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第2話:恐ろしき魔界の城と絶品特製ハンバーグ

「ここが俺たちの愛の巣……もとい、魔王城だ! さあ、遠慮せずにくつろいでくれ!」


王城の大広間から空を飛ぶこと数十分。

強制的に連れ去られた私、セラフィナが降ろされたのは、切り立った崖の上にそびえ立つ禍々しい城の中だった。


(魔王城……。きっと壁には血しぶきが飛び散り、床には白骨死体が転がっているに違いないわ……)


私は恐怖に震えながら、ゆっくりと目を開けた。

しかし、私の視界に飛び込んできたのは、予想とは真逆の光景だった。


「……えっ?」


チリ一つ落ちていないピカピカの大理石の床。

趣味の良いアンティーク家具に、ふかふかの巨大な天蓋付きベッド。

窓辺には可愛らしいレースのカーテンが揺れ、部屋全体からほんのりとラベンダーの香りが漂っている。

どこからどう見ても、超一流ホテルの最高級スイートルームである。


「どうだ? 君を迎えるために、三日三晩徹夜して隅々まで磨き上げたんだ! もちろんダニ対策もバッチリだぞ!」

「あ、あの……。ここは、拷問部屋などではないのですか?」

「拷問!? 馬鹿な、愛する妻を痛めつけるわけがないだろう! さあ、手洗いうがいをしてきてくれ。すぐに夕食にする!」


ピンク色のフリルエプロンを揺らしながら、魔王様(ザガンと名乗っていた)はウキウキと隣のキッチンルームへ向かっていった。


数分後。

呆然とする私の前に、ジュージューと食欲をそそる音を立てる鉄板が運ばれてきた。


「待たせたな! 魔王特製、肉汁溢れる至高のデミグラスハンバーグだ!」


鉄板の上で、ふっくらと分厚いハンバーグが輝いている。

付け合わせのニンジンは甘くグラッセされ、ブロッコリーとポテトも彩り豊かに添えられていた。

あまりのいい匂いに、私のお腹が「きゅぅ」と小さく鳴ってしまう。


「さあ、冷めないうちに食べてくれ!」


魔王様に促され、私はナイフを入れた。

その瞬間、中から滝のような肉汁がジュワァッと溢れ出したのだ。

一口サイズに切り分け、口に運ぶ。


「……っ!!」


美味しい。

噛むほどに広がる肉の旨みと、数日かけて煮込まれたであろう奥深いデミグラスソースの味わい。

王宮で専属の料理長が作る食事よりも、ずっと、ずっと美味しい!


「おいしい……。こんなに美味しいハンバーグ、初めて食べました……!」

「おおっ! そうかそうか、おかわりならいくらでもあるからな!」


私が感動のあまり涙ぐむと、魔王様は背中の巨大な悪魔の翼をパタパタと犬の尻尾のように振って大喜びした。


私が夢中で二口目を口に運ぼうとした、その時だった。


――ガシャァァァァンッ!!


突然、窓ガラスが派手に割れ、黒装束に身を包んだ怪しい集団が部屋に雪崩れ込んできたのだ。


「見つけたぞ、悪女セラフィナ! そして魔王!」

「アーサー殿下の命により、貴様らをここで処刑し――」


彼らは王家が裏で飼っている暗殺部隊だった。

婚約破棄されたばかりか、魔王にまで連れ去られた私を、口封じのために消しに来たのだろう。


ヒッと息を呑んだ私を庇うように、魔王様が前に出た。

その背中から、先ほどまでの甘い空気が嘘のような、底知れぬ絶望のオーラが立ち昇る。

真紅の瞳が怪しく光り、暗殺部隊の男たちが本能的な恐怖にガタガタと震え始めた。


「貴様ら……」


地獄の底から響くような、恐ろしい声。

魔王様はゆっくりと右手を振り上げた。

(ああっ、このままでは暗殺部隊が塵一つ残らず消し炭に……!)


「貴様ら……! 妻が温かいハンバーグを食べている最中に、土足で踏み込んで埃を立てるとは何事だ!!」

「……えっ?」


怒りの沸点が、完全に「専業主夫」のそれだった。


魔王様はエプロンのポケットから『巨大な銀色のお玉』を取り出すと、それを大剣のように軽々と振るった。


――ブゥンッ!!!


「ぎゃあああああっ!?」


魔法すら使っていない、ただの風圧。

それだけで暗殺部隊はまとめて窓の外へ吹き飛ばされ、夜空の彼方へと星になって消えていった。


「ふん、妻の食事の邪魔をするなど万死に値するわ」


お玉をくるりと回してエプロンにしまうと、魔王様は瞬時に満面の笑みへと表情を切り替え、私に向き直った。


「すまなかったな、セラフィナ! さあ、気を取り直して食べてくれ。食後には手作りのとろとろカスタードプリンも冷やしてあるぞ!」

「あ、ありがとうございます……」


世界を滅ぼす絶望の魔王による、至れり尽くせりの甘やかしフルコース。

どうやら私の魔界での新婚生活は、思い描いていたような悲惨なものにはならないらしい。


ただ、この時私はまだ気づいていなかった。

魔王様が「主夫業」に全力を注ぎすぎているせいで、魔界の政治と経済がとんでもないことになっているという事実に――。

第2話をお読みいただきありがとうございます!

無事に魔王城へと到着したセラフィナ。拷問ではなく、美味しいハンバーグとふかふかのベッドで徹底的に甘やかされる生活がスタートしました。

次回からは、少しずつ「ビンボー魔界」のヤバい実態が明らかになり、公爵令嬢の内政スキルが火を噴き始めます!

引き続き楽しんでいただけましたら、ブックマークや評価での応援をよろしくお願いいたします!

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