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猫守紀行  作者: ミスター
112/141

外伝 行先違えた死出の旅

ここは日本のとある武家屋敷、そこで一つの命が消えた…。






「思えば、ワシもよう生きた…。これも天命か…」

死装束に身を包み、横たわる『自分の体』を見ながらそう呟く老人。


180cmの身長で、これでもかと鍛え上げられ、絞られた体は無駄なものが一切付いていない、とても老人の体とは思えないものだった。

真っ白な太い眉。

孫にも受け継がれた鋭い目つきだが、こちらの方が幾分か危険度が高そうな鋭さがある。

長い白髪を頭の後ろで人房に縛り、同じ白い顎髭は、短く無精ひげのようだった。


名を甘坂五一という。

享年95歳、家族や親戚に見守られての大往生であった。


死の寸前まで鍛錬を続け、一風呂浴びてから自ら死装束に着替え。

自分で家族や親戚に「ワシ寿命で逝くからさっさと来い」と召集を掛けてから布団へと入ったのだった…。

このじじい余裕である。


「一南のアホウをワシの領域まで連れてこれなんだのが心残りじゃが…。あの馬鹿孫の刀も消えたんじゃどっかで神でも斬り伏せておろう。…さて、ワシの行く場所は天国が地獄か、楽しみじゃのぅ!」

眼下ですすり泣く家族や親戚連中完全無視で。

沈んだり、ワクワクと胸躍らせたりと忙しい五一だった。


しかし、いくら待っても『お迎え』は来ない。

次第に五一は、腰の辺りが寂しくなってきた。


「……何時まで泣いとるんじゃ!!さっさとワシの得物を燃やさんか!!ワシの腰が寂しいじゃろが!」

せめて葬式の手順くらいは踏ませてあげてほしいものである。

五一は無駄に『軽い』殺気を放つが、死者の念をくみ取れる者が幸いなことに一族にはいなかった。

しかし、全員『酷い悪寒と体調不良』は覚えたようだった…。





その頃『地獄』では…。

赤鬼が、慌てて閻魔の執務室に駆けこんでいた。


「え、閻魔様!!」

「なんだ、騒々しい、仕事中だぞ。…緊急か?」

執務机に向かい、事務的に判子を押す閻魔は、疲れ切ったサラリーマンのような姿をしていた。


「これを…」

「……おい、天命は105年後だぞ?事故、じゃない。病でもない…ん?95歳で105年後?表記ミスか?」

渡された書類を見て、頭を捻る閻魔。


「いえ、そこではなくて、名前と備考を見てください」

「なに?…神薙流拳刀術、あまさか…、ごいち…!あ、甘坂家か…!!また鍛錬で寿命を縮めやがった…。まだこっちの体勢が整ってないのに!!」

とり乱す閻魔に対し赤鬼が言葉をかける。


「天界や仏界で受け入れしてもらえませんかね?」

「無理だ。あっちに送った『甘坂』の人間が、魂を摩耗することなく、嬉々として神や仏と戦い続けているらしい。滅多に笑顔を崩さない天界と仏界の代表が泣きそうな顔で、次回からの受け入れを拒否する。と通達をしてきたばかりだ…。冥界のほうは送った甘坂の初代から五代目までを相手に国を挙げての籠城戦の真っ最中で余裕がないし…」


その言葉に開いた口が塞がらない赤鬼であった。


「…猶予は葬式の終わる数日後か、アイツ等武具を持ち込むからな…。ここは裁判所と刑務所だぞ?牛頭と馬頭だって以前に来た甘坂に斬られてもう居ない…。三途の川の船賃だってアイツ等は剣技だ、この事が懸衣翁や奪衣婆達に知られたら職務放棄が続発する…。船が沈んだって自分で泳いで渡ってくるから放置しても変わらないのだがな。くそ、もう少しで『新地獄』が完成するところだったのに。後5年、いや3年あれば…」

悔しそうに顔を顰める閻魔であった。


新地獄。

それは天界と仏界に送った神薙流のお歴々(主に甘坂家)の魂をなんとかすり減らして輪廻の輪に乗せようと、天界と仏界そして地獄が協力して行っている一大プロジェクトである。


