11
時が止まったかのような静寂が訪れる。
思わず口を塞いで、漏れる声を閉じ込めた。
―――これは、私――――?
胸が苦しい。
息遣いが荒くなる。
視界が歪んで、手の中の紙がどんどんぼやけていく。
下睫毛に支えられなくなった雫が零れて、ぽたぽたと落ちていった。
紙を抱き締めるように胸に押しつけ瞳を閉じれば
時が、子供の頃のある場面に、戻った―――……
――――……冷たい石造りの廊下。
沢山の人がいるのだろうか、複数の足音が響いてる。
その先頭を歩く、逞しい腕に抱かれて移動するのは幼い私。
すぐ傍でふわふわと揺れる立派なお髭が気になってて、触ってみたくてうずうずしてる。
「さぁ、ここが何だか、分かるか?」
お髭がふるふると動いて、煌く瞳がこちらを向いていた。
赤く塗られた可愛いドアが瞳に映る。
首を傾げてただ横に振ると、自動ドアのようにそれが開けられた。
「王様、お待ちしておりました」
中から女の人の声が聞こえてきて、柔らかな色で彩られた可愛い調度品と大きな天蓋付きのベッドが目に映った。
「本日よりここが姫のものだ。気に入ってくれると良いが。どうだ?」
地味な色の中で過ごしてきた私には、そこは夢の世界に見えた。
誰がこのお部屋を使うのだろう。
姫って誰のことだろう。
ちょっぴり羨ましく思いながら、幼いながらも務めを果たそうと思った。
―――おうさまは、わたしに、ここをどう思うのか、きいてる。
ちゃんと、思ったこと、つたえなくちゃ―――
「すてき!かわいいおへやだわ。あのカーテンかわいい!あのクッションも。それに、それに、ベッドも!だれのものなの?その子、きっとよろこぶと思うわ!」
はしゃいだ声を出して、一生懸命そう言えば、小さなどよめきの声とクスッと笑う声が聞こえてきた。
逞しい腕の主、お髭の王様は何故なのか渋い顔をしている。
隣から、金髪の人が顔を覗き込んで来た。
この人は確か、水の中から助け上げてくれた人。
私の命の恩人。
あの時は怖い声で怒鳴っていたけど、今はとても優しい顔をしてる。
「姫、ここは、貴女様のお部屋なのですよ」
「うそ。わたし?だって、ひめっていったわ……ほんとうなの?ここが、わたしのおへやなの?」
信じられなくて目を瞠って金髪の人を見つめていると、視界は下へと移動して絨毯の敷かれた床が近くなった。
すとん、と下ろされて立派なお髭は精一杯見上げないと見えなくなった。
「そうだ、そなたが姫だぞ。ここはそなたのものなのだ。欲しい物、不便等があればなんなりと言えば良い。すぐに手配する」
広いお部屋。
おばば様の家のどのお部屋よりも大きい。
隅から隅まで力いっぱい走っても、時間がかかりそうなほどに。
王様と金髪の人を交互に見ると、二人ともにこにこ笑って頷いている。
―――ほんとなんだ。
ここが、わたしのものなんだ。
うそじゃないんだ。
ほんとに、ここにいていいんだ―――
「うん。ありがとう!おうさま。わたし、うれしい」
「こら、何度言えば分かる。父と呼べと言っただろう。いいか、王様ではなく、 お と う さ ま 、だ」
幼いながらに感じ取る、王が自然に醸し出す威圧感。
怖い声で窘めるように言われて、大きく息を吸い込んだ。
「ぁ、ごめんなさい……ぉ、おとうさま」
言いなれない言葉。
怖くて恥ずかしくて舌がもつれそうになるけど懸命に声に出した。
―――おこらないで。
おねがい、きらわないで。
みすてないで。
もっとじょうずにいえるようになるから。
いい子にしてるから。
おねがい、ここにおいて―――
お髭が涙に霞む。
唇をぎゅっと引き結んで、涙を零さないように一生懸命こらえた。
“同情引こうってのかい?泣けばいいってもんじゃないよ。娘は忙しんだ、お前とは遊べないんだよ。ほら家に帰りな”
冷たく言い放たれてドアがバタンと閉められた。
あの時のおばさんはとても怖い顔をしていた。
―――あのときといっしょ。
ないたらもっときらわれる。
がまんしないと―――
「王様、セリンドルの森から引き取って来たばかりなのです。まだ慣れないのです。怯えているではないですか、ご勘弁願います」
「む、そうであったな。すまんな、姫よ。驚かせた。父は怒ってない、ほれ……泣くでない」
お髭が目の前に下りて来て、頭をぽんぽんとされた。
太い指が、瞳にたまった涙を拭いてくれる。
―――やさしいおめめ。
おばばさまのに、にてる。
まちがえたのは、わたしなのに。
ほんとにもう、おこってないの―――?
