隊です」と言った。

確かにアリーナンに1人だけミドルネームが有るのは気になったが、まさかツァイネン家の騎士隊とかじゃないよな?


一通り名乗り終えた時、ジェイ・ゴブの家からサウスが出てきた。


「なっ!ウルフリーダー!?どうしてこんな所に!!」

そう叫んでアリーナンはソルファの後ろに隠れ、他の連中も武器を構える。


「心配ない、コイツが連れだ。ん?おい、白はどうしたよ?」

そう聞くとガウッと返事と共に口から何かこぼれる。

「み~~…」

べちゃりと落ちたのはサウスの涎にまみれた白だった…。


「何してんのお前?」

そっぽを向くサウス。

咥えようとして丸々口に入れたのだろうか?

白は涎濡れでさらに小さくなった体をピルピルさせながら俺に寄ってくる。


「はぁ、とりあえず綺麗にしなきゃな」

あまり触りたくはないが、涎でベトベトの白を拾い上げモチャモチャ暴れるのを落とさないように水場へと向かう。


「ちょっと!何その魔力!私の数十倍は有るじゃない!それに、その……ソレ何?」


「アリーナンの魔力基準で言われても分からん。ソレってのは白の事か?子猫見たこと無いのか?」

子猫?と全員が首を傾げる。

え?この世界、猫がいないのか?


「マジか…。王都、というかこの先めんどそうだな」

ただでさえ加護を2つ以上持っているとされる者は貴重とされるらしいし。

本気でコイツの護衛をしなくちゃならんかもしれんな。


手のひらを見つめるとブルブルッと水気を飛ばす白だったが、飛んでいく粘液が毛を引っぱったのか、毛が束で固まりハリネズミのようになっている。

中々にコミカルだ。


「………」

しかし、手の中でそれは止めろ、俺にまで被害が来たじゃねぇか…。




ツァイネン騎士隊は鎧熊の素材部分を切り取りに行くと言ったので、任せて二匹とのんびり留守番中だ。


乾きかけのサウスのカピカピ涎を洗い流す最中に盛大に暴れた白はいつもの真っ白フワフワに戻り、懲りずにサウスの上でくつろぎ中である。


「首輪か…」

二匹を眺めながらソルファの言葉を思い出す。

ソルファが言うには首輪なしでテイムモンスターは町に入れないそうな。

簡易でいいから作っておいた方がいいとの事だった。


「…そういや良いのがあるじゃねぇか」

さっそく、と小銭を覗き込むも中までは影がかかって見えなかったため手の中にジャラジャラと出してみた。


…俺達にはぴったりの首輪になりそうだ。


ジェイ・ゴブに頑丈な紐を貰い、一匁時貞の切っ先で『1円玉』に縦穴を開けて、その穴へと紐を通す。

同じように10円玉も縦穴を開け、紐を通した。

これで白&サウスの『首輪』、完成デス。


俺自身手先が器用とは言えないためこれが限界だ。


「白、サウス」

手招きしながら名前を呼ぶと2匹が寄ってくる。

すんなり付けてくれて、なんだか嬉しい。

白にいたっては気に入ったのかサウスの上で飛び跳ねている。

出来れば白には小さくて金色のコロコロと音のなる鈴を付けて欲しかったのだが…。


「って白。…そろそろ跳ねるの止めてあげような?」

サウス、顔しかめてるから。


なんとか跳ねるのを止めさせたが一向にサウスから離れない白。

今度は横たわるサウスの腹の下に潜り込もうと、こちらに尻を向け顔をグリグリを地面とサウスの腹の間にねじ込んでいる。


楽しいのか、ソレ?

そのままにして置くと窒息しそうなので引きずり出す。

手を放すと不満げに鳴いて、またサウスの腹の間めがけて突き進む。


…まあ、危なそうならまた引き抜こう。



「イチナ殿、お待たせしました!」

しっくりとはまったのか小さい尻の揺れがおさまり白が大の字になって顔を埋めたまま寝息立て始めた頃、ツァイネン騎士隊が戻って来た。


「さすが鎧熊、中々の素材ですね。傷もほとんどありませんし上質の防具になりそうですね!」

荷物を積み込めば出発できます、と言うソルファに習って馬車に荷物を運び込む。

引越しのバイトを舐めるなよ?っと率先して手伝う。

が、おかしい…。

俺一人でやった気がするのだが?

いや、作業で夢中になりすぎてまわりの連中の動きなんぞ気にもしていなかったが…。


キャッキャと楽しそうな、力仕事とは無縁な声に後ろを振り返るとツァイネン騎士隊が白に群がっていた。


「………」


まぁ、子猫パゥワーなら仕方ない。か…。

自分も荷物の積み方と効率を考えるのに夢中になりすぎたしな…。


「おい、これで積み荷は全部か?」

馬車の荷台を指差しながらツァイネン騎士隊に声をかけるとアリーナン以外がハッと我にかえり、ギギギッとバツの悪そうな顔を振り向く。

謝罪するメンバー。が、アリーナンだけは恍惚とした表情で白を愛で続けていた。


「何この存在全体で媚びてくる生き物は…。それにこの気持ち…はっ!これが愛!!」


うん。

「放置だな…」


声に出てしまっていたようでソルファが謝る。

「おじょ、いえアリーがすいません。いつもああなんですが、今回はよりひどいですね…」

ソルファよ、結構毒舌だな。

そして『おじょ』の続きは『うさま』ですか?

残念お嬢様とその護衛といった所かねぇ。

この短期間でソルファの気苦労を察してしまい、返事のかわりに(あたた)かい微笑みを返しておいた。


「さて、そろそろ行くか?」

神に会いに。


ソルファが、アリーナン達を呼びに行く。

その間に初めての友人・バ・ゴブや、世話になったジェイ・ゴブに別れを告げた。


一路『王都シェルパ』へ


戻ってきたアリーナンの頭に、大きなたんこぶが出来ていたが気にしないでおこう…。

おねん修正-11/11

1500文字も増えてしまった…

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