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第八十八話 街道に立つ者

 途中で魔物などが原因で睡眠を邪魔されるという様な事もなく、朝までぐっすり眠る事ができ心地よい目覚めを迎え欠伸をしつつ体を伸ばして時間を確認するとまだ夜が明けたくらいの時間だった。


 ん~完全に目が覚めちゃったし、時間的に中途半端だから二度寝はないな。レイはどうかな?


 確認してみるとレイはまだ寝ている様だったので起こさないようにそっとテントを出て川で顔を洗ったりしてからバズのところへ行った。


「バズ、おはよう。元気か~?」

「わふっ。わう!」

「今日も頼むな~」

「わうん!」


 やっぱライドドッグいいな~、できればメルくらいかもう少し小さいサイズのを飼いたいな~。あ、騎乗用じゃなければもっと小さい種類のもいるかな? でもそれだと『ライド』ドッグとは呼べなくなるか。


 そんな事を考えつつバズをモフって癒されていたらバルクゥがやってきた。


「おはよう。えーと、リンくんだったっけ? 早いね」

「バルゥクさん、おはようございます。見張りお疲れ様です。おかげさまで熟睡出来ましたよ」


 話を聞くと盗賊は出なかったが何度か魔物が出たが低級の魔物ばっかりだったので苦戦する事も無く犬車に近づける事無く倒せたそうだ。


 だからシューティンググラスの警告音が鳴る事もなく起こされる事無く朝まで寝れたんだな――あ、シューティンググラスの設定元に戻してなかったな。


 シューティンググラスの索敵範囲などの設定を変更前の状態に設定し直し、まだ朝食を食べるには時間が早いし何をしようかと考えて辺りを見ていたらラグルスが犬車の点検をしていたので、許可をもらいバズのブラッシングをしようとしたがバズにブラシに残るメルのにおい――と言うか自分以外の別の犬のにおいか? が気に入らなかった様でブラシを持った手を近づけたら尻尾で叩かれてしまった。

 ちなみにバズの毛の感触、モフ感をじかに味わいたくなったのでタクティカルグローブは装着していなかった。


「痛っ! えー、新品じゃないとだめか?」

「わうん!」


 バズは左前脚で地面をたしたし叩きながらもちろんと言った感じで吠えてきたので、ブラシを一本作れる材料があるか『倉庫アプリ』の中を確認したら今ある材料でも製作可能だったので『錬金アプリ』を使いバズ専用のブラシを手早く作くり、バズの指示の下ブラッシングをした。


――――

「ここか?」「わぅ~ん! わん(ちがう! こっち)」「ここ?」「うぉん、わうん(そそ、そっちも)」「ははは、ちゃんとやるからそうせかすなよ……なんで俺はバズの言う事が分かるんだろ? 翻訳機能のおかげ……まさかね、気のせいだろ」

――――


「さてと、そろそろ朝食の準備しちゃうか。バズにもちゃんと焼き魚あげるから待ってろよ」

「わうん!」


 みんなで朝食の準備をしているところだったのですぐに駆け寄って自分も手伝った。ちなみに朝食に出た魚は昨日釣ったものを一夜干ししたものだった。


 もしかして一夜干しなんてしてたから魔物が寄ってきたんじゃないだろうな? でも、これを作ったのは冒険者でもあるバルゥクたち何だからそこらへん分かってるはずだよな?


 バルゥクは冒険者なんだからちゃんとしているはずだと思いつつも疑いの目で見たら目をそらされ、他のメンバーは何とも言えない顔をしていたことから、どうやら魔物んに襲われるリスクよりおいしい一夜干しを食べたいという欲求の方が強かったのだろう事がその態度でうかがい知れたが、一夜干しがすごく美味しかったのでそれに免じてあえて口に出して突っ込む様なまねはしないでおいた。


 朝食を食べた後手早く荷物を片付けてすぐに出発した。そして、天気も良く魔物などに襲われる事もなく快調に進んでいたのだが。


「……ラグルスさん、もう少し進んだ先にある広い場所で停車してください」

「あー、出ましたか……すみませんお客さん方。ちょっと停車しますね」

「どうしたんですか?」「な~に?」「お、もしかしてあれか?」


 バルクゥがため息混じりにラグルスに停車を指示し犬車内へ停車する旨を伝達すると犬車の中が騒がしくなったが誰も慌てたり焦ったりするような感じが無い事から危険なことではなさそうだったが、一応シューティングゴーグルの『索敵』を使ってみたら前方に反応が一つあった。。


 う~ん、シューティングゴーグルに反応ないから敵意とかはないはずなんだけど何があったんだろ? 魔物かなんか……だと敵意があるはずだよな? まさかのヒッチハイク待ちの人か?


