表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

67/67

番外編 二人の未来②

 結婚式当日。

 愛理は教皇の執務室でウェディングドレスを身に着けていた。

 マダムケリーが出張して着付けと髪結いをしてくれた。

 ドレスはチューブトップで胸のすぐ下からチュールが緩く広がっている。アップに結った頭にはヴェールを被っている。

 その姿を見たマリアンヌは微笑んでいた。


「綺麗よ、アイリーン」

「ええ、本当にお綺麗ですわ。アイリーンお嬢様」


 メアリーはさっきからずっと泣いている。

 マリアンヌはメアリーの肩を抱く。


「もうメアリーったら、涙でぐちゃぐちゃじゃない。式はこれからだっていうのに……。私たちは先に行っているわね」


 マリアンヌとメアリーは部屋を出て行った。

 愛理も最終チェックを終えた。

 付添人はローナとラウラに頼んだ。

 ローナは愛理を先導し、ラウラはドレスの裾を持ってくれた。

 事務所のドアの前には王のジャレッドが待っていた。

 愛理はお辞儀をした。


「よろしくお願いいたします」

「ああ。まかせなさい、アイリーン。君の父親の代わりを立派に努めよう」


 愛理はジャレッドの腕を掴んだ。

 そして、もう会えない両親を想った。


 ――ママ、パパ。私は今日イアン様と結婚します。イアン様とならきっと大丈夫。


 目の前のドアが開き、バイオリンの演奏がはじまった。

 愛理はジャレッド共にイアンの元に歩みだす。

 一階席には教会関係者、その最前列にはエヴァンス家の家族たち、クレイグが座っている。

 二階は王太子のアルフレッドと騎士団長のアーサー、イアンと付き合いのある貴族が座っている。

 ジャレッドはイアンに愛理を託し、イアンは愛理の手を取った。


「綺麗だよ、アイリ」


 愛理は微笑んだ。

 愛理はイアンと共にマーガレットの前に立つ。

 マーガレットは二人を優しく見つめた。


「新郎イアン。あなたはここにいるアイリーンを、病めるときも、健やかなる時も、富めると時も、貧しき時も、妻として愛し、敬い、慈しむことを誓いますか?」

「はい。誓います」

「新婦アイリーン。あなたはここにいるイアンを、病めるときも、健やかなる時も、富めると時も、貧しき時も、夫として愛し、敬い、慈しむことを誓いますか?」

「はい。誓います」

「それでは、誓いのキスを……」


 愛理とイアンは向き合う。

 愛理は少し膝を折り、イアンは愛理のウェディングベールを上げた。

 そして、ふたりはキスをした。

 マーガレットが脇に置かれた台を手で指し示す。


「結婚証書にサインをお願いいたします」


 愛理とイアンは移動して、それぞれサインをした。

 結婚証書を二人で最前列に座るジャレッドの元に持っていく。

 ジャレッドは立ち上がって受け取り、参列者を振り返って結婚証書を掲げた。


「今ここにエヴァンス侯爵と、聖女アイリーンの結婚が成立したことを宣言する」


 教会中で盛大な拍手が沸き起こった。

 愛理はイアンの腕を掴み、ふたりは退場するためフラワーシャワーの中を歩いて行く。


「おめでとう。シスターアイリーン、イアン様」

「お幸せに!」


 口々にお祝いの言葉を投げかけられ、愛理とイアンは笑顔でそれに応える。

 教会の扉が開くと、そこには王都中の人が集まっていた。

 出てきた二人の姿を見て、わぁっと歓声が上がる。

 愛理とイアンは驚いて顔を見合わせて、集まってくれた人たちにお辞儀をした。

 それから教会の前に止まっている馬車に乗り込む。

 馬車は次の披露宴会場の王城へ向かった。



 王城に着くと、愛理は控室に通された。

 今度は使用人に手伝ってもらって、披露宴用のドレスに着替える。

 次に着るドレスは、明るいグリーンで肩が大きく出ているデザインだった。スカートは腰から下はふんわりと広がり、裾には大きなフリルがついていた。所々に花の刺繍がしてあり、全体的に可愛らしいドレスだ。


