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猫守紀行  作者: ミスター
113/141

追う者、追われる者

ぬるりと投稿。

一南side


「その『純血種』は貰い受けるぞ神気使い」

何でコイツが生きてんだよ?

確かに氣で心臓を潰したはずだが…。


それにあの四本角…。

あの確か、バルドカールとか言ったか?アレの小型版だな。


ゆっくりと羽ばたき、地面に降りて来る竜といつかのクソ野郎。

周りの兵士や貴族様は、奴の放つ神気に当てられ一歩も動く事が出来ない。

それどころか、逃げ出す奴までいる始末だ。


逃げ出した奴はよく動けたと褒めてやってもいいかもしれん。



…しっかし、コイツが相手じゃ穏便になんて済まねぇんだろうなぁ…。



《一南…》

《主殿…》

心配そうなガトゥーネと波平の声。

そうさなぁ、今は戦いたくねぇなぁ…。

俺は人を止める気はさらさらねぇからな。まあ、散々人外だの鬼だの言われてきたがな!


《オ?シンキノヒトダー!》

以前大量に神気を奪った事を思い出したのか歓喜の声を上げる一匁。

これはスルーしてもいいんだろうか…?完全に飯としか見てないぞこいつ。



純血種ってのは短角種の事だろうが…。

ルナの事を血が薄いと言っていたこいつが求めるって事は、混ざりもんなしって事か?


ルナのばあさんである、サリューナが作った子供とかじゃないって事だな。

有りえるのかそんな事…?


まあ、いい。それよりも、だ…。


「おい、使徒様よぉ…。なんでテメェが生きてんですかねぇ?確かに心臓に氣をぶち込んで潰したよなぁ?使徒ってのは不死なのかね?」

それはそれで、心が死ぬまで殺し続ければいいだけなんだがね。

お前が死ぬまで打ち込む(氣)のを止めない!ってやつだ。



「何を言っている貴様……なんだ、バルドカール。なにっ!?コイツがあの化け物だと!?」


「マジか、気づいてなかったのかよ。黙っときゃよかったな…。つうか、その竜あの巨竜かよ、縮んだねぇ」

まるで俺のせいだとでも言うかのように睨んでくる竜だが、覚えがねぇな。

精々、脳天破裂させたくらいだが…。ああ!転生か!一応モンスターの部類だったんだなあの巨体で。


しかし、俺の事を化け物とは心外な。


「丁度いい、貴様には用があったのだ」


「はぁ?用だぁ?もう一度殺されに来たってのか?」

っと、いけね。ガトゥーネに心配かけたばっかじゃねぇか…。

自重しろ、俺。


「ほざけ。我が神の憑代と成れるかどうか…。貴様の『魂』の特性、見せてもらうぞ!『魂の鑑定(アナライズ)』!」

変化があったのはクソ野郎の左目。

片眼鏡のように魔法陣が浮かび上がる。


アナライズ…。

俺の体に掛けられた感じはしない。

目に直接魔法を掛けてんのか?

ゲームとかでよくある強さを数値化する魔法かねぇ?



「……なんだコレは?魂の特性が『甘坂』?何故貴様の苗字が……チッ、異世界特有の特性という事か!どんな特性か読み取れないとはな」

………すまん、それ、甘坂家特有だと思うわ。


しかし神薙じゃないんだな。

魂にまで刻まれる苗字ってのもどうかと思うが…。


「…理解不能だ。やはり貴様は危険か…。なにと戦ったかは知らないが、どうやらその鎧の中の肉体はかなりの損傷を受けているようだしな。先ほど立ち上った尋常ではない『命の力』が原因か?どちらにせよ、ここで殺さねば必ず障害となるだろう…」


