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13.変化 *エデン視点

最初は、何か摩訶不思議な力で時が戻ったのかと思った。実際、周りの人の行動やその時々の台詞が同じだった。


しかし、その例外が、聖女だった。

そもそも名前すら違っていて、性格も少し違っているように思えた。何が何だか分からないまま一年が過ぎると、また凄惨な事件が起きた。


俺は、キュイ・ノーヴェルの接触を試みたが失敗した。どうやっても、最低限の会話しか出来ない。それどころか、俺自身かなり行動が制限されていて、1度目に体験し行動したことくらいしか、ほとんど出来ることがなかった。


そうして悲劇は起き、聖女が見事に犯人を突き止める。聖女は今度はロイドと結ばれた。


そして気づけばまた学園の校舎の前に立っているのだ。


こうして何度もループすることによって、俺は一つの仮説を立てた。

この学園自体が、聖女を中心として回っている。目を塞ぎたくなるような凄惨な事件も、聖女が崇められ、讃えて幸せな生活を送るまでの踏み台にしかなっていない。

しかも、聖女の性格や行動、名前すらも変わる。毎度違う動きをする聖女は、滑稽なほど動きが制限されている俺たちを嘲笑うようにすら思える。


数回のループを経て、俺は、この悲劇を止めるにはキュイ・ノーヴェルの考えや行動を改めさせる事だけが、悲劇の回避だということに気がつく。


だが俺は学園に入学した日にしか戻らない。その日以前に壮絶な人生を送り、完全に人格が歪んだキュイを改心させるなんて到底無理な話だ。

行動も制限されていて、俺にはなす術がない。予定調和のように起こる悲劇を解決する為、ヒロインに助言することしかできないのだ。悲劇が起こると分かっているのに。


「くそっ!」


俺は机に拳を叩きつけた。机の上にはこの世界の仕組みや学園にいる人物の情報が書かれた紙が散らばっている。論理的に考えて、俺がどう足掻いてもこのループから抜け出せない。悲劇はさも当然といった顔で襲い掛かってくる。


「どうにもできねぇじゃねぇかよ……」


そうして、俺は絶望し、考えるのをやめた。



何度目か分からない学園生活が終わり、また俺は学園の前に立っていた。

どうせまた、凄惨な事件が起こる。否、俺にとっては代わり映えのない日々が始まるのだ。


そうして学園前にぼーっと立ち尽くしていると、見知った顔が見えた。

キュイ・ノーヴェルだ。その隣には、彼の義妹、フィアナ・ノーヴェルがいる。


おかしいな。

違和感を感じた。今までの二人は勿論一緒にいることはあったものの、こうして入学式まで一緒ではなかった。それに2人共、見たことのないほど柔らかな笑みを浮かべている。


入学式にも驚くことがあった。

俺はキュイ・ノーヴェルに話しかけられたのだ。

しかし、会話といっても、俺が別の教室の扉の前で友達と話している時に、


「邪魔だから退いてくれるかな」


と笑顔で吐き捨てられただけだが。

だが、幾らか雑な物言いは、今までの優しく隙のない王子様ではない事を裏づけた。


この状況が、明らかに今までと違うことを悟った。俺の行動範囲はぐんと増え、今まで変に制限されていた事が出来る様になった。

俺は、キュイ・ノーヴェルに付き纏うことに決めた。彼の友達になる事は、悲劇を回避するのに役立つと思ったからだ。


「なあなあ、勉強教えてくれねー?」

「今忙しいんだ」


最初は笑顔でバッサリだったが、暫くすれば、無言でノートを差し出す仲にまで発展した。なんだかんだ言って、優しいのだと思う。


仲良くなればなるほど分かったのは、彼は今までとは随分違う。毒舌で、少し冷淡な所がある。彼なりに取捨選択しているようで、自分が選んだ者には優しいが、どうでも良い者には目を向ける事はない。


「俺めっちゃ腹減ったから、その手に持ってるお菓子欲しいんだけど」

「幾らでもどうぞ」


差し出してきたお菓子を食べていると、すれ違った令嬢に泣かれたりした。どうやら差し入れだったらしい。躊躇なく渡すなよ、と悪態をついたら、キュイは悪童のような笑みを浮かべた。

でも、これがキュイの本当の姿なのだと思ったし、人間らしくてこっちの方が良い。


そして、そんなキュイの隣にいるのは、彼の義妹のフィアナだった。

今までは周りの人に対しては高飛車で、キュイにべったりの妹だった筈だが、接すると驚くほど性格が違う。

自己主張は強くなく、大人しい印象を受けた。分け隔てなく優しく、彼女自身はキュイに執着していない。寧ろ、キュイの方がフィアナを愛しんでいるのが傍目から見ても丸わかりだった。


「フィアナ、休日何するの?」

「ええと……特にやる事がないから、王都を散策しようかと思っているわ」

「僕もついて行っていい?フィアナを1人で歩かせるのは心配だからさ」

「私、そんな子供じゃないわよ」

「でも、僕がフィアナと一緒に行きたいんだ」

「じゃあ一緒に行きましょ。私もキュイと出掛けるのは好きだから」


2人はこんな感じで、恋人のような会話をする。

 

彼女に近づき不埒な真似をしたら許さない、という視線と態度をキュイがしているせいで、容姿端麗なフィアナに男が寄り付かない。フィアナも、キュイの事をただの義兄よりは特別な存在として接していることは明らかだった。

察しのいい生徒は、くっつきそうでくっつかないキュイとフィアナを生暖かい目で応援していた。


そこで気づく。

キュイの変化は、フィアナの努力のお陰だと。

幼少から彼をずっと支えていたのだと。

どうしていきなりフィアナは人が変わった様になったのかは分からないが、とてつもなくいい変化の兆候には違いなかった。フィアナの努力によりキュイの性格はかなりマシなものになった。悲劇が回避され、長いループが終わろうとしているのだ。


だが、俺は不安な事があった。

それは、万が一フィアナが傷付けられた時、キュイが怒りで冷静さを欠いて闇魔法を使うかもしれないという事だ。フィアナを溺愛するキュイならあり得る。

そうすれば動機は違うとはいえ、悲劇は繰り返されてしまい、再度ループしてしまう可能性がある。


もし、キュイが闇魔法を行使したら?


――何があっても絶対に、2人を助ける。


これが、俺の出した結論だった。

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