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第八話 竜の王子と国王夫妻

~第3章~


 剣はヒトを強者に変えるが、本は私たち人生を丸ごと変えてしまう力があ

る。中には幾人もの人生、いや、世界すらも変えて新しい時代を築くこともできるだろう。それは一体どのような本だろうか?私は「読者に感動と賛同を与えるだけでなく、補足・補完ををし続ける本」だと考えている。

 手のひらに収まる本は、いわば一つの世界だ。技術、魔法、思想、まだ見ぬ概念に溢れており、良書は人々が補足、補完を重ね、それらの要素が無数に広がってゆく。やがては何でもなりたいものになれるし、どこへでも行きたいところに行けるようになる。そして望みがあればその望みをかなえることも出来るだろう。



(トーラス100年の旅 第3章)




あの謁見から3日後、シャボ商会の施設に警備兵が押しかけ、大捕物と家宅捜

索が一斉に行われた。支店はおろか、関連施設まで全て捜索する徹底ぶりで、その包囲網を抜け出した関係者は一人も居なかった。あの警備隊長と財務翁をタッグで怒らせた以上、当然の結果だろう。


 この捜索で犯罪行為が次々と見つかったのは言うまでも無い。脱税どころか奴隷の私的所有に違法製品の製造(あのパチモンマジックガーデニングもここで作っていたなんて…)、果ては麻薬製造まで行っていたのには驚いた。事件を報じる新聞は、シャボ商会を「犯罪百貨店」と非難し、関係者の子供の頃からの罪状を遠慮なく書き立てていたほどだ。 

 結果として悪魔にシルバーカードや各種契約書を渡した商会は解体させら

れ、経営陣は重罪が確定。余罪がまだまだ出てきそうで、裁判が始まるまでまだまだ時間がかかるらしい。悪趣味と言える商会の建物は全て取り壊され、何もない更地へと還っていった。


 関係者の取り調べでレイレイ君との関係も問いただしたが、商会にはレイヴンが悪魔との意識はなかったようだ。彼は1年ほど前にふらっと商会へ立ち寄って、異界の品物を売るようになったのだが、その珍しさに目がくらんだ経営陣が彼を歓待し、商会の特権を彼に与えるようになった。シルバーカードをポンと渡したのも、その一環だったのか。『見たことのない珍しい品物をばかりだったのに…悪魔だなんて知らなかった、俺たちだって被害者だ』とぼやく経営陣達に、警備隊は呆れるしかなかった。

 まぁ、これは自業自得と言うほかないだろう。あの悪魔と接触があった時点で違法取引まみれの商売だったし、違法品を鑑定すると、天界の略奪品や謁見のときに持ち込んだようないわく付きの代物だったのだから。類は…いや悪魔は友を呼ぶと言ったところか。


 とにかくこれで王都は少しばかり平和になった。けれども、変化のこの世の中で時が動かぬ不変のままのものだってある。




彼女が来て丁度2ヶ月目となる満月の夜。宮殿の中央棟、メイントランク最上階にある談話室で、僕は両親一緒にくつろいでいた。

 談話室といっても王族が使う小さなモノで、中央の小さなテーブル席にいるのは僕と両親の3人だけ。傍らには、生まれたばかりの妹が揺りかごで寝かされ、数人の侍女が世話のために付き添っていた。


「イグウィル、最近は貴方の王政補助はうまくいっている?」


僕に問いかけてきたのは、父さんの羽を繕っていた母さん、ナガリ王妃だ。

この国では王族を含めファードラゴンなどの翼を持つ人口が少ないので、異種族同士で結婚が一般化している。母も不老の美獣と呼ばれる金色狐で、時々僕ら兄弟の姉や妹に扮して来客を驚かせるイタズラが出来る位だ。それでいて父さんの手綱を握ったり策士の腕も優秀という、実の母さんなのにミーティス先生同様の謎人物だ。それを全く気にしない父さんもなかなかのタマだろうが…。


「農業プロジェクトが一番うまくいっている、品種改良に成功した野菜類の種子生産は進んでいて、来年には国内の野菜レパートリーが増えていくよ。イネやソバの新品種探しでも良さそうな候補が見つかったし。逆に森林プロジェクトの製材の工業化は技術的には可能だけれど、このまま量産したら森林汚染が進むから、僕としてはもう一工夫欲しいところ」

「上出来だな。しっかりしたところは母さんの血をしっかり引いているな。それじゃあもう一つ、最近のスティルの状況を聞かせて欲しい、彼女の症状は良くなったのかな?」


スティルとは先生が命名したあの天使の名前だ。異界で言う優しい静寂のような意味だろうか。そんな彼女について問いかけた父に対し、俺は首を振るしかできなかった。

 情報部がスティルの素性を調べたものの、未だに手がかり一つ見つからない。ルヒエルの天使のコロニーでも光属性の天使は知らないらしい。ルヒエル曰く『アヴァロンのカードゲームに例えたら、普通の天使でさえレアカード並に珍しいのに、光属性の天使と言えばカードの山からスーパーレアを探すようなモノですよ。そうそう見つかりっこありません』だそうだ。彼女の故郷の世界を見つけるのって月に行くより時間がかかるのじゃないだろうな。

 そんな彼女は目覚めて以来、静養のため先生の部屋の隣にあった予備の客間で過ごして貰っていた。一応食事は取るし、基本的な生活習慣もこちらから指定するだけで、一人で行うことができた。スティルの名前には反応するし、会話は小型の画板に紙をつけて筆談でやりとりをどうにか済ませている。

