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12.何度も何度も *エデン視点

「お、兄ちゃん、お目が高いねぇ。このカップはな、有名なデザイナーのルーフュがデザインしたものなんだよ。まぁ、それもあってちょっと高値だが……」

「じゃあ、それを二つ」

「お、太っ腹だねぇ!お礼にちょっと安くしとくよ」


店主は笑みを浮かべる。

夕焼けの様な赤いガラスには、銀色の長い髪を持つ妖精が描かれている。

彼らにぴったりだと思った。


「やっと、ここまできたか」


我知らず呟いた俺は、これから訪れる彼らのことを思い浮かべる。そして、気が遠くなるほど長かった日々を思い出した。


――――――

 

はっと前を向けば目の前には見慣れた学園が広がっている。嬉々として校舎に向かう生徒は真新しい制服を着ていて、これから始まる学園生活に期待し胸を膨らませている。

聳え立つ校舎は越えられない壁の様で、俺は思わず舌打ちをした。


「また、戻ってきた」


呟くと、絶望してしまいたい気持ちに襲われた。



俺はヒューストン子爵家の四男として産まれた。特に不自由なく、割と自由奔放に暮らしていた。

15歳になり、学園に入学した。友達もでき、学園生活は順風満帆だった。


そうして入学から1年経った時、学園内にいたある男爵令嬢が、突如光魔法を体現した。そしてどういうわけか、俺は向こうから話しかけられたのをきっかけに、時々だが話をするようになった。


「エデン、ここの計算式間違ってますよ!」

「今日、ルカ様にお会いしました。お話ししたら凄く気さくな人だったんですよ」

「今度セネル様にデートに誘われたんです。何を着て行ったらいいでしょうか?」


彼女は良くも悪くも素直だった。持ち前の明るさと気さくさから学園でも人気のある令息に気に入られ、彼女の隣には誰かしらの男が隣にいるようになった。


俺は顔が広い方で、様々な情報を知っていたから悩める友人である聖女にアドバイスをあげたりしていた。


そんな矢先、事件は起こる。


「きゃああああ!!」


昼休みが始まろうとしたその時、中庭に女子生徒の悲鳴が響き渡った。

男子生徒の凄惨な遺体が中庭の花壇で発見された。体は原型を留めないほど、破壊し尽くされていた。それからというもの、恐ろしい事件が後を立たなくなった。生徒は常日頃何かに怯えていて、気が触れる者も出てきた。


暫くして、俺の情報と聖女の推理で実行犯を特定した。その実行犯は、フィアナ・ノーヴェル。類稀なる美しい容姿を持つ令嬢だった。

フィアナ嬢は、犯行の動機を一切言うことなく、牢に入れられまもなく死亡したのだそうだ。


ただ、被害に遭った人は皆、聖女の知り合いだった。


「私のせいで……」

「大丈夫だよ。『  』のせいじゃない」


責任を感じる聖女の隣でしきりに励ます男は、学園の王子様と呼ばれるキュイ・ノーヴェル。美しい微笑みを絶えず浮かべていて、人に心を読ませない。仮にも義妹が犯人だったというのに、気にする素振りもない。

怪しいと思い、情報を集めることにした。


「キュイは両親と妹、両方とも血が繋がっていないらしいぞ」

「ノーヴェル家って、汚職が多いらしいわね。あそこの伯爵、結構手段を選ばない人なんでしょ?」

「伯爵も存命だが、ノーヴェル家の実権はキュイが握っていると聞くな」

「偶々ね、キュイ様の腕を見た時に、無数のあざがあって……」

「アイツの目、ちょっと怖いなって思う時があるんだよ。こう、なんというか、光がないんだよな」


聞き込みをすればするほどキュイ・ノーヴェルについての違和感が膨らんでいった。

 

キュイ・ノーヴェルを恐ろしく感じた俺は、それとなく聖女との関わりを少なくするよう誘導した。だが、聖女は自由奔放で、人を疑うことを知らない。キュイ・ノーヴェルの事を警告すると「キュイ様の事を全部知ってるわけじゃないのに、酷く言うのは間違ってる」と言われ、喧嘩になった事もあった。

そうして学園内には不穏な空気が漂ったまま、1年が過ぎた時、聖女がキュイ・ノーヴェルに襲われたと聞いた。

慌てて長縄に駆けつけると、聖女と、その隣に聖女を抱きしめる男と対峙する形でキュイ・ノーヴェルが佇んでいた。


「大好きな聖女様を思い通りに出来れば、僕の完璧な世界は完成したのに……」


ゾッとする程濁った紫の瞳から涙を流すキュイ・ノーヴェル。いつも美しい笑顔を浮かべる貴公子の筈が、その時は幼い子供に見えた事は、今でも忘れられない。


そこからはやたらと早かった。

キュイは聖女への闇魔法の行使や一連の事件の犯行が発覚し、警備隊に連れられ裁判にかけられた後、すぐに死刑が執行された。

そうして聖女は、その時庇った男――確か、最初はセネルだったか――と結ばれた。


そうして波乱ばかりの学園生活が終わった時、


俺はまた、真新しい制服を着て校舎の前に立っていたのだ。

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