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猫守紀行  作者: ミスター
2/141

初めての戦闘、初めての犠牲

ミスター加筆修正-8/29

おねん修正-11/6

さて、現在バ・ゴブの村へと向かっているわけなのだが。

ココに来る間に獣と遭遇すること3回、デカすぎるムカデ1回、そして…。


「ワフッ?」

「み~」

子猫の魅力にとりつかれたオオカミのような獣が1匹。


「なぁ…、バ・ゴブよ。この狼みたいのはこんな大人しい物なのか?」

灰色の毛で覆われた狼のような獣は今、子猫を背に乗せて落とさないようゆっくりと、そして堂々と俺の隣を歩いている。


「い、いえ。この『ウルフ』は一応モンスターでして、本来ならば凶暴なはずですが…」

モンスターかよコイツ…。


『ウルフ』が近くに居るからかバ・ゴブが少し離れた位置から怯みながら説明してくれている。

しかしこの『ウルフ』が特別なのかは分からないようだ。


「しかし驚きました。『バンム』を真っ二つにしてしまうとは。本当にお強かったのですね」


『バンム』は此処に到る途中に会ったデカいムカデの事らしい。

あまりにもキモかったため早々に退場してもらった。

人間大のムカデを想像してくれ、…それが『バンム』だ。


「それじゃあもう一息です。村へ向かいましょう」

バ・ゴブに村の話を聞きながら歩く。

お!村が見えて来た。


「あそこがわたくし達の村です」

へぇ~と改めて辺りを見渡す。

どちらかと言えば、村と言うより、集落の方が近いな。


ん?

なにか走ってくる。

「バ・ゴブ!戻ったか!良くやった!コレ程の魔力は久方ぶりじゃ!さぞ高名なお方を連れて来たのじゃな!」

ほう…、俺は魔力が多いのか。

うむ、良いこと聞いたな。


「長、ただ今戻りました。こちらが協力してくださるイチナさんです。イチナさん、こちら長のジェイ・ゴブ様です。この村唯一のゴブリンメイジなんです」

バ・ゴブは誇らしげにジェイ・ゴブをそう紹介した。


イチナです、と挨拶したら不思議な顔をされた。何故だ?


「貴方はコチラの方の護衛でしょうか?なるほど…確かに。これ程の魔力、鎧熊などその魔力を使わずともお連れのテイムモンスターと護衛だけで問題ないという事ですな!」

よくやった!よくやった!と、長い髭とローブのような服のすそを跳ね上げながら杖を振り回し、小さな老ゴブリンが飛び跳ねている。


『コチラの方』とは、まさかこの子猫の事か?

それに『テイムモンスター』ってのは、この『ウルフ』の事だよな?


ということは、魔力が多いのもこの子猫って事か…

期待して浮かれた俺がバカみたいじゃねぇか…。

そこは、憧れるモノがあったというのに。

うむ、この憤りは『鎧熊』にぶつけてやろう。


「ところでバ・ゴブ、『テイムモンスター』ってのは、何なんだ?」

「はい、モンスターを捕獲、調教する事を『テイム』。そして、テイムされペットや戦う力となるモンスターを『テイムモンスター』と呼びます。が…」


「そんなこと、したか?」

「いえ、むしろ勝手について来たのでは?」

2人で子猫の方を見ると、子猫が『ウルフ』の尻尾にじゃれついて大変に楽しそうだ。

バ・ゴブと顔を見合わせ頷き合う。

可愛いので良しとしようか。


まぁ、子猫の謎は置いといて今晩どうするかだな。

日が落ち始め、空の向こうが暗くなってきている。


「とりあえず、寝る所を確保したいんだがどこかないか?」

「では、私の家をお使いください!」

ジェイ・ゴブは跳ねる。…忙しないな。

歳喰ってんだから、もうちょい落ち着こうぜ?