「えぇ、どうやらあれの様です」

「あれか~」「いきなりあれとは」「私あれ見るの初めて」「あれだ~」


 あれってなんだ? なんかみんな『あれ』と言うのを分かってるっぽい感じだけど……小さなスミラくんまで知ってる様な感じだし、分かってないの俺だけか? てか、何でみんな『あれ』としか言わないんだ?


 何だろうと思い窓から顔を出して進行方向を見てみると大男が一人街道の真ん中に立っていた。街道で動かないで道をふさいでいるから盗賊か何かかと思い、囲まれたりしていないか再度周辺を確認したが他に反応はなく別に囲まれたりしているような事もない様だ。


 盗賊が襲ってくるのとかじゃないようだけど……盗賊ではないのなら何なんだろ? 怪我で動けないでいるとか――だと、それはそれでこんな『あれか~』なんて雰囲気にはならないよな? ……だとしたら、この先で犬車がわだちにはまったとか車輪が壊れて立ち往生でもしてんのかな?


 レイに聞こうとしたらすごく嫌な顔されたので、ちょうど窓の外のタラップに座っていたレバクルジに小声で説明を求めると『え、マジで知らないの』と言った感じの顔で驚かれたが、ちゃんと説明をしてくれた。

 説明によると、道をふさいでる大男で盗賊ではなく武者修行として街道に立ち通る者と力試しをしている迷惑な奴、よく見ると背中に大きな剣らしきものを背負っている。この大陸では盗賊よりこういう風に強くなるために武者修行的なことをする者が多いらしい、迷惑だとは思うのだが、襲われる事は無く逆にそのおかげで大きな街道では盗賊に襲われることが少ないという事だった。護衛をする者としてはそう言う事をやってるのは強い者が多く、相手をすると小さくないケガを負い滅多にないが死ぬ事もあるから微妙なとこであるらしい。


「すまないが、一手お手合わせを願おうか!」

「あー、一応この犬車の護衛だから俺が相手するわ」


 街道に立ちふさがっていたのは身長二mを超える大男で、その背中に背負っていた剣は馬鹿みたいに大きい鉄塊のごとき大剣で、そんな大男の相手はどうやらバルゥクがするらしい、その顔はなんか微妙に嬉しそうだ。


 ここにラウが居たら喜んで戦いたがっただろうな。レイはそう言うのに興味なさそうだし……いや、興味がないどころかむしろ護衛がいなかったら面倒だと俺に押し付けてたかもしれないな。


 そんな事を考えてる間に勝負がつきバルゥクが負けた様だ。どうやら一撃で勝負がついたらしい。

 負けた方は多少の金か物を勝った相手へ渡すのが決まりらしく、バルゥクが銀貨を数枚渡していた。ふと周りを見ると泣く者、喜んでる者がいる。何をやってるのかと思ったらどうやらどっちが勝つか賭けを行っていたようだ。


 これって、ちょっとしたイベント扱いか? あれ、コミーも喜んでるけどバルゥクじゃなく相手に賭けてたのかな? ……あ、コニーが喜んでるの見てバルゥクが落ち込んでる……なんというか、ドンマイ!


「なぁ、レイから見て相手はどうだった?」

「……かなり強い……私でもちょっと……勝てないかも」


 なるほどそれならゴールドランク以上の強さはあるって事か――いや、ゴールドランクのバルゥクが相手の剣の一振りで負けたんだから強さだけならゴールドランクよりも上と考えるべきか?


