<第10話> 見送り、そして知らぬ間に進んでいく展開
「いやぁ悪いなエルジェ。恩に着るぜ、クラディウスを貸してくれてよ」
俺がノイルさんのバルディッシュを折ったあと、すぐにエルジェイドの自室へと向かった。
珍しく早起きしているのだ。
何かあるのは当然だろう。
と思いつつ、着いてみればゼラスとエルジェイドがいた。
「明日には村の奴がディアラを連れてくっからよ。留守番頼むわ、クラディウス!」
「まあゼラスの頼みならしょうがないわね……。しっかり教えてあげるのよ、クラディウス。クラディウス?」
俺の頭の中はノイルさんとの魔法講義でいっぱいだった。
しばらくゼラスとエルジェイドは外出するらしいし、ノイルさんとほぼほぼ二人きり……?
こ、これは……。
「クラディウスさん?」
「――――!」
――な、なんだ? みんながこっちを見ているぞ?!
「……問題ない」
眉をひそめるエルジェイドに、心配そうに見つめてくるノイルさん。
ゼラスにいたっては、ガハハと元気よく笑っている。
「おいおい頼むぜぇクラディウス! ディアラは案外とそういうの見てるからなぁ~?」
「そうですよクラディウスさん」
「でもまだまだガキンチョだからよ。剣以外の面倒見てくれると助かるわ」
――なに? 生活面の世話も俺がするのか?
「ああ、そのことならノイルに任せるわ。いいわね?」
「わかりました、お嬢様」
「おいおい、ノイルは連れて行かねえのか?」
「別にいいわよ。クラディウスを連れて行かないのなら、かえって居ない方がいいわ」
「まー確かにな。クラディウスが居たら、でかい面もできたのにな!」
「口が過ぎるんじゃないかしら? ゼラス」
「おっと、こわいこわい」
剣呑な会話かと思いきや、エルジェイドもゼラスも笑っている。
いつものことなのだろう。
身支度はもう整っているのか、エルジェイドとゼラスは早々に旅立つようだった。
俺は見送りに、地下の転移門前へと向かう。
「じゃー行ってくるわ! ディアラを頼んだぞクラディウス!」
「行ってらっしゃいませ、お二方」
ゼラスが意気揚々と大きく手を振りながら転移門へと吸い込まれていく。
それにノイルさんが小さく可愛らしく手を振っている。
一人転移門にたたずむエルジェイドが、俺の方を見ていることに気づく。
半身で振り返って、その青紫の瞳を細めている。
何だろう。何かを言いたいのだろうか。
ああ、そうか。
「行ってらっしゃいませ、我が姫君」
膝を折って、右手を心臓部に添える。
それに満足したのか、エルジェイドは転移していった。
気難しいガキンチョだな。
「ふふっ、お嬢様嬉しそうでした」
「そうですか?」
「ええ。クラディウスさんを連れていきたい、でもゼラス様の頼みも断れない。差し出がましいでしょうが、寂しく感じていたんではないでしょうか。それに、ご兄弟の方々にクラディウスさんを見せたかったでしょうに」
「なるほど……」
どこに行くか知らないが、見栄を張りたかったということか?
龍殺しの証を持つ従者を見せびらかしたかったと。
「そういえば、二人はどこへ?」
「……え?」
「え、いやどこへ……」
「わかってなかったんですか?」
「はい」
何だろう。
どことなく白い眼で見られている気がする。
冷ややかな雰囲気だ。これは。
「魔界です。陛下が魔神へとなられる為に、四天王の方々とお嬢様を含む継承者の方々が集まっているんです。知らなかったんですか?」
「……はい」
「…………」
沈黙がとても痛く感じる。
今思えば、昨日からノイルさんは何やら準備をしていたし、エルジェイドも気を張っていた気がする。
お風呂に入って、俺を呼んで少し話して、気合を入れていたと。
そこに呼びに来たゼラスがやってきて……。
「先ほどの手合わせもお嬢様がおっしゃったことなんです。ゼラス様も見ていたんですよ?」
「ぇええ……」
「むむ、その顔はただ私が戦ってみたかっただけと思っていたという顔ですね」
「……、はい」
鎧の俺に表情などないはずなのに、どこを見たら俺の考えてることがわかるんだろうか。
やはりデキル女は一味違うな。
「ま、いいでしょう。留守番の私たちは任された仕事をするのみです。明日からは気合を入れてください。いいですね?」
「はい」
気のせいだろうか。
ノイルさんの、俺に対する扱いが雑になっていっている気がする。




