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四日目 D-4ポイントに向かう

朝日をすっかり遮ってしまうほどに、深く厚く森は生い茂っている。朝食を済ませた俺とパリピ野郎、もとい後藤憲司は夜番をしてくれていた仲間のもとに向かった。


「剛さん。お疲れ様っす。朝食はもうとったんすか?」


 後藤が話しかけた筋骨隆々な男。村上剛、このチームのリーダー的存在だ。的と言うのは、そもそも今回作られたチームにリーダーという役職はなかった。そこで後藤が見た目とその雰囲気だけで判断し、勝手に村上を持ち上げたのだが、彼は快く了承し、今ではすっかり頼れるリーダーとなっている。


「まだだ。と言うことで、しばらくここを任せられるか? 憲司、俊晃」


「了解です! いってらっしゃい~」


 やかましく返事を返した後藤とは対照的に、俺は軽くうなずいただけ。一チームの人数は五人で、そのうち二人は何故ここに来たのかという経緯を聞いている。

もちろん俺も全員に話した。しかし何故か、村上ともう一人はそのことについて頑なに口を閉ざし、話そうとしない。

そういうこともあって、俺はこの男を少しばかり警戒しているのだ。


「なぁ俊晃。まだ剛さんのこと疑ってんのか? ここ三日、四日で分かっただろぅ、あの人がこういった戦闘のプロで、公安みたいな国の組織に所属していたって」


「分かってるよ。だから怖いんだろ…… 俺たちがここに連れてこられた理由は建前で、実際には人口増加による食糧難を解決するための削減政策だって噂もあんだぞ。そうだとしたら、あの人にいつ殺されてもおかしくない」


「出たよ、ネット上での噂を信じちゃう、俊晃の悪いとこ……」


「おまえみたいに呆けてなんも考えないよりかはマシだよ」


「あぁ?! 剛さんに殺される前に、俺がおまえをあの世へ送ってやろうかぁ?!」


「やれるもんならやってみろや! 外でならともかく、ここでなら俺に部があるぞ」


 俺と後藤はよく似ている。年こそ離れているものの、タメにこんなやつがいたら俺は今、こんなところに居ないで、まっとうな学生生活を送っていただろうと思う。

無い物ねだりだとは分かっているが、こんなところでこいつに出会えたのも、一つの運命なのかもしれない。


「はいはい。朝から喧嘩しないのっ、怪我しても面倒見ないからね!」


 茂みの中から現れた一人の女性。聞いた年は十八歳とか舐めたこと言っていたが、実際は俺よりも後藤よりも年上だろう。

 香坂智郷。このチームの女神的存在だ。ここの的もさっきと同じく、後藤の独断によるもの。ただ、女神というのには俺も賛成だ。かわいいと言った形容よりも美しいという言葉が似合う、美人だ。年が十ほど離れていそうだが、こんな人が先輩で居たら──

 うん。ジレンマ。


「わかったよ。智郷さんがそう言うなら、おとなしく引き下がるよ」


 ここで後藤の弱点だ。こいつは智郷さんに弱い。彼女の言うことには絶対服従で、これまで逆らっているとこを見たことがない。俺も見つめられたりしたら、イチコロの自信はあるが、後藤ほどではない。

 と言うか、村上の前に香坂さんに殺される気がしてきた。ある意味で。

 さて、これでチームのメンバーもあと一人を残すだけになったのだが、まだ寝てるのだろうか。確かに昨日は頑張っていたみたいだけど、俺的にはいち早くここから離れたいのだが。


「ところで香坂さん。美貴はどうしたんですか? もうそろそろ出発ですけど……」


「あれあれ~? 俊晃くんは美貴ちゃんが気になるのかな~? 同い年だもんねっ」


「なっ! なに言ってるんですか?! そんなんじゃないですって!」


 これが香坂さんの悪いとこというか、俺が個人的に嫌いなところだ。男女関係をすぐに色恋沙汰に持って行きたがる。俺は早く出発したいだけで、別にそんなんじゃない。ツンデレ的なノリとかじゃなく、ほんとに。

 俺みたいなやつがツンデレとか、気持ち悪すぎて話にならないから。あれ、自分で言っといてなんだが、さすがに胸が痛いかも。


「冗談よっ 彼女ならとっくに起きて、どっか行ったわよ。朝練してきますとか言って」


「それ、絶対寝ぼけてただけでしょ~ ミッキー、朝に弱いから~」


「誰が寝ぼけてったってー 後藤さん?」


 後藤の背後から、朝の爽やかさとは瓜二つのおぞましく冷たい声がかけられた。と同時に、後藤の首根っこが捕まれる。

 早川美貴。俺と同い年で十七歳。都内の高校に通っていたとは聞いたが、こいつも村上と一緒で、ここに来た経緯を話そうとはしない。

 また、今のを例として、美貴は隠密能力に優れている。普段はそうでもないのだが、こいつが隠れたいと強く願えば、自然と周りが自分に気づかなくなるとか。なんとか。

 俺は村上と同様に、こいつを危険視している。村上に比べれば、年も近く、結構気さくに

話してくれるので、警戒度は薄いが、やっぱりよく分からないやつだ。


「いや~ おはよう、ミッキー! 今日も朝から美人だね~」


「それはどうも~ で?誰が寝ぼけてるって~?」


 すかさずご機嫌を取りに行く後藤。ただし美貴には聞かないようだ。ちなみに美貴は確かに美人だ。香坂さんも合わせると美人が二人も居るチームなんて、他にはないだろう。現に後藤は初日から舞い上がっている。

 ただ俺はそうなれなかった。

 このチーム、美人が二人居ることに加えて、後藤がむかつくことにソコソコのイケメンなのだ。さらに村上も元公安だか何だかで、男としてかっこいい。

 それに比べて俺はと言うと、至って普通だ。普通が一番とも言うが、さすがにここまで色濃いメンツに囲まれると飲まれるしかない。

 悲しい現実だ。


「全員そろったようだな 皆元気そうで何よりだ」


 朝食が済んだのか、村上が戻ってきた。依然としてじゃれ回る後藤と美貴を見て、そう判断したのだろう。実際俺も体調が悪いとかはない。


「おはようございます、村上さん。 夜番ご苦労様です」


 さすがは香坂さん。丁寧な挨拶に加え、相手をねぎらう姿勢を忘れない。大人の女性の鏡のような人だ。しかしここで、さすがですね。なんて言わない。

 大人の女性なんていうワードを出せば、私まだ十八歳とかいう返しが来ることが目に見えている。その後軽くしばかれることも。


「おはよう、香坂、早川」


「あっ、おはようございます。村上さん」


 後藤と美貴の対決は、美貴の勝利で終わったようだ。後藤がすっかり伸びている。情けないやつだな、全く。


「今日はD-4ポイントに向かう予定ですよね?」


「その通りだ。前情報によると、レート赤のベイビーも観測されているらしい。気を引き締めて向かうぞ。犠牲者出したくない」


 レート赤。ベイビーというユリカゴ内で誕生したとされる新生物の中でも最大級の危険度認定されていることの現れ。

レート赤に遭遇したチームが生存した事例は過去に一回だけ。対峙すればほぼ、助からないと言っていいだろう。

犠牲者出したくないか──

 三日目にしてすでに九百人以上が命を落としている。果たしてこの先、俺の命がどれだけ持つか見物だな。


 こうして俺たちはD-4ポイントへと向かった。 


次は明後日の6時頃を予定しています

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