冥界からのアイディアだがその冥界には一切の余裕がなくなってしまったため、天界と仏界そして地獄で進めていた。



普通ならば体を無くした時点で魂は摩耗していくのだが…。

神薙流の人間は、こちらに『戦い』に来ているのだ、そして相手がいた。

これはもう摩耗どころではない、滾る一方である。

現代の神薙流では一度戦えば満足、という者も多いのだが、『甘坂』は過去や現在に至っても変わらないのだ。


『強者』と戦う程強くなる『魂』そんな理不尽なモノをそなえた『甘坂』。

もうご遠慮したいというのが本音である。

故に新しい地獄を共同で作り、そこでの隔離措置を決めたのだった。


「奇跡的に孫は異世界に行ってくれたが…、確か高平の子倅も同じ異世界に二度目の召喚をされたんだったか?神薙流を引くなんて運がないな異世界。ついでに爺さんの方も行けばよかったのに。神薙流でも甘坂家くらいだぞ、天命を鍛錬で縮めるのは…!」


「甘坂は死なれると厄介ですから、かなり寿命を延ばして有りますもんね」

本来なら五一は200歳まで生きたようだ…。

105年分の寿命を縮め、直も長寿の域。

しかし、本当に恐ろしいのは、寿命を縮める程の鍛錬である。


当然ながら天命尽きるまで生きた甘坂は未だかつていない。


「他の神薙流三家は神と戦えば満足するか大人しくなるのに…。大体、神と戦うためにこっちにくるなよ。人対人で満足しとけよ…。くそ、重役を集めろ。それと天界と仏界にホットラインを繋げ!対策会議だ!時間が無い!」


「え、あの私は秘書じゃないのですが…?」

そう、秘書ではない、書類整理をもう少しで終えて、久しぶりに定時で帰れるかもと淡い期待をしていただけの新婚の赤鬼である。



「じゃあ、今から秘書だ。この件を逸早く報告した功績として秘書に昇格だやったな!…さあ、働け!!」


「oh、妻との時間が…。分かりました。…また獄卒が全滅するような事態にならないよう、急ぎます」

そう言って赤鬼は閻魔の執務室を後にした。

閻魔は鬼が出ていくのを確認してから甘坂の資料に目を通す。


「…へえ、孫の方が潜在能力は高いのか…。異世界が不憫だな。しかし、この五一には一度も勝てていないようだな。現時点では、この甘坂五一が歴代の甘坂の中でもトップクラスか…。孫共々、現代社会の物の怪だな。……どうしよう。いや、孫の方を考えなくて済むだけでも良しとしよう」

重役たちが駆け付ける数分間、執務机の上で頭を悩ませる閻魔。

甘坂五一の資料に『意外と子供好き』と有ったため、迎えに行かせるのは子供にしようと決めたのだった。






五一が死んで数日が過ぎ、今五一の眼下には火葬場へと向かう自分の体が映っていた。


「ぐむむ、高平の小僧め…、息子が行方不明だというのに、ワシの葬式に愛人なんぞ連れてきおって!…鷹森は相変わらずベッピンぞろいじゃった、うむ良い目の保養じゃ。しかし、唯一まともに泣いとったのが紙坂家と外部の人間だけというのがの…。まあ、戦いに行くんじゃ、湿っぽいよりかは、よほどましかの」

火葬場の中には入らずに、空を漂いながら腕を組む五一。


しばらくすると火葬場の煙突から煙が上がる…。


「ホッ!ようやっとか!……本当にワシの得物は来るんじゃろうな?」

煙を見て思わず、そう声を上げる五一だった。

ずしりと心地よい重さが体に加わる。


隕鉄で作られた手甲と脚甲の『黒堕(クロオチ)』、本差しの『鬼正(オニマサ)』、居合刀の『刻断(コクダチ)』。

そして格好も真っ白な死装束から、藍染の着物と裾を絞った黒い袴姿へと変わっていた。

ここまでは、五一の戦装束、まさにフルアーマージジイである。


他には、鎖付き苦無『(カイナ)』、十文字槍『方砲(ホウホウ)』、旅先で拾った西洋の短剣、今は亡き妻の若かりし日の写真など多様な物が、いつの間にか身に付いていた。


「あ奴等、蔵を探していらんもんを焼いただけじゃ無かろうな…。まあ、おトヨの写真は有難いがの…。アッチに行っても会えんじゃろうな、おトヨは天国じゃろうしの。…死ぬ前に、アイツの作った飯が食いたかったが、無理じゃし。…会いたかったのぅ」