チッ、ちゃっかり俺の体の状態まで見てやがったかよ。


クソ野郎は四本角の背から飛び降り、着地と同時に左手を水平に振った。

たったそれだけの動作で幾つもの魔法陣が宙に浮かぶ。

白色の魔力光、神気だな?流石に一度殺されただけはある、殺しにかかってきたねぇ。


《…一南、神気には魔力は効きにくい。忘れたのか?お前は今、神気の鎧を纏っているのだぞ?》

(……いや、勿論覚えてたよ?うん)


《シンキ!シンキ!》

…一匁はちょっと黙ってようねぇ。


四本角も完全に俺をロックオンして戦闘態勢を取っていた…。


「…クハハッ。非常に楽しそうだが、俺は人を止めたくないんでねぇ。…逃げる!」

胸に下がった『戻り水晶』に氣と同じ要領で『圧縮した』少ない魔力をつぎ込む。



するとどうでしょう、胸元でなにかが割れた音がしたじゃありませんか。

……やっべ、素でやっちまった!?



《…一南。態とか?態とだろう?》

う…、女神さまはお怒りのようだ。


(いや…、すまん…。本当に態とじゃねぇんだ。なるべく消費魔力を抑えようとして圧縮したんだが、まさか砕けるとは…)

マズイ、戻り水晶はハチカファの神具の子機にもなってる。

連絡が取れなくなっちまったか…。



「…胸元に転移魔法でもしかけていたか?発動媒体が砕けたようだが、逃げるのではなかったのか?」

…いちいちイラつく野郎だな。


…城内に逃げ込むか?…ねぇな。

四本角は追ってこれねぇだろうが、このクソ野郎の魔法は城内じゃ避けにくい。

そもそも、城ごと吹き飛ばすくらいはやりそうだ。


近くの路地に逃げ込むか?

難しいか、近いと言っても多少距離があるしな。


…退路の確保ってのは大事だが背を向けて逃げるにゃ、ちと相手が悪いかねぇ。


「…なあ、使徒様よぅ。お前、この女を狙ってんだろ?やっぱあれか?神の召喚ってやつの為か?」

俺は話しながら、足に『過剰な』氣を溜め、逃げるために備える。

逃げる過程で、蹴りの一発程度は仕方ねぇだろう。


なにせ、逃げるためだし、うん。


「当然だな。純血の短角種など今の時代、何処で生まれたのかすら分からないが…、もし生まれた場所が特定できれば一挙に捕獲できる。その純血種を逃す訳にはいかないのだ!」

ふむ、生かして捕らえる気はあると。

城に逃げ込んでも、城ごと吹き飛ばされる事は無さそうだが…。


別に、ここで渡してやってもいいんだがね、コイツなら教会よりも確実に神の召喚をやってのけるだろうし。


ま、生かして帰さねぇ的な空気を出してる奴に、そのままこの女を渡したって先は見えてる。

神が召喚されても、戦えなきゃ意味がねぇ。


精々盾として使わせてもらうかねぇ…。

…我ながら外道だな、ちと悲しくなるわ。


俺は両腕は激しくは動かせん…。

それを気取られぬよう……いや、さっき損傷しているとか言ってたし知られてるか。


取り敢えず、いつでも動けるように腰を落とし、身構える。


肩に背負った女を波平に当然のように前面に押し出してもらう形で。


「…貴様、純血種を盾に使うか…!それに、この殺気。その死に体で我等とやろうというのか。腕を振るえば神気に侵食され精神に異常をきたすというのに…。蛮勇、いや狂気の沙汰だな」

〔神気で傷を埋めているのか?癒し方が分からぬなら愚行としか言えないな〕


言いたい放題だなこいつ等…。

そういや、ガトゥーネが同じ神気でも治癒は特殊だって言ってたな。

今だって傷を治してる訳じゃねぇ、要は毒素の強い素材で出来たギブスを付けてる状態だ。


〔しかし、エギュニート。この殺気、以前よりも強い…、コイツの命と純血種同時には取れんぞ。それほどに奴は厄介だ……我等の大義忘れるなよ〕


「分かっている!だが、奴はここで仕留めねば!我等を一度殺している存在だ。特性も理解不能なものだ、脅威でしかないぞ!」

おおう、仲間内で言い争いか?有難いねぇ。


今の内に波平に『逃走』手順を説明しとくか…。


「しかし、厄介って言葉はコッチの台詞だがねぇ…」

そう呟きながらの『空転び』

その勢いをそのままに、氣の籠った前蹴りを言い争う竜の横合いからどてっぱらにぶち込む。


〔グゥッ!?貴様!!〕

…相変わらず硬ぇでやんの。

でもまあ『入った』ぞ?