 愛理の着替えが終わると、扉がノックされた。

 使用人がイアンを連れてきたので、愛理はイアンにエスコートされて会場へと向かった。

 二人は先導する使用人のあとについて行く。


 披露宴会場の両開きの扉が開き、愛理とイアンはその場でお辞儀をした。

 愛理とイアンは暖かい拍手で迎えられた。

 登壇しているジャレッドのそばまで行くと、使用人から愛理とイアンはワインを受け取った。

 ジャレッドはそれを見てからグラスを掲げる。

 愛理とイアンも来賓の方を向いて、グラスを掲げた。

 ジャレッドは言う。


「皆の者、今日は素晴らしき日である。魔王討伐の英雄である聖女アイリーンと、エヴァンス侯爵が結婚をした。皆で盛大に祝おうではないか。二人の未来を祝して、乾杯」

「乾杯」


 愛理とイアンは来客と歓談していた。

 二人のそばには、世話役としてマリアンヌがついてくれている。

 そこに、ローナとラウラとクレイグがきてくれた。

 ローナは満面の笑みで言う。


「シスターアイリーン、イアン様。おめでとう」


 クレイグも嬉しそうに言った。


「旅をしているときは、まさか二人が結婚するとは思わなんだ」


 ローナは自慢げに言う。


「あたしがあの時、イアン様にアイリーンの後継人を頼んでなければ、こうはならなかったよ。きっと」


 愛理とイアンは笑う。

 イアンは頷いた。


「たしかにそうだ。あの時、アイリーンの後継人になってよかった」


 イアンは愛理を見つめて、愛理はイアンを見つめた。

 クレイグがぼそっと言う。


「結婚というのもいいものだな」


 ローナはそれを聞き逃さなかった。


「クレイグ様は、結婚は考えていないの?」


 クレイグは頭を掻く。


「こんな熊みたいなやつ、相手にしてくれる女性がいるものか」


 マリアンヌは微笑んで言った。


「そんなことはありませんわ。クレイグ様、わたしはずっと昔からお慕いしておりました」


 クレイグはマリアンヌを呆然と見た後、すごい勢いで真っ赤になった。


「マリア、俺をからかわないでくれ!」

「まぁ。本当のことを申しましたのに……」


 マリアンヌが悲しげな表情をすると、クレイグは慌てたように言った。


「すまない! まさか本当にマリアが俺を……?」


 ローナがヒューヒューと冷やかす。


「とりあえず、今度ふたりで食事をしておいでよ」


 真っ赤になっているクレイグの手をマリアンヌは取った。


「ぜひお願いしたいです」


 マリアンヌはにっこりと笑った。

 イアンがこっそり愛理に言う。


「これは、まさかがあり得るかもしれん」


 愛理もこそっと言う。


「ジュリアスがショックで倒れないといいけど……」


 そこに、今度は愛理の同期が来た。

 王都本部に配属になった同期だけではなく、地方に行ったソフィーとドロシーとカレンもいる。

 愛理は久しぶりに三人に会えて、テンションが上がった。


「わぁ。ソフィー、ドロシー、カレン! 来てくれたんだね!」


 ソフィーが満面の笑みで言う。


「もちろんだよ! アイリーンの結婚式だもん!」


 それにドロシーとカレンも笑顔で頷く。

 キャサリンが羨ましそうに言う。


「同期で一番乗りですわね。ウェディングドレス姿のアイリーンは素敵でしたわ」


 そこに、ソフィーは控えめに手を上げた。


「実はわたしも春に籍を入れたんだ」


 ソフィーの告白に愛理たちは驚いた。

 愛理はソフィーの手を握って言う。


「ええ! そうだったの? おめでとう! ソフィー」


 ソフィーは照れたように微笑んだ。

 それから、お腹に手をやる。


「実は赤ちゃんもいるの」


 愛理たちはさらに衝撃を受けた。

 ダイアンが心配そうに言った。


「それなのに長旅して大丈夫なの?」

「大丈夫。もう安定期に入っているし、長めにお休みいただいたから」


 女子たちはきゃきゃっとソフィーを囲んで喜んでいる。

 少し離れたところでは、アンソニーが密かにショックを受けていた。


「ソフィー、恋人いたんだ……」


 そこへ、今度はアンジェリカとジュリアスが来た。

 ジュリアスは笑顔で言う。


「イアン様、アイリーン、おめでとう!」


 それにイアンが答えた。


「ありがとう、ジュリアス」


 アンジェリカが微笑みを浮かべて言う。


「とっても素敵な式でしたわ」


 愛理は頭を下げる。


「ありがとうございます。シスターアンジェリカ」


 こうして、愛理とイアンはみんなに祝われて披露宴は幕を閉じた。



 愛理とイアンとマリアンヌは王城から馬車で帰った。

 湯浴みをしてから各々寝室へと行く。

 愛理は自室ではなく、イアンと共にイアンの寝室へと入って行った。

 今日からはここが愛理の寝室でもあるのだ。

 はじめて入るイアンの寝室に、愛理は少しだけ緊張していた。

 イアンの寝室にはダブルベッドが置いてあり、執務用の机、クローゼットがあった。


「イアン様のお部屋は広かったんだね」

「ああ。以前は両親が寝室として使っていた。それを俺がもらい受けたんだ」


 イアンは愛理の手を引いて、二人はベッドに腰掛けた。

 イアンは愛理に微笑みかける。


「これからは、夫としてアイリを大切にしていくよ」


 愛理の手に口づけををする。

 愛理は照れくさそうに笑った。


「私も妻としてイアン様を支えていきます」


 ふたりは見つめ合い、キスをした。



 五年後。

 マリアンヌはクレイグと結婚し、エヴァンス邸にはいなかった。

 代わりに愛理とイアンには女の子と男の子の子供が二人いて、元気よく庭を駆けまわっている。

 愛理とイアンはそんな子供たちを愛おしそうに眺めていた。

 玄関のドアが開いて、メアリーが声を掛ける。


「みなさん、昼食ができましたよ」

「ごはんだぁ!」


 子供たちはじゃれ合いながら、家の中に入っていく。

 イアンは愛理の肩を抱き、二人も家の中へ入って行った。

 二人の未来はこれからも続いていく――。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

そして、ブックマーク、いいね、評価をしていただいたみなさま、本当にありがとうございました。

執筆の励みになりました。

次回作もどうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