32.今が一番幸せ
「そうだ。指輪、受け取ってきたよ」
ある日の夜。キュイは引き出しから小さな二つの箱を取り出した。
イニシャルを彫ってもらうのに時間がかかったので、受け取りが暫く経った今日になったのだ。
取り出して、手のひらに乗せてみる。
小さな花の装飾が入った指輪。裏にはイニシャルが彫られていた。
「綺麗……」
思わず呟く。
前世では結婚せずに死んでしまったから、結婚式はもちろんのこと、結婚指輪もつけたことがなくて。
いつかつけてみたいと思っていた願いが叶って、胸が震えるほど嬉しい。
「それ、僕につけさせてよ」
キュイは指輪を摘むと私の手を取る。そっと指に嵌め、そのまま流れるように私の手の甲にキスを落とした。
「……っ、心臓に悪いわ」
「嫌?」
「嫌じゃ、ないけど……」
嫌がってないと分かっていて聞いてくるキュイはずるい。
恥ずかしい。でも触れられると、触れたくなる。
私も同じようにしてキュイの手に指輪を嵌め――そのまま、頬に唇を寄せた。
「フィアナから、キスしてくれた……」
呟くキュイの顔は、今まで見たことないくらい真っ赤になっている。私に触れられるのは弱いみたいだ。なんだか無性に愛しくなって、そのままキュイに抱きついた。
「結婚式もしたいわ」
「そうだね。でも、僕は2人きりがいいな」
「人を呼ばなくていいの?」
「フィアナの可愛い姿を誰にも見られたくない。僕が独り占めしたいから」
キュイは私の背中に腕を回した。抱きしめる力は意外と強い。
独占欲が強いこと。嫉妬深いこと。時々子供っぽくなること。このどれも、最近知ったことだ。
「仕方ないわね」
「嫌いにならない?」
「なる訳ないわ。それに、ずっといるって言ったじゃない」
指輪を嵌めた手を眼前にかざすと、キュイは蕩けるように微笑んだ。
それがあまりにも美しくて、幸せそうで。
今度は私が顔を真っ赤にする番だった。
「可愛いフィアナ。世界で一番、幸せにするよ」
熱に浮かされたような声でキュイは呟き、私の頬に手を当てる。そのまま、顔が近づいてきて。
一瞬、呼吸を止めて。唇が触れ合う。
フィアナ・ノーヴェルという黒幕の義妹。転生した最初は最低なポジションだと思って、惨劇回避に奔走するので必死だったけど。
今は信じられないくらい幸せだ。
一番幸せな瞬間を毎日更新していけたらいいな、なんて。月夜の元で、そんな事を願うのだった。
これで本編は完結です。
私にとっての初小説でしたが、読んでくださる皆様のおかげで何とか書き進めることが出来ました。
本当にありがとうございました!
番外編として、エデンと聖女様のお話もアップします。そちらでこのお話を締めさせていただく予定ですので、そちらもよろしくお願いします!