「戦闘中は俺を放置すんなって前も言ったろうよ。寂しくてやっちまったじゃねぇか。…波平!」

《御意!》


波平には俺の肩口から神気を飛ばしてもらい皮膜を狙った。


おう、いい感じに翼がズタボロだねぇ?飛べなくする事が目的だし、目的達成か。

蹴りは、まあ…、ついでだついで。

お菓子のおまけみたいなもんだ。


おまけの蹴りでいれた氣を四本角の体の中で爆発させる。

圧縮してねぇから大した威力はねぇがな。


「ガァアアアアアァア!!!?」

氣によって内臓を傷つけられたのか、血反吐を吐きながら叫び、暴れる四本角。


「アマサカァ!!バルドカールから離れろ!!」

そう言って魔法を発動させるクソ野郎。

白い閃光が幾重にも奔る。


言われなくても離れるわ!暴れてて危なくてしょうがねぇしな。

クソ野郎の魔法が俺に届く前に足に残った氣を使い、空転びでその場を離脱する。


俺が躱した魔法は建物を貫き、貫かれた建物は轟音たてて崩れていった。

巻き上がる砂煙。


「くはははッ!さらばだ!」

波平に『盾』の位置調整してもらいながら、その砂煙に紛れての逃走。


腕が使えなくても意外とやれたかもしれんが…。

あんまり余裕かましてると腕を使わされそうだしねぇ?逃げるに限る!



俺はホームに帰れる目途の立たないまま、逃走劇と洒落込むのだった。


Sideout




エギュニートside


〔グウゥッ…!あの男許さん!!空から追うぞ!〕

「落ち着け、その翼では無理だ!あの蹴りで命の力を打ち込まれたはずだ、動くな今治す!」

数少ない完全治癒のポーションだが…、友の為ならば惜しくはない。


〔…すまん。油断からこの時代では手に入らない貴重な物を使わせてしまうとは、情けない!〕


「馬鹿が、今は時間が惜しいだけだ。お前の為では無い。全ては大義の為」

この時代で手に入らない物はポーションだけではない…。

過去を共に戦った戦友。それもまた、二度と手に入らないものだ。


〔…相変わらず鼻につく男だ。…乗れ、魔法で飛びながらでは探査魔法も上手く使えまい、追うぞ!〕


「…待て。そうだな、せっかく天神の人形(無魂種)がこんなにいるのだ。少々働いてもらうか。…無魂種風情で如何にか出来る相手ではないが、今の奴の状態なら足止め程度には使えるだろう。暴れてくれればその分隙も出来やすい。『リミットアウト』」


私は周りで呆然と佇む木偶達に魔法を掛ける。

本来無魂種に掛けてあるリミッターを外す魔法。


私の時代、リミッターを外された無魂種は短期決戦用として使われた。

個々に差がある無魂種の能力を最大限の処で一律化し、理性すら奪う魔法。

もっとも、リミッターを外した状態で長く耐えられる訳ではないが。


この魔法を使ったあとは砕け散るのみだ。


「従え。標的はアマサカイチナ。女は殺すな。さあ、奔れ猟犬共(捨て駒)よ!」

無魂種を言霊で操り、私はバルドカールの背に乗る。

言霊は命令が簡単であれば解ける事はほぼないと言ってもいい。


昔は天神の使徒と言霊で兵の奪い合いをしたものだが、今の天神の使徒も言霊を使えるのだろうか?