「それから、この者がこれよりそなたの身の回りの世話をする」
紹介された女の人が目の前に沈み込んだ。
清潔な黒い服を着て、真っ白なエプロンをつけている。
膝をついて私と目線が合うと、綺麗な笑顔が向けられた。
「はじめまして、姫様。エリスと呼んで下さい。これから誠心誠意お仕え致しますわ。よろしくお願い致します」
年は16歳だと言った。
綺麗な手が私の小さな手を包み込んでくれる。
おばば様がよくこうしてくれた。
あたたかみが伝わってきて、安心させてくれる、やさしい温もり。
―――おねえさんみたい。
とてもやさしそう。
だけど―――
遊んでくれた、あのお姉さんの事を思い出す。
笑顔が可愛くて、お菓子をくれたりした優しいお姉さん。
けど、ある日突然遊んでくれなくなった。
怖い、と言って逃げていく歪んだあの顔が忘れられない。
友達になった子も、次の日にはママに叱られるからと言って、遊んでくれなくなった。
いつもひとりで、いた。
「あの、エリス……わたしのこと、こわくないの?」
そう言えば、周りからため息交じりの言葉にならない声が漏れ聞こえてきた。
目の前のお姉さんは、哀しげに顔を歪めて俯いた。
でもその後すぐに上げられた顔は、零れるような笑顔が作られていた。
そして、優しく言い聞かせるような口調が向けられる。
「まぁ、姫様。何てことを仰るのでしょうか。このエリスにその様なことを聞いては駄目ですわ」
「やっぱり、こわいの……そうだよね、ごめんなさい」
「姫様、違いますわ。全く、全然、怖く御座いませんわよ?こんなにお可愛らしいのに、何処が怖いと言うのでしょう。そして、誰が怖いと言ったのでしょう。まったくもって、許すことが出来ませんわ!」
おばば様と同じことを言ってくれたお姉さんの顔をじっと見つめると、目を逸らすことなく返してくれる。
大人の人に話しかけると、誰もが目を逸らした。
おばば様意外、誰もまともに見てくれなかった。
でも、今、ここにいる人たちは。
「ほんとう?こわくないの?わたしと、なかよくしてくれる?エリスは、ぜったいはなれていかない?」
矢継ぎ早に一生懸命に問いかける私は、不安たっぷりな顔をしていたのだろう、包み込まれていた手が両手でぎゅっと握られた。
「えぇ。勿論本当で御座いますとも。決してお傍を離れませんわ」
力強い光を持った真剣な瞳とはっきりと発声された声が、心まで届いてくる。
「うん……うん、ぜったいだよ」
「えぇ、約束、ですわ。お傍を離れません。エリスは絶対に姫様をお守り致します。さぁ、こんな風に指をお出し下さいませ」
「えっと……こう?」
戸惑いながらも見本通りに人差し指を立てて差し出せば、幼い小さな指にエリスの細い小指がくるんと絡められた。
「指きり、ですわ。ご安心ください。もう約束は破られません。……さぁ、もっと仲良しになるためにも、姫様のことお聞かせ下さい。先ずは、そうですわね……お好きな食べ物は何ですか?」
「すきなたべもの?たーくさんあるの。おばばさまのつくってくれた、グーズベリーパイでしょ。それに、こくとうパンでしょ。それから、えっとね―――……」
指折り数えて思い浮かぶ物全部を並べ立てれば、クスクスと笑う声が聞こえてきた。
王様を始めとした、皆のにこにこ笑顔が私を見下ろしている。
