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22/33

22.溝

王宮を出て、さて買い物でもして帰ろうかしら、と考えていると、「フィアナ」と名前を呼ばれた。

振り返れば、門の前にキュイが立っていた。まさか待っていたなんて思いもせず、私はびっくりしてキュイの顔を見る。


「キュイ、待っててくれたのね。私を置いて帰ってしまっても良かったのに」

「そんなことしないよ」


キュイは駆け寄る私に向かってにこりと微笑む。

転生者である皇太子とは闇魔法の事以外でも話が弾み、1時間くらい話し込んでしまった。その間ずっとここで待っていたのだろうか。

私がその申し訳なさに肩を萎めると、キュイは片眉を跳ねさせた。


「僕が待ってたら、嫌だった?」


そんなことない、と言おうとして、息を呑んだ。

普段のキュイとは何か違う。不安と、焦りと、苛立ち。様々な負の感情が混じり合った顔。


「皇太子と何話してたの?あいつ、フィアナを特別な存在とか言ってたよね」


キュイの瞳が揺れる。

その『特別』はただ同じ転生者だから特別なだけで、全く深い意味はない。しかもあの皇太子、爽やかな顔をして頭の中が8割研究の事だということも判明した。恋とか愛とか、そんな事に興味があるようには正直思えない。


でも、転生者ということを、話してもいいだろうか。

転生者であるという事実は、今までずっと隠していた事だ。話すかどうか、すぐには決められない。

 

言い淀んでいると、キュイは更に距離を詰めた。


「言えない?僕には」

「えっと……」


目を逸らして俯くと、顎を掬われた。美しい顔が眼前に迫る。

じっと見つめるその瞳は、一層不安げに揺れている。緋色の瞳に靄がかかり、一瞬だが紫色になる。


その瞳の色の変化にはっと息を呑むと同時に、キュイは顔を離した。


「そう……そっか。言えない、か」


キュイは視線を地面に落とす。


「本当に、ごめんなさい。でも、私がキュイの事好きなのは絶対だし、変わらないから」

「……うん、ありがとう。ここで立ち話もなんだし、帰ろうか」


顔を上げたキュイは綺麗な笑みを浮かべ、すたすたと歩き出す。

いつも繋いでくれる手が、今はない。伸ばした手が空を切る。そろそろと腕を下ろした。


ずきりと、胸が痛かった。

後悔しても時間が戻るわけもなく、私は視線を落としたまま所在なさげにキュイの後ろをついていく。


前を歩くキュイの顔がどんなものかを、知る由はなかった。

 

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