何故か腰に下がっていたミカン袋からミカンを一つ取り出し、食べながら呟く五一であった。


「おまえも食べるか?ワシの反撃を喰うよりは美味いと思うがの」

五一は背後に声を掛ける。


「!」

「気づかんとでも思ったのか?さて、お前さんがお迎えかの。……随分とちみっこいの」

五一は振り返り、視線を下へと下げる。

自分の身長の半分以下の子供が大きな鎌を構えて固まっていた。


「小っちゃくないです。立派なレディです。訂正してください」

「ホッ!女の子か、そりゃすまなんだな」

85cmほどの身長に、全身を隠す黒いローブ、そして可愛らしくデフォルメされた骸骨のお面。

これで性別まで判断しろというのが無理である。

そこだけ見ればハロウィンの仮装した子供くらい微笑ましいものだが、その手には体格に不釣り合いな1.5メートルほどの禍々しい大鎌を携えていた。


「で、そのれでーがなんで背後から切り掛かろうとしとったんじゃね?」

(ふむ、あの鎌相当ヤバ気じゃの…。死神という奴かの。これで子供でなければ一勝負したいところじゃったが…。一見した処、腕は未熟じゃし。流石に苛めはのぅ…)


「もし出来るなら、魂を削って連れて来い。との事でしたので。一応狙わせてもらったです。…では、案内します」

よいしょ。と大鎌を肩に担いでそう言う自称レディ。


「そうか、そうか。ちみっこいのに、よう頑張ったのぅ。特別にミカンをやろう。で?ワシは、何処に連れて行かれるんじゃ?」


「小っちゃくないです。でも貰います、ありがとう。…行先は地獄です。まずは冥府で閻魔様に会って貰ってから、どこに送られるのかが決まります」

(先輩から絶対に『死神』だって言っちゃ駄目だって言われてたけど、なんかいい人そうです)


「くく、クカカカッ!閻魔かぁ…。楽しみじゃのぅ」

「……」

(…訂正、この人はいい人じゃ無いです。絶対に死神だって言いわないです!)


孫よりも数倍上の狂笑は、死神見習いを大いに引かせたのだった。





浄玻璃鏡(じょうはりのかがみ)で一部始終を見ていた閻魔と4人の重役達、そしてホットラインで繋がった天界と仏界の統治神たちは、一つの結論を出す。


『あ、閻魔(オレ)死んだな』と。


「……短い付き合いでしたが、来世でもお達者で」

閻魔の肩を叩きながらそう声を掛けて来たのは、重役の一人だった。


「イヤだよ!?歴代トップの『甘坂』となんか戦いたくないぞ!?…ねぇ!ブッダ様、念仏を唱えないで!イエス様も十字を切らないでください!?洒落にならないですから!?」

ホットラインの向こうにツッコミを入れながら、どうにか戦わないですむ方法を考える。


そしてティンときた。


「孫は巻き込まれて、奇跡的に異世界に行った。…うん、それがいい。適当に道を開いて送り出そう!」

((((((何言ってんのこいつ!?))))))


「問題は魂と霊体だけだという事だな…。そうか!人間界のサブカルチャー、バーチャルなんとかに叩き込めば、肉体は関係ない!そしてそこで死ねば魂も削れる!まさに一石二鳥じゃないか!!」

最高にハイだぜ!と一人で盛り上がる閻魔に重役の一人から声がかかる。


「現実逃避はすみましたか?」

「……もうちょっと、お願いします」

分かりました。と下がる重役。


「…でも、結構いい案だと思うんだ。…実はゲーム内で魂の構築をしているゲーム会社を見つけてな。近々罰を与えようと思っていたんだ、箱庭とはいえ『魂』を創るのは神の仕事だ。そして罰を与えるのは閻魔である私の役目。…必死に創った箱庭で『甘坂』を飼い続ける。これ程の罰は無いだろう?」