それまでどこかそわそわとして、よそよそしく感じられた部屋の中の空気が、和やかなものに変わり始めていた。
「まぁ、そんなに沢山あるのですか。おばば様は、随分とお料理が得意だったのですね?」
「うん、おばばさまのつくったものは、どれもおいしいくて、だーいすき。すっぱいものは、あんまりたべれなかったけど。がんばってたべたんだよ。だって、おばばさま、こーんなかおして、おこるんだもん。……あの、エリスは…グーズベリーパイ、つくれる?」
一番大好きなパイ。
グーズベリーが取れる季節になると、よく作ってくれたもの。
おずおずと聞けば、エリスは困った顔になって首を傾げた。
「作るのは、私ではありませんの、専属のコックですわ。でも、姫様のためですもの、これから練習致しましょう」
「何!?エリス、本当かぁ?お前の不器用さは有名だぞ?」
からかうような口調の声がエリスに投げられる。
愉しげな笑い声で部屋の中が満たされる。
くるん、と振り向いたエリスはすくっと立ち上がって腰に手を当て、金髪の人に向かって声高々に言った。
「あら、騎士団長様、言ってくれますわね。私にだって出来ますわ。えぇ、グーズベリーパイくらい何だと言うのでしょう。頑張りますとも!」
「ほんとう?つくってくれるの!?エリス、だいすき!!」
「エリス、女に二言はないぞー?姫様、良かったですな!」
「うん!」
金髪の人の声……エリスの声。
……皆の笑い声。
優しい人たち……。
――――お父様……エリス…―――
「―――これは。バル……これは……これは――――」
胸が詰まってまともな言葉が出ない。
呟きながら顔を上げると、バルは穏やかな微笑みを浮かべて静かにそこに立っていた。
「何か、思い出したか?」
頷きながら胸に抱いていた紙をもう一度見る。
髭の生えた立派な男性の立ち姿と、その前に、椅子に座って微笑む若い女性が描かれている。
これは、どう見ても私で、髭のお方はお父様。
「今、子供の頃の私が、見えたの」
そう、かなりはっきりと。
「名前は?思い出したか?」
「ごめんなさい。それは、まだなの」
―――心当たりはあるけれど、はっきりそれだと言えない。
どうしてなのかしら―――
首を横に振って俯いたら、一歩近づいたバルの胸に顔が押し付けられた。
後頭部に当てられた掌と背中にまわされた腕で、体全体が引き寄せられる。
「そうか……だが、思い出すのも近いだろう」
「ありがとう、バル。私、何てお礼を言ったらいいのか。とても言葉では言い表せないわ」
「俺に名を呼ばせてくれ。そして、俺を選んでくれ。それだけでいい。感謝の言葉などいらん」
……欲しいものは、言葉じゃないぞ……
髪に吐息がかかって、バルの腕に力が入っていく。
これ以上このままでいたら、更に困ったことになりそうな雰囲気を持ってる。
「バル、聞きたいことがあるの」
気をそらす目的もあるけど。
カフカのこと、バルが見てきたものを聞かせて欲しい。
胸が潰れそうな事実はあるだろうけど、きちんと向き合わなくては。
そんな思いで話しかけているのに「ん、何だ?」と返したきりで、包み込んでる腕も体も全く動かない。
今夜のバルは、理性のタガが外れたように触れてくる。
きっと、久しぶりに会ったからよね?
明日にはいつものバルに戻っているわよね?
