<第19話> 頼りになる仲間たちと謎の黒騎士
精霊界・白驢馬の塔、見晴台にて。
「ルキアーノは今どこかしら」
「今しがた闇の洞窟前の宿に入ったところです」
「そう」
暇つぶしに、女王は従者妖精に話を振る。
聞かずとも、精神接触はできる
が、最近ではルキアーノには疎ましく思われているようで控えるようにしていた。
「旅は順調のようね」
「ええ、お与えになった力が功を奏しているかと」
「そうかしらねえ……」
かつて彼が聖国の王子であった時とは違い、多くの人とふれあっている。
知らぬうちに彼のパーティーに入っている人もいるくらいに。
膨大なパーティーメンバーを取り込んで、彼は力と財を蓄えていた。
「村人を雇って洞窟に入るようです」
「お金での関係……あなたが欲しかったのは本当にそれなのかしら……」
「金銭関係ではなものも、あの少女以外に二人いるではありませんか」
「全員女でしょう?」
「そうではありますが……」
「はぁ……」
ルキアーノは七人の村人を金で雇ったほかに、
盗賊と見習い神官の女を連れていた。
もちろんパーティーに入っている。
「女を侍らしている場合ではないのよ、ルキアーノ……」
「聖国でくすぶっていた彼は確かに強力な聖徒ではありますが、他にも適役がいたのでは?」
「意味がないのよ、この次元に根源を持つ者では。神界の調停者に支配されるのがオチだわ」
「やはり来ているのですね……」
「ええ、面倒なことにね。ついに神界が業を煮やして積極的介入を始めた」
女王は渋い顔をした。
従者はそこで首をひねる。
「しかし神界が介入することで魔神、天神どちらかが勝ったとして、あなた様は神界に戻るだけでは?」
「そうね。決着がついたとしても、私に直接的なデメリットはないわね」
「では、なぜ?」
「私は人間が好きなのよ。決着がつけば世界は統合され、まず間違いなく人間界と普通の人間は滅ぶ。それが私は嫌なの
」
女王の言葉に、従者妖精は口を閉ざした。
今の妖精界は、魔神勢力が優勢だ。
女王の夫もまた現魔王のルドラークに仕え、四天王として名を連ねている。
そんな状況下において、魔神勢力につかない旨の発言をできるのは、女王ただ一人だった。
「あなたは夫のことを気遣っているのね。でも心配しないでいいわ。私に賛同したからといって、あなたが魔神側に被害を被る事を私は許さないから」
「感謝いたします……」
☆
「ふー、ここで休憩するか」
闇の洞窟・第六階層。
レッドスパンキーを五体ほど狩ってから、派遣部隊が構築した休憩所で休むことにする。
「アニカ、さっきのヤツのレベル19くらいか?」
「ううん、レベルは25。ルーノ、強くなってる」
「そうか」
額にたまった汗をタオルで拭きながら、岩に腰を下ろす。
松明に照らされた休憩所は、今は自分らだけだった。
「ここいらから人が少なくなってるねぇ、ルーノくぅん」
「お、おう。そうだな」
盗賊のリリアンヌに胸を押し付けられて、つい鼻の下が伸びてしまう。
――ぼ、僕にはアニカという嫁が!!