…考えても意味のない事か。


〔行くぞ!〕

「ああ。必ず純血種はこの手に納める!」

理性の欠片も無いような雄叫びを上げ走り去る無魂種共を一瞥し、

バルドカールのはばたきと共に私達は空へと舞いあがるのだった。




Sideout





ファルナークside


「み!」

「ぴ?ぴ!」

「……?!」

フリーナのドレスの素材が気にいったのか、何故かドレスの裾を構い倒す三匹。

…これは、フリーナを慰めようとしとるんかの?完全に遊んどるようにしか見えんが。


「ウフフフ、可愛いわぁ…。あら、あまり引っ張っては駄目よ?ドレスが破けてしまうわ」

…う、うむぅ。

流石にこの状態のフリーナを放置して、イチナの様子を見に行けんのう…。

目が虚ろじゃよ大丈夫か?


「城があの状態じゃ現実逃避も仕方ない気もしますが……イチナさんは無事でしょうか?」

「分からぬ…。ハチカファからは連絡が取れんと言われた。すぐにでも行きたいんじゃがの…」

もう一度王城に視線を戻すと、空から竜が舞い降りるところじゃった。

ここからでは王城の門までは見えんか…。


この国の騎士に竜を従えるほどの者がおったかのう?

…淡い期待じゃ、遠目に見えたが竜の色は黒じゃった。

ブラックドラゴンは気性が荒く、気位も高い……まず騎士では無かろうな。


…嫌な予感がするのう。


「のう、フリーナ。……フリーナ!ええい!正気に戻れ!一国の女王がそんな事でどうする!!」


「ウフフフ…、ハッ!?そ、そうですね。すいませんファルナーク様。…いけない、いけない、このオチビちゃん達は魔性ですわ…」

むう、可愛いもの好きなのは知っとったが……アリーナン化一歩手前ではないか。


「おぬしを保護できる場所を教えてくれ。流石に我等のアジトに連れて行く訳にはいかんからの、おぬしをどうにかせんと我等も帰る事もイチナの様子を見に行くとこも出来ん」


「そうですわね…。それではギルドに。教会に行くには少々不信が強すぎますので」

「うむ、分かった。すまんの、連れ出しておいて。バルクはこっちで処理するがかまわんか?」


「ええ、構いません。……そう言えば教皇はどうしたのでしょう?」

あの場に放置してきたんじゃし、間違いなく死んどるんじゃろうなぁ…。


「…気にするでない。では、迅速にギルドまで…!なんじゃ!」

突如、竜の苦悶の悲鳴と建物が崩れる音が響いた。

そして聞こえる兵士達の雄叫び…。


なにが起こったんじゃ!?