でないと、困ってしまう。
変に拒んだら、強引にされそうな強い気持ちがヒシヒシと伝わってきている。
こんな風におとなしくしてるのが一番なのだけど、かと言って、ずっとこのままというわけにもいかないわけで……。
出来るだけ刺激しないよう、てのひらで厚い胸板をそっと押して再び話しかける。
「教えて欲しいの。これは、どこにあったの?」
「……カフカの城は、5つの建物で成り立っていた。中心に四角い建物があり、それを囲むように四つの背の高い塔が建っているんだ。これは、そのうちのひとつ、最奥の塔の最上階の部屋。そこでザキが見つけた。引き出しの奥に、隠すように入っていたそうだ」
「塔の……バルも、そこに行ったの?」
胸をぎゅっと押しかえして懸命に見上げると、首が大きく縦に振られていた。
―――それって。そこは、もしかしたら。
胸がドキドキする。
もし、今見たものと少しでも符合すれば、バルは私の部屋に行って来たことになる。
現実と過去の映像が交差すれば、私の事実にまた一歩近づける。
一枚ずつ、少しずつ開いていた記憶の扉が、一つに繋げていけそうな、そんな予感がする―――
「その部屋は淡い桃色の調度品だった?カーテンはクリーム色で、丸いクッションがあって――」
堰を切ったように尋ねると一瞬目を瞠ったバルの体がすっと離れ、真剣に考え込むように瞳を伏せた。
指先を額に当ててトントンと叩き始める。
「……うむ、待てよ。それはきっとお前の部屋なのだな。桃色?……焦げていて判別は難しいが、これが入っていたのはそんな感じの色ではなかったな。それに。丸いクッションもなかった。カーテン……は、無かったぞ。ベッドはあったが、天蓋は無かった。痕跡はあったから、恐らく略奪されたのだろう。全体的に配色は濃い色だったと記憶してる」
「そう、なの」
……濃い色合いなら、私の部屋とは違うわ。
でもこの絵があったのなら……それは、どういうことなのかしら。
視線を落とすと、バルも絵を覗き込んで紙の輪郭を指で辿った。
「これは多分、全体の一部分だろうな。形が細長くて不自然に絵が切れてるだろう?普通の絵師はこう描かない」
太めの指が辿って示すのはお父様の体。
目線はまっすぐ向いているけど、肩の線は斜めになってて腕が中途半端に切れている。
私の体も同じ方向に向いてて、ひざの部分が少し欠けている。
この向こうに、誰かがいる?
「この部分がおかしいだろう。半分に切り取ってある感じを受ける。元々はもっと大きいはずだ。何故切ったのかは分からんが、見えない部分……こちら側に、上と下で二人はいる筈だぞ。いや、もっといるかもしれん」
やっぱり……その通りなのだとしたら。
二人だったら、一人はお母様だとして。
もう一人は、誰なのかしら。
もやもやとする。
何かが思い出せそうで、だけど霧に包まれてて。
――そうだわ。
ハッと思い出す。
あの方なら、あの方なら何か知ってるかもしれない。
帰ってきたら、すぐにお願いしようとしていたこと。
「バル、私、バルにお願いがあるの」
真剣な声を出すと、バルの表情が少し曇った。
紙を持ってる手首がそっと掴まれて、腕だけが引き寄せられる。
「何だ?一応先に言っとくが、“城を出ていきたい”なら、絶対駄目だぞ。許可出来ん。城下見物なら一向に構わんが」
―――城下見物―――
とても魅力的な言葉。もしかして、アリの報告を受けたのかしら。
それは是非とも行きたいけれど、でも今は、そうじゃなくて―――
「違うわ。会いたいお方がいるの。ジークに頼んだら、バルが戻らないと駄目だって言われたの。だから……」
「ちょっと待て。会いたい者?……ジークが、俺が帰ってからって言ったのだな―――?」
バルの問いかけにコクコクと頷いていると、誰を想定しているのか、バルの瞳が燃えるような鋭い光を放った。