どうしても戦いたくない閻魔からの、プレゼンテーション。

魂を創るのは神の役目だと言う閻魔。


しかし、一つおかしな点がある。

閻魔の仕事は『生者』には、適応されないのだ。

その事を誤魔化しながら、必死に周りを説得する。


「…という事で、決定。さあ、道を繋げるぞ!移動中の今しかない!」

ブッダとイエスの止める声も、重役達の制止も間に合わず、行動に移す閻魔であった。

この対策会議に果たして意味があったのだろうか、疑問である。


「あの死神見習いに連絡入れとかないと…」

閻魔の暴走により、子供が割を食うのは見逃せなかった女の重役が、詳しい事情をしたためたメールを送り、駄目押しで電話もかけたが通じなかった。

「お願い、付いて行っちゃ駄目よ…」


もう祈るしかなかった。





「?…おかしいですね。もうそろそろ三途の川が見えてもいい頃なのですが」

景色の変わらない暗闇を特製のコンパス一つで冥府に向かう、自称レディの死神見習い。

その後ろをワクワクしながら付いて行く五一。

地獄行き、と言われた男の反応ではない。


「三途の川か…。渡し賃は『得物』があるから大丈夫じゃろ」

居合刀『刻断(コクダチ)』。

この男、賽の河原の船賃を『神薙流拳刀術』居合抜刀の武技、『六銭(ロクセン)』で文字通り切り抜けるつもりである。


槍術、無手術、剣術、投擲術、このすべてに『六』の付く技がある。

神薙流において、『六』の付く技は、必ず一つは覚えなければならない。

形態は違えど、目的は一つ。

『冥銭』の代わりである、実に物騒な一族だ。


「あれ?コンパスが…」

「どうしたんじゃ?」

突然コンパスの針が狂ったようにクルクルと回り出す。


「なんじゃ、壊れたんか?む?あっちだけ明るいの、あそこに行ってみようか」

「え?明るい?冥道から抜けてないのにですか?」

(あ、本当です。『光』が射してます。あり得ません、先輩から冥道に光が射す事例は、聞いたことが無いです。それにコンパスが狂うなんて…、ここは現世(うつしよ)じゃないのに。……あ、電話)


「何しとるんじゃ、置いてくぞ。ちみっこ」

「あ、ちょっと待ってください!あと、小っちゃくないです」

仕事中という事を思い出し、後で掛け直せば大丈夫と五一の後を追いかける。

これが死神見習いの分岐点となった。


そして、二人は光に近づき、消えた。





「ふむ、ここが冥府かの…。ほほぉ、中々よさげな『敵』ではないか!」

「……どこですか、ここ」

死神見習いが見慣れた地獄、ではなく。

人工的な建造物、見たことのない化け物。

それに先客もいるようだった。


そしてその化け物は、語りかける。


『よく来たな、勇者よ!我は第一の魔神!全てを滅ぼすものなり!!』

「あれ?これってソロストーリーのはずじゃ…。レイドだっけ?まあ、いっか!そこのお爺さん、手伝ってよ!…あれ?ユニオン申請出来ない?もしかして助っ人NPCかな…」


「…ほぅ、魔『神』と言ったか!言っとる事が分からんが神と戦えという事なら是非も無し!!」

「ちょっとまつですよ、おかしいです!アレから魂を感じないです。…肉体も無い?アレは生きてないです!」


「…えらく濃いNPCだな~…。一応ソロの『ラスボス』だし気合入れて行こう!!…ちょっと!?」

そういう先客を置いて、五一は駆け出す。


「全力で振るうのは久方振りじゃが…」

この男が全力を振るったのは、戦争の最中。


自身が特攻隊に選ばれ、ある海域で仲間を庇った時だった。

戦艦の砲撃に直撃した愛機は海の藻屑と消えた。

激高した若き『甘坂最強』……人としては死んでおくべき処である。


砲弾を放った戦艦に向かい海を『走り』、刀を全力で……振るってしまったのだ。

結果はご想像にお任せしよう。


敵兵にトラウマと絶望を刻み、味方にトラウマと諦めを刻む。

そんな理不尽の塊が頭角を現した瞬間だった。



「カハハッ!斬り散れ!!」

その一言と共に、魔神も向かって全てを終わらせる一閃が放たれた。






風が無いのに靡く木々、見たことも無い違和感だらけの町。

そこに紛れ込んだ『理不尽の塊(一つのタマシイ)』と『死神見習い(巻き込まれたちびっ子)』。


そこは『パワーゲート・オンライン』

ファンタジーな二つの世界を繋ぐゲートが存在する世界。

そこをゲームの中だと五一が理解するのは、いつになるのか。





「…うん?……なんじゃ、一撃で終わりか。見かけ倒しもいいとこじゃわい。…詰まらんのぅ」


そしてこれが神の援助を受け、この世界で最も息の長いゲーム誕生の瞬間。

たった一つのバグを消し去る為、世界最多のデバッカーを駆使するもこのゲームはこう呼ばれた。


『バグ無双』と。


これは甘坂の魂を削れるまで続く、運営拷問ストーリー。

…運営、お前は哭いていい。

爺さん主役にしてみたら、こうなった。


続きません。


byミスター

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