「良いのか?」

「もちろんですとも!この村で1番広い家です。問題などありませんぞ!」

そう言うと「準備がありますのでこれで」と子猫に一礼し、忙しい!忙しい!と飛び跳ねながら走って言った。


しかし本当に異世界だな。

異世界、…いままでいた世界とは異なる道理でできた世界。

聞かずにはいられなかった。


「なぁ、大事な事を聞いてなかったんだが…」

そう、とても大事な事だ。


「この世界に、『神』は実在するか?」

アホな事を聞いているとは分かっているが、違う世界だと認識してしまうとどうしても欲がでる。


もといた国だけで、八百万(やおよろず)の神がすむと言われ。

更に世界には沢山の宗教がありその数だけ神があった、が。


存在している訳じゃない。まあ、俺が見たことないだけでいるのかも知れないが。

俺達、神薙流の一族にとって戦えない神を崇めるなんぞ、これっぽっちも意味はない。

だからこそ、死後の世界に神を求め、戦いを求めた訳だが…。


そう考えると、意味の分からん流派だな。

現代社会で武を生業とする訳でもない、死ぬために鍛え、戦いに赴くために死ぬ。

…これまで1000年もよく絶えなかったもんだ。

今更、疑問に思う俺も俺だが。


声色が神妙になってしまった自分とは対照的に、バ・ゴブはキョトンと力の抜けた顔をしている。


「何を言っておられるのですか?もちろん居られますとも。数多くの神々によってこの世界は創られ、育まれてきたのですから。わたくし達ゴブ族は闇を司る神『バージェス』様に加護を受けております。そういえばイチナさんはどの神様に加護を受けられたので?」

体の芯が痺れた。

血が喜び、駆け抜ける体内の全てが共鳴する。


「くくっ、くははっ!そうか…、そうか!」

1000年の命題が俺の代で果たせるかもしれん。

どんな奴なんだろうねぇ、神ってのは。

ああ、きっと埒外の力を持ってんだろうなぁ…。


「くく、くははははっ!!」

ああ、やっぱり俺も神薙なんだなぁ…、『戦いに行った』先人たちが皆笑顔で逝ったのがよく分かる。

「イ、イチナさん?」


「あ?あぁ…悪ぃな、ちいと嬉しくてな」

ああっと、…加護の話だったか?

なんでそんなに引いてんだよ、怖くない、怖くないからねぇ?


「…加護は調べたこと無いな。まだ神をこの目で見たことも無いしな。見えない物を信じる事が出来ない性分なんだよ」

取り敢えず冷静さを取り戻し、話を戻す。


しかし、さも当たり前のように言われたから多分この世界の常識なんだろうな。

ある意味『神』の存在だけは盲信している一族の出ではあるが…。


「そうでしたか、加護無しであそこまでお強いとは…。加護を受けたら恐ろしい事になりそうですね。あ!加護を受ける気がお有りでしたら王都シェルパの『教会』に行ってみるのも良いでしょう」


ああ、そうだなと返事を返しこの世界に『神』が居る事実を噛みしめる。


元の世界では目に見えて実在しない『神』と戦うためのバカな流派。

その本分をこの世界で達せそうだ。

少し立ち止まり。

興奮した体を落ち着かせるため、限りある煙草に火をつけ肺深くまで吸い込む。


『ウルフ』が顔をしかめていたが今は気にしない。

大きく紫煙を吐き出し、前を見据えた。


煙草の火を消し携帯灰皿に突っ込む。

『ウルフ』はまだ顔をしかめている。


そろそろこいつ等に名前を考えなきゃな…。


ジェイ・ゴブの家に着くと飯が用意されていた。

そういや子猫の飯の心配しかしてなかったな。


『こちら』に来てからなんも食ってなかった。

有難くいただくとしますか。


さて、明日は熊狩りだ。

がっつり食って、さっさと寝よう。

遠慮?そんな言葉は知らねぇな。





翌朝。

ジェイ・ゴブの家で出発準備をしていると森を監視していたゴブリンから知らせが入った。

鎧熊が縄張りを広げようと動き出したそうだ。


少し森に入った所でバ・ゴブが動物達が少ない事に気づき、現在警戒しながら進んでいる。


身を屈めながらしばらく進んでいると、バキバキッと木を折る音が響いた。

近づいて来ている。


「バ・ゴブと『サウス』は『白』の護衛を。…俺は熊を殺る」

バ・ゴブは緊張しながらも頷き返した。


『サウス』は毛を逆立てて、音のなる方を威嚇している。

『白』はサウスの毛が逆立ったせいで落ちそうになっていた。

お前も一応野良の筈だよな?