「誰なんだ、言ってみろ。相手によっては、許可出来ん」
ずいっと近付いたバルの顔。
声までも、脅されるような低くて怖い響きになってて、怯んで少し後退りをしてしまった。
「あ、王妃さまの城宮のコックさんなの。会わせてくれる?王妃さまにもお願いしたら、ジークと同じことを言われたわ」
「は……?」
口を開いたまま、ぽかんと、拍子抜けした様な顔が向けられる。
「バル?」
「あぁ、すまん――――王妃のところの、コックか。また意外な者に会いたがるな。何故だ?理由次第だ」
「カフカ王国の出身だと知ったの。お願い。いろいろ聞きたいことがあるの」
王妃さまにお菓子をいただいた時のことを掻い摘んで話すと、手首を掴んでいた手が、漸く離された。
「カフカ出身の者がいるのか。そうか、それは知らんかったな。……分かった。すぐに、会えるよう手配する。俺も立ち会う」
真剣な色を持っているバルの瞳がふと何かに気付き、周りを見るようにきょろきょろと動いた。
瞳から鋭い光が消え、真摯な表情が一気に崩れる。
……急な変化だわ。一体どうしたのかしら……。
「……あー、あいつら……やけに静かだと思ったら。そうか」
参ったな。
と、バルが頭をボリボリと掻きながら一点を見やった。
その視線の先を辿れば会場に続く窓があるのだけれど、そこを確認してぎょっとする。
ザキとリリィをはじめとし、ご婦人から紳士まで数人の方々が硝子にぴったりと貼り付いて此方をジーっと見ていた。
口は開くけれど、あまりの驚きで声も出せない。
皆一様に、にこにこ満面の笑顔。
リリィなんて、両手で頬を押さえてる。
確認しなくても分かる、きっと頬は真っ赤だわ。
隣にいるザキは、いつもの不機嫌さが影を潜めて、にやりといった感じで唇を歪めていた。
目が合うと、更に口角が上がってゆっくりと首を縦に動かした。
その感じは、年下なのに、まるで人生の先輩のよう。
初めて見るけれど、あれが彼の笑顔なのよね。
というか、リリィ。
貴女いつから見ていたの?
その反応だもの、当然、抱き締められていたところ、しっかり見てたわね??
羞恥心が沸き上がってくる。
一体、どこからどこまで見られていたの?
しかも、こんな大勢の方にだなんて―――
一人でドキドキしてパニックに陥っている傍らで、バルは参ったなと言いつつも嬉しそうに笑ってる。
ぴぴぴと指先を動かして合図する、にこにこ笑顔のご婦人に対して手を上げて返したりしてる。
じろりと睨む。
どうしてそんなに楽しそうなの?
「バル――――!?」
「あー、すまん。許してくれ。―――皆があんな風に見ていたとは、知らなかったんだ。本当だぞ?」
――――私はこんなに恥ずかしいのに。
ここに穴があったら入り込みたい。
お客様皆が帰るまで、ううん、できれば朝まで。
というか、皆の記憶から消え去るまで、隠れていたいほどなのに―――――
このまま会場に戻るなんてとても出来ない。
なのに、バルったら。
「さて、妃候補殿。覚悟は宜しいか?―――そろそろ会場に戻らんといかんぞ」
と、腕を差し出しながらにっこり笑って、呑気にそうのたまった。
その後、嫌がって必死に抵抗したけれど、半ば引きずられるようにして会場に戻され、ご婦人方の意味ありげな笑顔と視線、それに加えてバルに対して投げかけられる紳士方の「よくやった」的な声援に耐えつつも残りの時間を過ごした。
そして、バルを恨みつつ、部屋に戻れば。
「ユリアさん、バルさんから何を言われたの?」
「ね、告白されたんでしょう?ね、何て―――?」
「男らしいよね!素敵だよね!ね、どうするの!?」
などなど、興奮したリリィの質問攻撃に、暫くの間悩まされた。
ほんとに、人ごとだと思って……リリィったら……。
その夜は、なかなか寝付けないままに、時が過ぎていった。




