0話 プロローグ
耳障りな雑音が持続的に聞こえる。それも初日からずっとだ。人類の威信をかけるというなら、もっとまともな装備を配布しろと、幾度となく思ったがもう四日目、いい加減諦めがついた。
と言っても耳障りなことには変わりない。
できれば止んでほしいのだが。
「──し晃! おい聞いてんのか俊晃! また脳内掲示板してんだろ、どうせ」
となりに座る男がいつものように絡んできたが、正直めんどい。と言っても四日目だ。
こっちの方もだいぶ扱いが分かってきた。
あっちのテンションに合わせると、とてつもない疲労感に襲われる。しかし、無視と言うのもなんだかんだで胸が痛い。
よってひねり出した答えが冷たくあしらうだ。
「うるせぇな…… さっさと飯済ませて行くぞ──」
これが今の俺の中での最適解。
まず一言目で、面倒だとか、関わりたくないと言った思いを「うるさい」という言葉で、少しオブラートに伝える。
次に今、やるべきことを伝えることで、話題を発展させず、あっちの口をふさぐ。うん。完璧だ。
「まっ、待てって! 一人での行動は厳禁っていわてんだろ~」
しかし、俺も運が悪い。
そう思う要因はいくつかあるが、まずはこんな場所に送られたことで、俺の人生は奈落の底に落ちたわけだがここがどん底だろうと思っていたのに、よりによって組まされたチームの一人にこんなうざったいパリピ野郎がいるなんて、ほんとに最悪だ。
「うるせぇな…… 飯済んだなら行くぞ──」
もう夜が明けてきている。急がないと、どこから何が出てくるか分からない。
何故ならそう、ここは『ユリカゴ』なのだから。
『第十二回ユリカゴ調査 四日目 生存者48/1000』
~*~*~
今日は十二月三十一日、大晦日だ。ちなみに何曜日かは知らない。毎日が休みの俺にとって平日だろうが、日曜日かなんてどうでもいいことだ。
後三十分もすれば新年だ。それと年齢的に考えれば、大学受験について考えていかなければいけない年が始まるわけである。
これも絶賛引きこもり中の俺には関係のないこと、というより関心のないことと言うべきか。
俺はも半年以上学校に行っていない。
理由は様々あるが───
「俊晃…… 父さんたち、おばあちゃんの家に行ってくるからな。一応お金はリビングに置いてあるから、コンビニ行くなり出前とるなりしてくれ…… じゃ……」
「……」
不意にドアがノックされ、父親が話しかけてきた。母親が話しかけてくることは珍しくないが、父親の場合はここ半年で、おそらく初めてだ。
もちろん俺は返事をしないし、父親の声も後半は小さくて聞こえなかった。
玄関の扉が開けられ、閉じられ、鍵がかけられる音がした。生半可な引きこもりだと、ここで外を確認しに部屋を出る。
そこに罠があるのだ。
外に出るとそこには母親なり父親なりがいて、捕まる。もはやテンプレと化した常套手段だ。
俺はそんな子供だましには引っかからない。
父親の実家に帰ると言うことは、休みの期限も考えて、三日は帰ってこない。
ならば、今日のところは耐えしのぎ、行動を起こすのは明日の早朝だ。
それならたとえ待ち伏せを食らっても、諦めてそこにいないか、扉のすぐ脇で寝ているかだろう。
幸いにも食料の備蓄はまだある。俺は絶対に負けない。
それから約半日、ようやく夜が明けた。
満を持して部屋を出る俺。幸運なことに誰もいない。どうやら罠などではなく、現に家には俺以外の誰もいないらしい。
それでも染みついた防衛本能なのだろうか、忍び足で歩いてしまう。忍び足の欠点はいかんせん歩みが遅いことだ。
これではいくら時間があっても足りない。さっさと金額を確認して、これからの予定を立てなければいけないのだから。
ゆっくりリビングの扉を開け、机の上を確認するわけでもなく、それは俺の目に飛び込んできた。そこにあったのは山。
手のひらサイズの紙がひとまとまりにされ、それが積み重ねられた山だ。しかも、あれはおそらく万札。この距離からじゃ正確には測れないが、最低でも一億はありそうな高さだ。
思わず気が動転する俺。正直にいって訳が分からない。
俺にこの金が渡される理由もさながら謎だが、うちはそこまで裕福な家庭でもない。どこからこんな大金が出てくるのか。そもそもこの金はなんなのか。
ありとあらゆる疑問が俺の脳内を駆け回り、俺は混沌の渦に飲まれた。
しかし、こういったときに限って、急に冷静さを取り戻す。そう、まるで雷が落ちるように突然に。
これはチャンスだ。訳が分からないが、ここには馬鹿みたいな大金が確かに置いてある。これには手を出してはだめだ。
これは親が持っていればいい。俺が望むのは大金を手に入れ、豪遊する裕福な暮らしなんかじゃない。
ただ、引きこもってネットやアニメにのめり込められたらそれでいいのだ。
こんなに貯蓄があるなら、この家庭は安泰そのもの。それは同時に俺の人生は安泰と言うこと。うん。完璧だ。
こうして俺は、大金に手をつけず、ひっそりと部屋に戻るはずだった。
はずだったというのは、そうはならなかったということ。
俺は世界を知らなすぎたのだ。
俺みたいな社会のゴミがどうなるか。後悔先に立たずと言うが、まさにそう。
結果俺は弱い人間だ。守りたいものは守れず、誰かの助けがないと何もできない。
早く気づいていれば、何か変わったのか。
もっといい手段があったはず。
これがそう、後悔先に立たずである───
もう一話、9時頃投稿予定
即席で書いているので、誤字脱字が多いかもしれません。あればまとめて修正入れます
↑誤字脱字の報告いただけると有りがたいです