『鎧熊』との距離を目で測りながら煙草を銜えて火をつけ、『一匁時貞』を右手で抜き放ち戦闘に備える。

どうやらお出ましのようだな…。


姿を現した、鎧熊。

大きさは5mくらいか?ふむ、確かに鎧熊だねぇ…。

その巨体の頭や腕、胴体部分などに西洋甲冑のような鎧が張り付いている。

熊自体はグリズリーに近い、それが灰色の西洋甲冑をつけていると思えばいい。


「…さて、やりますか!」

思ったよりも早く距離を縮めてきたな。

コチラにも気が付いているようで、両手をふり回し障害物など無いかのように一直線に向かってくる。


狙うとすればやはり、関節や甲冑の着いてない手足、そして顔面。

すぅー…、っと煙草を大きく一吸いし熊の右目めがけて噴き飛ばす。


「ガアアアアアッ」

眼球に800度の熱を持った凶器が直撃し、前傾姿勢で突っ込んで来ていた鎧熊が大きく仰け反る。

そこに隙が生まれ、俺は一匁時貞で甲冑の隙間である、左手の関節部分に斬り込む。


「しっ!」

一気に踏み込み左腕をたたっ斬る、鎧熊は痛みに大きく暴れだす。

おぅ痛そうだねぇ、俺がやったんだがな。


バ・ゴブが後ろから焦った様子で叫んでいる。

耳を澄ませ、視線は鎧熊に残し背中で声を受ける。

「イチナさん!白様がそちらに走って行かれましたーッ!」

何!?


「…み?」

思わず声のした方に顔を向けると、鎧熊の近くに『白』が居た。


「…何でだ!?」

動物の本能とか無いのこの子!?

思わず視線を鎧熊から外してしまった瞬間、俺の視線を追った鎧熊が白に気付き爪を振り下ろす。


「くそっ!」

またこのパターンかよ!

前はトラック、今度は熊か!野良だよね、お前!?


「間に合え!」

ビッと引っかかったような感覚はしたが、体は無傷。


「ふぅ…。警戒心とかないのか、お前は?」

『白』も無事だ。

手の中でモッチャモッチャと動いてる。

ったく、自由だなコイツ…。


安堵したのもつかの間、鎧熊はまだこちらを見据え立っている。

近くに来た『サウス』に『白』を銜えさせ後ろに下がらせた。


改めて向かい合った瞬間「ボトッ」っとなにかが落ちた。

熊の気配に気を配りつつ、チラッと視線だけを落としてみると、刀とは反対の腰に下げていたコンビニ袋が破けてカートンが転がっていた。

ん?1カートンだけ?


「ガアアアアアアアア!!!」

仕方ない。コイツを片付けてから探すか…。

そう思い1歩踏み出した処で気付く。


「あ、あああああ!おま、お前!…何踏んでくれてんだコラァ!!!!!!!」

俺、狂乱である。

鎧熊の足元で潰され、血濡れになった無残なカートン。

チュートリアル気分での退治だったんだが…、許せん!

お前はやり過ぎたんだ、煙草に対して…!


俺の怒気と殺気を感じたのか1歩後ずさり、逃げの体勢に入ろうとする鎧熊。

「ダメだろぉ?逃げちゃさぁ…」


脇差『一匁時貞』を鞘に納め、腰を落とし、居合い刀『刻波』に手をかける。


「『神薙流拳刀術』居合抜刀『六銭(ロクセン)』」

『六銭』は単純に六回抜刀し切りつけるだけ多対一を想定した技だ。

だが『神薙流』は普通の抜刀術とは速度が違う。


そして、この『六銭』、相手への三途の川の渡し賃でもある『六文銭』が名の由来だ。


…キィィィィィンッ…


木霊のような鍔鳴の音が響く。

爺さんは鍔鳴が一度しかならない化け物だ。

俺も何時かはその高みを見たいもんだな。


「カートンの仇だ……チクショウ…」

鎧の隙間を縫い7分割された熊の体にそう声を掛けた。


くそっ、俺が最初から本気でやればカートンは無事だったかもしれん…!