「……ファルナークさん。僕、見に行ってきます。きっとイチナさんです」

「断言するのは可哀想じゃがイチナじゃろうな。我も行きたいが…」

フリーナを護衛もなしに歩かせるのはのう…。


「行って下さい、ファルナーク様。私の事は気にせずに、どうか…キャッ!?」

「……発進、…女王陛下。…ごー」

黄助から飛び降りたパー子がそのままフリーナの背中に張り付いた…。

戸惑いながらもしっかりとおんぶの体勢を取りながら、パー子のお尻を鷲掴むフリーナに少々危険なものを感じた我は悪くない。


「………なにしとるんじゃ」

「……護衛?…ギルドまで行って、…そのまま帰る。…簡単なお仕事」

護衛の位置ではないわ、バカ者。


「……ファルナークは、賞金首。…顔が知られてて、…逆に危ない」

ふむ、確かにそうじゃ…。

フリーナは、我が送ってやりたいが確かにパー子のいう事ももっともじゃ。


「……私はサウスミンが足りない。…ファルナークとソルファはイチナに会いたい。…これぞ、うぃんうぃん」


「なんじゃうぃんうぃんとは…」

我はイチナではないんじゃ、分からんぞ。


「ファルナーク様。私はこの子に護衛をお願いしますわ。行って下さい。この子をおんぶしていれば、誰も私が女王だとは思いませんよ」


…うむ、そうじゃの。

忙しなく蠢くパー子の尻に這わせた手や、

緩むのを必死でこらえ引き攣った顔を見れば、ただの変態にしか見えんじゃろうな。


我じゃったら話しかける事もさけるぞ…。


「むう…。パー子、気を付けるんじゃぞ?(フリーナに)危なくなったら吹き矢で倒しても構わんからな?(フリーナを)…黄助!チビ共をまとめよ」


「ガゥ」

その我の言葉で黄助はチビ共を捕獲し始める。


「み~、み!?」

「ぴぴ!?」

「……!?」

うむ、流石に慣れておるの。あっという間じゃ。


パー子では戦闘となったら不安が残る…。


「ソルファ。ハチカファに連絡じゃ。アンナとチビ勇者。あとサウスにこっちに戻るように伝えてくれとな」

あっちの防備はマキサックとオウマ、それに使徒様で充分なはずじゃ。


「帰った皆を?女王陛下の護衛に回すんですか?パー子ちゃんがやる気になってるのは初めてですよ?」

あやつサウスに会いたいだけじゃ。


「サウスには悪いが、あやつはパー子を背負っておっても戦力じゃし。勇者二人にはフリーナの護衛をやってもらう。フリーナもすぐにこの王都から避難できる訳でもなかろう。……それにの、どうにも嫌な予感がしての」


「…分かりました。皆と合流するまでは僕とパー子ちゃんが女王陛下の護衛を務めます。先に行ってください。皆が来たらサウスを先行させます」

ソルファも行きたいんじゃろうに…。


「すまん、頼んだ!黄助!イチナの場所を見つけるんじゃ!」

「グルガァ!」

我は駆け出す。


先行する黄助の背で団子がもちゃもちゃと蠢いた。


「み!」

「ぴ!」

「……!」

……しまった!こやつ等をおいて来るのを忘れておった!?


Sideout





一南side


俺は取り敢えず王都から出ようと思い真っ直ぐ街の出口へと向かっていた。


路地に入って時間を稼ぐ事も考えたが、この王都の地理には疎い俺が路地を逃げ回ることは少々厳しい。

まあ、俺は大通りを爆走する事を選択した訳だが…。



すぐに見つかる事は当然分かっている。

決して、間違えて大通りに出たわけじゃない。

断じて、その方が面白いかな?とか思ってない。



…ほら、あれだ、あのクソ野郎の魔法での王都への被害も馬鹿にならんだろうし、最短で外に出た方が良いだろうよ?


俺が出す被害の事は勘定には入れてない。

ほら、俺人間だし?そこまでぶっ壊れた事は出来ねぇよ、きっと。


つかよぉ…。



「「「「「「ウオオオオオオオオ!!」」」」」

…何この状況。


「クハッ、笑えねぇなおい!?」

さっきまで俺の殺気で腰を抜かしてた貴族様を筆頭に、あの場いた連中が雄叫びを上げながら追って来る。


「…おいおいおい!貴族様よ、壁を走るなんて出来たんですか?」

俺の殺気に怯みもしなくなってんなぁ、どうなってんだ?……当てる殺気が弱すぎるか?


なんでか知らんが、頭のネジが飛んだみたいに追っかけて来るし…。

ネジと一緒に理性も飛んだか?獣と一緒なら殺気で散らす事は出来るはずなんだがねぇ…。

クソ野郎に魔法でも掛けられたか?


まあ、ひたすらに追われるのも面白くねぇんだが。

その後ろからはクソやろうと四本角も追って来てるしねぇ…。


っと、んな事考えてる内に突っ込んできやがったよ!