 とはいえ筆談の内容は一部の質問に答えるだけで、回答も定型文をそのまま使っているような形なのであまり意味が無かった。むろん、目はまだ死んだままだ。定型文の筆談から辛うじて分かったのは遠い世界からやってきた天使族ということ、一人ここに連れられてきたということだろうか。悪魔のことについても尋ねてみたが、こちらは一切反応することがなかった。情報が一切入らないように操作されているのかもしれない。


挿絵(By みてみん)

(イラスト:ヒドラ作)


「残念ね…せめて進展のかけらでもあれば希望がもてるのだけれどね」

「言っておくけれどこの二ヶ月間、僕だって何もしなかったわけじゃないよ。喜びそうなことに手をつくしたさ。けれども…」


作戦①喜びそうな綺麗な天使服をプレゼント→しっかり受け取ってくれて無表情。それで終了。


作戦②専属料理人のパティおばさんと共謀して、豪華なご馳走を沢山用意→ナナ達一行が乱入して居合わせたみんなで大宴会になったハプニングがあったが、当の本人は食事も黙々と食べていて聞いても感想を言わない。


作戦③僕の魔術をフルに使って宮殿中庭を花いっぱいに→発動の瞬間一瞬でも表情の変が…と願ったものの、うつむいて座り込んむだけで終わってしまった。おまけに居合わせたイシマちゃんが「花のサラダだあ!」と叫んで花をムシャムシャ食べ始めたので作戦どころじゃなくなった。


他にも思いつく限りの方法を試したが、全くもって効果なし。花一杯の魔法に至ってはあとでナナ達一行に知られて一日じゅう大笑いされる羽目になるのだった。その中で『あんな花だけじゃ食い出がないじゃん、今度根っこに野菜くっつけてよ、ねぇ!』と言い放ったイシマちゃんもアレだけれど。

 ってよく見たら目の前の二人が笑いをこらえているよ、もうっ。


「父さん母さん?ヒトの苦労を笑うのはないでしょ!あの時は魔術使いすぎ

て、しばらく身体が動かなかったのだから」

「い、いや悪い こういう話がなかったお前がそこまで彼女に入れ込んでいると思うとな」

「入れ込んでいるって…、僕はただ放っておけなかっただけだよ、父さん!」

「それを入れ込んでいるっていうのさ、覚えておくんだ息子よ。しかし、その様子だと本当に彼女の処遇をどうにかしなければならないな。あまり時間もないだろうし」

「え?どういうこと?」


急に父さんは笑うのをやめてまじめな顔つきになった。こういうときは、完全に国王としての威厳を持ち合わせているので茶化すことは決してない。


「イグウィル、あなたとスティルちゃんのことが宮殿内で噂になりつつあるのは知っているかしら?」

「え、そうなの!?」


僕の耳にその噂が入ってくることはなかった。確認を求めるように父さんを見たが、うむ…と頷く。


「そりゃそうだろう?これまで女性関係の噂がなかったお前が可愛い女の子に入れ込んでいるのだから、目立たない方がおかしいだろう?それでいて、あの子の立ち位置というかこの城での役割が特に決まっているわけじゃない。『あの子は一体何者なのですか?』と、宮殿府に問い合わせが何件も入っている」


スティルが天使と知っているのは王族となる僕の家族と一部の関係者だけだ。国王と王妃の連名で、彼女の素性について深く聞かないよう厳命してくれていたけれど、2ヶ月の間彼女を目撃していたら、気になるのが普通だろうな。


「それくらいならまだいいけれど今日なんか『イグウィル殿下ってもしかしてああいった女の子が好きですか?彼女を性奴隷にするくらいなら、うちの娘を側室に…?』なんて聞いてきた馬鹿者貴族がいたぞ。即座に殺気全開にしたら全力ダッシュで逃げ出したけれどな」


父さんナイス。…しかし周囲でそこまで噂になっていたとなると状況はかなりまずいだろう。このことを出版社が嗅ぎつけて、最近出回り始めた大衆向けの情報誌に「王子のとある少女への熱愛発覚!!」なんて記事がのってしまったら目も当てられない。


「さすがに宮殿府もこのまま放置しきれないと思ったのだろう。5日後の総会議にて、彼女の処遇について対応を決めたいと話があった。今頃関係者の間でどう対応するか密かに検討中って所だろうな、ほうっておいたらどうなるかはお前も想像つくだろう」

「まずいな…」


今のまま総会で彼女の現状を説明したら、ほぼ確実に専門の診療所に送られることになるだろう。もちろんそれが間違いというわけじゃ無いけれど、僕から引き離されるのはほぼ間違いない。いや、そもそも彼女が天使とばれたら、一体どうなるか…。


「心配ならお前も会議に出席して彼女をどうするか考えておいたほうがいい。いっそのことお前が妾として引き取って幸せにしてやったらどうなのだ…え?」

「えっ!?父さんいきなり何言っているの!」

「別におかしいこと言ったつもりはないぞ?天使の女の子って滅多にいないのだし、とっても可愛いじゃないか。大人しいから恐妻家になる心配だってないだろうし。ほら、ここはもう勢いで彼女を口説いてこいって」


簡単に言わないで下さい父さん。どさくさで母さんの前で命知らずなこと言っているし。母さん、いい加減この父さんの手綱を握って…。


「あら、私は別にお父さんの意見に反対はしないわよ」

「え?ちょっと母さん…?」

「だってそうでしょう、彼女にとっては悪い話じゃないのよ、それに私も孫の顔が見たくなってきたのよねぇ」


『王国最凶の策士』と呼ばれる母が父親の側に付いたことを悟った瞬間、僕の背中で冷や汗が噴き出した。どうしよう、この二人。


「フフフ…。そうと決まったらあの子に、イグウィルを墜とす魅了幻惑を直伝して…♪」

「ヤメテ!」

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