節約して吸わねば。と心新たに煙草を1本取り出し火をつける。


……明日からだ、明日から節約しよう。

10箱の煙草を一度に失った事を一通り嘆き、それからバ・ゴブ達を呼んだ。




「いやはや、すさまじいですね。…まったく剣閃が見えませんでした」

当たり前だ、簡単に見切られるようじゃ、家の爺さんに殺されるからな。

7等分された鎧熊をビクビクと横目で見ながら言いながらバ・ゴブが歩いてくる。

『サウス』もそれに続くように来…って、ん?


「白はどうした?」

「え?さっきまでサウスの背で寛いでいたのですが…」


『サウス』は俺達を素通りして、熊の所まで行ってしまう。

そんな『サウス』を目で追うと…。


「あ」

……『白』が倒れた鎧熊の血を舐めてい、る…?

サウスは我関せず。と、白の隣で鎧熊の肉を食い始めた。


「いや!ダメだろ!いや、良いのか?」

猫って雑食だったか?だとしても『モンスター』の血はイカンだろ!?

などと考えながら慌てて『白』に駆け寄ったが、『白』が発光し始め足を止めた。

「え?」

予想外の出来事に、この世界の住人であるバ・ゴブを振り返るも目と口をあんぐりさせ白を見つめている。

「は?」

数秒だったと思う。

光が収まったとき、そこには…『鎧白』が居た。


「…なんでだよ」


背中に銀の小さな丸盾。デザインは中央に肉球がデフォルメして描かれている。

腕には同色の猫の手ガントレットと、頭には猫耳ガード付きの銀色の兜を装備。

まさにフルアーマー白である。


白は誇らしげに4本足で立っているが、装備が重いのか足がプルプルし始めた。


「あ…」

つぶれた。

ぺしょ。そんな擬音が聞こえてきそうだった。


「み~!み~…」

兜も重いのだろう。

つぶれたまま地面に向かって鳴き続ける白を鎧を気にしながら拾い上げてやると、その鎧は消えてしまった。


「何だったんだ、いったい?…いや、可愛かったけどさ」

「はい。大変可愛らしいお姿でした…あ!もしかすると、白様は『大いなる加護』をお持ちなのでは?」

「大いなる加護?」

「はい、世界に愛され、すべての神々に祝福を受けた加護持ちの方をそう呼びます」


コイツ俺と一緒に『むこう』から来たはずんなんだが…。

なんで、そんな事になってんだよ?


「テイムに関しては『狩猟と隷属』を司る神。今の『鎧』に関しては、おそらく『食』を司る神の類いでは無いかと。…少なくとも加護を2つ以上持つことは通常出来ないのです。敬う神への背信行為ですから。例外は生まれた時に複数の神から直接、加護を与えられる場合です。かつては国の象徴になったことも有るのですよ」


白の生まれはこの世界?…んな訳ないか。

だとしたら俺と一緒に来た時に加護を受けたことになるが…。

俺もなんか加護あるのか?

流石に熊の血は飲みたくないが…。


「しかし、何で『食』の神の加護で『鎧』が出来んだよ?」

「詳しい事は分かりませんが、『食』の神の加護を受けた者は食べる事で魔法やモンスターの能力を取り込むことが出来るそうです。ですからあの鎧もすでに白様の能力になっているはずです」


バ・ゴブが一緒で良かったな。異世界過ぎる…。

そんなことを思いつつ『白』を見つめていると、満足するまで食べたのかサウスが口のまわりを血で汚し、1回り大きくなって…?


「なんかデカくなってないか?お前…」

ガウッと返事をしてくるサウス、鳴き声まで変わってるよ。


「どうやら『階位』があがったようですね。自分より強いモンスターを食べたからでしょうか?立派な『ウルフリーダー』です」


まず『階位』ってなんだ…。

モンスターのレベルみたいなものか?

そんなに早く上がるものなのか?


…まさか白がらみじゃないだろうな?


考えてもわからん、と思考を放棄し村へと戻る。

全く2日でコレじゃこの先どうなる事やら…。


煙草を(くわ)え、村への道を歩きながらこれからの事を考えるのだった。

イチナ・・・かわいそうに。

煙草が死に行くさまを見るとは。

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