【10】 難駄様と雪臣様②
依頼人・難駄様が、雪臣様との過去について語り始める……。
101010101010ジュジュッと10コマ目!
じっくり楽しんでいってちょうだいねッ☆
雨は、風と共に渦を巻いて加速していた。俺は前方に傘を傾けたまま、必死に暴風と格闘していた。そして、思った。“ああ、こんなことになるなら、家で大人しく茶でも飲んで待っていればよかった”と。
傘の骨組がめちゃめちゃになりそうだと感じた俺は、とりあえず一旦、どこかの軒下で雨宿りをすることに決めた。一通り見渡してみると、レストランだろうか。大層なレンガ造りの建物が目に入った。これはしめたと思った俺は疲れのせいか、自然とその建物に吸い寄せられていった。
◆◆◆◆◆
その軒下まで来て、コートのしずくを払っていると、俺のコートを引く者がいた。小さな子供のようだ。俺は人違いだ。この子はきっと、迷子にでもなったんだろう。ママとパパとはぐれでもしたのかな、可哀想だな。でも俺には関係ないことだ。
そう考えて、初めはあまり気にも留めていなかったが、だんだんと裾を引く力が強くなってきたため、俺はようやくその相手をしてやろうと考えた。
改めてその子供に顔を向けようとすると、怖がっているのか、彼はうつむいていて視線がぴたりと合わない。俺は少ししゃがんで、小さな男の子にできるだけ優しく話しかけた。
「迷子になっちゃったのかな?」
「ううん」
男の子は首を左右に振って否定する。
「お母さんとお出かけだったんでしょう?」
「違う」
また首を振る男の子。
「じゃあ、キミはどうしてここにいるの?」
「僕……」
そう言って途中で言葉を詰まらせる。どうやら、触れてはいけなかったことらしい。でもここまできて引きさがれるような性分でもない。
「心配しないで話してごらん? 俺はちゃんと話を聞いてあげるから」
「……ほんとう?」
「ああ、本当さ。ゆっくりでいいから、俺に話してくれるかな?」
「……うん。わかった」
その時の俺は大胆だった。いつもの俺ではここまで話せていない。雷鳴が俺の心を奮い立たせたのだろう。なにはともあれ、ラッキーだ。
男の子は言った後、少しあたりを見回して、誰もいないのを確認した後、声をひそめて言った。
「僕、闇組織から……逃げてきたんだ」
俺は初めそれを聞いたとき、その意味がうまく理解できなかった。
「……それは、どういうことかな?」
「僕、おかあさんいない。おとうさんも、おねえちゃんも。みんな、いない」
「……うん。それで?」
「おかあさん、その悪い人たちに、売られてった。おとうさんは、買われてった。ちょっと前までずっと闇業者で働かされてたけど、この前ね、殺されちゃった。おねえちゃんもおかあさんと同じく売られちゃったけど、逃げ出して、おとうさんとおんなじになっちゃった」
そこまで淡々と語る男の子の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。俺の目にも涙が浮かびそうになったが、必死でこらえた。そのくらい、俺にとって衝撃的な話だった。
「ご……ごめんね、つらい話聞きだしちゃって」
「あやまらなくていいよ。お兄さん。だって、悪いのは全部僕なんだもん」
「どうして? キミは何にも悪くないと思うよ」
「だってね、僕がちゃんと護ってあげていれば、みんなを失わずに済んだのに。僕がしっかりしてなかったから、みんないなくなっちゃったんだ」
俺は、こんな小さな子供が、家族を護ることを必死に語っていることに強く心を動かされた。
「ちょっと、ひとつ聞いてもいいかないいかな?」
「うん、なぁに?」
「みんな、いなくなっちゃったの?」
「そうだよ」
「だったらさ、キミは今、どこで暮らしているの?」
俺は言ってしまってから、これはしまった。このコを傷つけてしまったかなとちょっと後悔したが、目の前の男の子は、案外あっさりとした表情で言った。
「僕は昨日、逃げてきた。お母さんを、捨てたんだ」
「捨てた……?」
「うん。おかあさんを見つけるために、思い切って乗り込んだんだけど、あっさり見つかっちゃったから仕方なくね」
おかあさんを助けるために、この幼い子供は、何をしでかすかもわからない悪組織へと侵入したっていうのか?なんともたくましい子供だ。って、そうじゃなくて!
「それで、昨日から飲まず食わずの生活だよ。でも、ここの町の人はみんな親切だから、僕にいろいろな物を恵んでくれ……」
「いいから、黙って俺の家に来い!!」
「えっ、ちょっと待って、落ち着いてお兄さん……」
「そんな生活は、もう少し大人になってからにしろ!いくらなんでも可哀想だ!」
俺は腕の中でうろたえるコイツを、無言で抱いて家へ向かった。
――――――飲まず食わずの生活なんて、俺は今に至るまで、一度も体験したことがない。体験したくもない。どんなに苦しかっただろう。どんなにつらかっただろう。コートも傘も何も手にせず、薄いTシャツに半ズボンという貧相な格好のこのコの心を、少しでも癒してあげたい…! その一心で、俺は彼を屋敷へと連れ込んだ。
続きます。