 レイと話していると大男のお腹が盛大になったので持ってたマジックバックに入っていた魔物の素材のいくつかを対価に食料を少し分けてやることにし、ついでにちょっと早いが少し休憩を取る事になった。

 大男は名前をキルグと言い、近くで見るとがっちりした筋肉で背丈以上に大きく見えるが顔は割と普通であった。商人がその名前を聞いて南のギリバイアス連合王国で結構有名な剣豪のリトロと言う奴の弟子で近年頭角を現してる人物であると説明してくれた。 

 俺はここで初めて知ったのだが今いる国はバスティオン連合王国で南にあるのがギリバイアス連合王国であったらしい。

 キルグは師匠であるリトロに修業して来いと言われて無一文で山に放り投げられ(比喩じゃなく物理的に投げ込まれたらしい)しばらく山籠もりしていたがいつも同じ魔物の相手をするのに飽きてきたのでもっと強い魔物を求めて北上して行き(当人には北上しているつもりはなかったらしいけど)しばらくすると雪が降ってきたのだが、それでもかまわず突き進んでいたら何個目かの山の頂上付近でかなり手ごたえのある大きな蛇の魔物と戦い十分満足できたので久しぶりにまともな食事でも取ろうかと思い町を探してさらに北上した所で街道に出たが自分がどこにいるのかさっぱりわからなかったので街道を通る人に道を聞こうと待っていたが犬車の護衛をしていた大地の牙見て気が付いたら勝負を挑んでいたとの事だった。


 なんかもう無茶苦茶だなこいつ。何その『あ、戦えるやつ発見。よし、戦おう』みたいな思考――いや、無意識の条件反射か? ま、どっちにしてもまともじゃないだろ。


「……こういう事(街道で通る者と戦う事)をするのは……強くなること以外に興味が無いような……頭のおかしい生き物がほとんど」

「辛辣だな。てか、ここがバスティオン連合王国って事をいま知ったよ」

「……リン」

「あ、あの時は慌ててて町の名前しか見てなかったし、その後も別に今いるとこがどことかあまり気にしてなかったから」


 俺がレイに呆れた目で見られそれに対して言い訳していると、ラグルスがキルグと話をしていているのが聞こえてきた。


「それでキルグさんはこれからどうされるのですか?」

「ギリバイアスへ戻りたいのでそちら方面へ行くのであれば同行を願いたいのですが、その前に勝手に国境を越えてしまったのでギルドに寄って説明しなきゃと思ってます」


 休憩後、緊急事態でもないのに勝手に護衛を雇うような事は出来なかったのでキルグは無償で護衛する事を条件に同行する事となった。無一文と言っていたのに(正確には現在バルクゥから勝ち取った銀貨が数枚あるけど)金は要らないのか不思議に思ったがマジックバックにはまだ魔物の素材が結構入っているので町にさえつければそれを売るから問題ないとの事であまり金には執着してない――と言うか闘い以外の事には興味が薄い様だ。


 体は大きいけど割とまともに会話できてるし何か低姿勢で顔も強面じゃなく普通な感じだし、戦闘狂って感じには見えないんだよな。あ、でも、戦闘直後をちらっと見たけどちょっと怖い感じしたな。あれか、戦闘になると性格変わっちゃうやつか?


 そこからは盗賊はでなかったが魔物が何回か出て来てそのすべてをキルグが瞬殺したので大地の牙の面々は楽ができ、さらに強い相手の戦いを目の前で見る事ができて勉強になったととバルゥク喜んでいた。

 ただし、魔物が弱すぎるせいなのかキルグが振るった剣で魔物は挽肉状態でグロすぎて他の客たちの中にはその光景を見て吐く者もいたけど。


 なんで剣で斬ってるのに魔物が爆発する様にはじけ飛んでるんだろう? 魔法って感じには見えないんだよな……単なる腕力か、それともなんかゲームやアニメにある様な技を使ってるのかな?


 とにかく大きな問題が起きる事もなく中継地となる宿場町が見えてきた。

 ちなみに、キルグのあれは単なる身体強化+腕力だが、全力を出せば腕力だけでも同じような真似ができるらしい。


 なんつぅばか力だよ! もしかしてタクティカルグローブの能力を使っても力負けしちゃわないかな?




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