「面倒だな、おい!」

《そのまま走れ一南!》

《さよう。神気での攻撃でない以上、この鎧に傷を付ける事は叶いませぬ。なにより…》


俺の纏っている神気の鎧の肩口から刀の刃が飛び出し、突っ込んで来た相手を貫いた。

そのまま刃は神気の鎧を縦横無尽に動き回り、相手を刻み捨てる。


《この波平。主殿の戦いを間近で見て来たのです。問題は有りませぬ》

おおぅ、頼もしいねぇ。


……あれ?これって逃げなくてもよくねぇか?

そんな事を考えるとユラリと殺気が漏れ出す。


《馬鹿な事を考えるな一南。あの貴族達は如何にか出来ても、使徒と竜をお前の流派の術理を使わずに倒せるのか?今は逃げ切って帰る事を考えるんだ》


その前にこの『盾』にしてる女もどうにかしなきゃいけねぇんだがな…。

そう思いながらガトゥーネに返事をした瞬間だった。


「……あいよ。うおっ!?」

路地から黄助が飛び出して来たのだ。


「み?みー!!」

「ぴぴー!」

「……!」

その背にはチビ共。

白は右前脚でタシタシと黄助の背中を叩いている。…俺がいたことを知らせているんだろうか。

勿論だが、黄助は白よりも先に俺を認識し、背後に迫る敵に牙を剥き出しにしている。


「見つけたか、黄助!」

ルナもいんのかよ!?

だが、これで帰る算段がついた!


「「「「「オオオオオオオオオ!」」」」」

咆哮を上げ、壁を蹴り突撃して来る貴族様達。


「むおっ!?アツタール!?なんじゃこの運動能力は!それに、おぬし…、イチナか?」

「おう、ちいと着込んでんがな」

厚田、混じってたのか…。それをなんの躊躇もなく大剣の一振りで肉塊に変えるルナが素敵だ。


ん?なんか奴等の様子がおかしい…。

動きを止めた?仲間をやられたからか?

だが、その視線は俺じゃなく……チビーズを見ていた。


「「「「「オオオオォォォォ………フォォオオオオオオオオオ!!!」」」」」

「み!?」

「ぴ!?」

「……!?」

先程の猛々しい雄叫びとはまるでベクトルの違う歓喜の声。


「…なんだ、理性がぶっ飛んでるからアリーナン化したのか」

「それじゃとアリーナンはすでに理性がない事になるがの……はあはあ言い出したぞこやつ等」

理性の無い目つきで顔を上気させ、一心に白達に熱い視線を送る貴族様や兵士達…。

理性が無い…。そしてアリーナン化。残念な事に、この後の行動は手に取るように分かっちまった。


「黄助ぇ!チビ共連れてこの場から離れろ!」

頷く黄助、それに恍惚とした表情で飛び掛かる集団。


集団が並んだところに氣を乗せた剛脚を叩き込む…。


「うおっ!?空中で避けやがった!?」

本能が喰らったらヤバいと踏んだのか…。

俺が狙った奴は隣を飛ぶ男の肩を掴みその場で身を捻り躱されてしまった。


「…無駄にスペックがたけぇなクソが!これがアリーナン化の影響か!!」

今ので数を減らしておきたかったんだがな!

ルナも剣撃を避けられたのか顔が引き攣っていた。


黄助はすでに動きだしている。

背のチビ共を鞭で固定し空転びで離脱していた。


一人ならまだしも20人以上の身体能力の高いアリーナン…。

それが一斉に黄助を追って走って行く……怖ぇ。


なにより、俺を清々しいまでに無視しての行動…。

おかしい。こいつ等は俺を追っていた筈なんだがねぇ…。


アリーナンなら白を傷つける事はしないと分かってはいるが、アイツ等は理性がない。

何をするか分かったもんじゃねぇ!


「あー、クソッ!追うぞルナ!クソ野郎に追いつかれねぇ内にアイツ等を潰してさっさと帰る!」

「う、うむ!…クソ野郎?」

ったく、んな事やってる場合じゃねぇんだけどなぁ…。


アイツ等を嗾けたクソ野郎に言いたい。

なんで俺が追う側に回ってんだよ!!アホウが!


Sideout

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