「けっ」
――あ、あれは便所虫を見る目だ……。
道中、そこまで意識していなかったのに、どうにもパーティーが女ばかりだ。
リリアンヌは村を出る前からだが、神官のマリスは、完全に胸目当てだった。
「ここからは気を抜けませんねっ! ルキアーノさん!」
――あぁ……大きな果実が揺れとるんじゃぁ……。
「ああ、そうだな。ここまでは物理攻撃が魔物ばかりだったしな。ここからはマリス、君が頼りだ」
「は、はい! がんばりますぅ!」
厳密にいえば、マリスの光魔法だったりするけど。
マリスはまだまだ未熟だ。
パーティー効果で、僕が光魔法が使えるまでに至っていない。
しかし。
「アニカ、リリアンヌのスキルレベルはどうだ?」
「ん? 属性付与のこと?」
「そうだ」
僕が旅の道中での誤算はただ一つ。
聖剣が全くもって手に入らないということだった。
聖国で腐るほどあったものだから、その有難みをすっかり忘れていた。
僕の剣術は聖剣あってこそ活きるものなのだ。
だから、リリアンヌのスキルを使って、僕の聖属性を普通の剣に付与するしかない。
今のところは、であるけど。
「でもでもぉ、神聖帝国か聖国に行けば貰えるんじゃない? ルーノくんだったらさ」
「そ、そうですよ! 私も聖属性をもった人ってルキアーノさんが初めてです!」
「ああ、まぁそうなんだけどね……」
できる限り、その二つの国には入るどころか、近寄りたくもない。
近寄りたくないから、わざわざデラプトスの森じゃなくて、こっちの闇の洞窟に来ているんだし。
「ルーノ、何か理由でもあんの? 訊いてなかったけど」
「いや、まぁ。理由はある。でもあんまり話したくない」
聖国で聖徒をしていたこと自体もそうだが、
前世がどうのこうの言ったら相当痛いやつだと思う。
そこらへんは現代日本と変わらないはずだ。
「……。アニカ、マリス、リリアンヌ。言ってなかったけど、僕、聖国の王子なんだ」
「は?」
「え?」
「ルーノくぅんってばス・テ・キ」
他に誰もいなくてよかった。
雇った七人の村人もこの階層の入り口に待機させているし。
「え? 聖国の王子様はヴァリフェドラ様ですよ? ルキアーノさん」
ほら、普通につっこまれちゃってるし。
――というか誰だよ、ヴァリフェドラって。
まあ僕が死んでからかなりの年月が経っているだろうしな……。
リリアンヌの熱っぽい視線を受けながら、これからのことを考える。
この闇の洞窟でそれなりに強くなってから、だ。
この闇の洞窟の先は、魔界領域最深部。
下手に手を出すべき場所じゃない。
だったら、大陸を一周しながら、デラプトスの森を見てから、村に戻るのがいいだろう。
そう結論を出した時だった。
【クソガァ!!!】
くぐもった声で、洞窟の中を反響した。
すぐに盗賊のリリアンヌに目を配る。
「人じゃないねぇ、これ」
「ええ、邪悪な気配を少し感じます」
「ルーノ、どうする?」
アニカに確認されて、僕は立ち上がる。
人の叫び声と、装備の破壊される音が聞こえてきた。
「行こう」
僕の掛け声とともに、リリアンヌを先陣を切って走り出す。
フットワークの軽いリリアンヌを先頭に、僕とアニカが並び、最後尾にマリスがつく。
しかし、先を走るリリアンヌとマリスに脚力の差がありすぎて、
もはやパーティーとして成り立っていない。
――明らかにわざとマリスを放置してるよなぁ。何とかしないと。
松明の明かりを頼りに、角を何度か曲がり、そこへと着いた。
「ルーノくん! こっちこっち! 何か黒いのいるわよ!」
「ちょっと待ってくださいよ!」
やっと追いついて、そして見つけた。
真っ黒い全身鎧が、血を浴びて突っ立っていた。
地面には死体が二つ。
槍を腹にぶっ刺した神官と、首をはねられた戦士の男。
そして遥か前方には、楯を破壊されて、壁に打ち付けられた女戦士がいる。
「た、たすけてほしいかも……」
魔法使いらしき幼い少女がリリアンヌの足にすがっている。
「アニカ! こいつは何てモンスターだ?」
「ルーノ……逃げた方がいい……こいつ、勝てないわ」
「え? なんでなんだ?」
アニカがいつのも増して真剣な表情で僕に言ってくるが。
それでも目線は鎧から外していなかった。
「いかにあなたが勇者の素質があるっていっても、不死スキルを持つ100レベルの龍殺しは倒せないでしょ……」
かつて前世で戦ったことがある。
100レベルの剣士、不死スキルをもつモンスター、そして龍殺しと呼ばれた魔人。
それぞれ別々の相手で、勝てたのは剣士だけ。
他二つは引き分けだった。
一つだけでも厄介なのに、それが三つ揃ってるだって?
「よし、逃げよう!」
僕の決断は、きっと音速を越えていた。




