第二十二話 竜の王子の金持ち談義
「とりあえず現状報告。みんな字は読めるのね…?」
現在地:どこかの亜世界
状況:小世界の中に彼女の悪夢を感じ取って実体化している、
目的:スティルへの嫌がらせ
敷地:適当な小世界
設計図:スティルの心
製作エネルギー:魔王や魔神レベルの悪魔から拝借
実行犯:レイレイ君
脱出方法:あるけれど方法は現在のところ不明
追伸:レイヴンに状態異常あり「変態化」(効果1年継続)
もう一つ追伸:食べてすぐごろ寝はするな!太るぞ! 以上
とりあえずこんなところか。口頭で説明しても、途中で眠りこけて終わるだろ
う。そう思った僕は、すぐさま分かるメモをみんなに手渡した。当然大事なと
ころ以外は全て端折って書き殴っている。
メモを読んだルヒエルとマナ、ファーザスは「なるほどなぁ」と言う表情をし
ていたが、イシマちゃんは無言だった。表情がぶー垂れているようにを見える
から、最後の一文がお気に召さなかったらしい。
そして、メモを見て唯一感情を露わにしていたのがナナだ。
「ちょっと、レイヴンが変態なのは昔からだけれど、私たちが閉じ込められて
るのってやっぱりレイヴンの仕業じゃない、冗談じゃないわよ!」
感情は本物だろうけど、怒りながら僕の財布を手元に持っていかないでくれ、
それ中身銅貨しか入ってないから。
「もう、イグウィルに先生!あんた達もあんた達よ。ここに巻き込んだ責任を
とって、迷惑料を払いなさいよ、即金で!」
それを言ったらさっきのただ食いのことはいいのかナナ?マナが「ナナ、いろ
んな意味でアナタの王子様に突っかかるのはちょっと…」って言っているけれ
ど、ナナにその言葉が届かない。傍らでファーザスが『出たな亡霊金喰いババ
ァ』とにやにやと笑っているが、言うのは脳内だけでやって欲しい。ナナの怒
りの一撃を喰らったら、君が怨霊と化してこの家に取り憑くだろう。
「仕方ないなぁ。それならこんなので勘弁して貰える?」
近くにあった箱に軽く魔術を唱えると、ピンッ…っという音と共にロックが外
れる音が響く。空いた箱からこぶし大の青い宝石が一つ浮かび上がり、それを
ナナへと手渡す。
受け取った彼女は怪訝な顔をしてけれど、同時に手渡した証書を一目見るな
り、顔が引きつった。
「あ、あんたこれって?」
「ん、この国の中央大通りの不動産証券、ここじゃ高額貨幣としても使える代
物だよ。これなら文句ない?」
「あ、あんたね…、文句はないけどそんな大事なのを私に簡単にポンっとくれ
てやるもんじゃないでしょ?コレ一つで1000万位はするんじゃない?」
「いや3億ユエ。宝石も貴重品だけれど、これに魔術で聖都の不動産証券まで
くっついているから…あ、ごめん4億ユエはいくかも」
4億と聞いた瞬間、ナナは宝石をテーブルに放置し飛び下がった。あ、驚いた
まま壁にぴったり張り付いている。
「ちょっと…、本当にこれはあり得ないって、イグっち。アヴァロンでレジェンドレアのカ
ードを全セット売るか、もしくはこの世界でも国に無断で税収の私的徴収を…?」
「やるわけないだろう!というか僕の国の財産だって全うに稼いだお金だ
ぞ!」
「それじゃあそんな大金どこから湧いてきたのですか?いくら王子でもここの
世界のお金持ってないでしょ?」
「うん、確かに無一文だから苦労したよ、商売をはじめたらどうにかお金を儲
けることが出来たけれど…」
「いやいやいや!?商売ってそんな簡単に言われたら私たちの立つ瀬がありませんよ!
大体、どうやって稼いだのですか?そもそも元手は何もなかったはずですよ
ね?」
「ん?元手だったらここに入っていたさ」
頭をこつこつと指で叩く。
「そんなのでお金が儲かるものですか?」
「できるさ!以前王室プロジェクトで開発したモノを、この亜世界の街に売り込んだらどれもこれもが成功したよ。例えば乾燥材をリン酸に浸けて不燃木材処理法や、木材を魔素でコーティングして軽金属化技術がそれにあたるかな。この半年でこの街のシェアを独占できちゃった」
僕の話に、みんなあんぐりと口をあけて固まっている
「他にもあるよ。つぼみになれば軽い魔力を込めればあっという間に花が咲く
即席フラワーの種に、ハーブシャンプーのパウダーも開発したよ、この辺も
問屋から大口発注があって、都市内の各商会で流通しているよ」
「あらあらまぁ。これは私が愛用しているものですけど、イグウィル様が作ら
れていたのですね?」
「凄いというか何というか…。しかし、いくら才能があったって、後ろ盾とな
る保証人がいなければ商談することすら出来ないはず。王子の身分でも明かし
たのか?」
「それには及びませんよ。私が保証人になりましたから。冒険者のSランクは
偉大ですね」
「え、Sランクってマジかよっ!?それって下手な貴族より立場が上じゃねえ
か!?」
「マジですよ。そこまで凄いとは思いませんでしたけれどねぇ」
そうなのだ、冒険者ギルドで高ランクになると、ただ単に強さを表すだけでなく社会的にも一種のステータスを持ち、商談の保証人としても十分成り立つのだ。冒険者ギルドの権威って予想以上に凄かったみたいだな。
聞いていたファーザスが口をぱくぱくさせているし。
「無茶苦茶やってるいな…本当に。ここまで遠慮なしに商売しまくっているけれど大丈
夫なのか?」
「全く問題なし、もともと仮初めの世界なのだから、規制はもちろん他との競
合、それから影響を及ぼす産業への配慮も不要だから。だから優秀なモノさえ
あればいくらでも売れるねここ。」
技術が偏った閉鎖的な国家なら、開国して他世界の高額なの技術を、独占して
売りつけるようなモノだ。ここなら他商会への配慮や独占禁止の必要もないので、いくら一人勝ちしても問題ない。もちろん、こんなこと現世じゃ絶対にやるつもりはない。ここだけのボーナスステージだ。
「どうしよう、ここすっごい天国じゃない。このままイグウィルにパトロンに
なって貰えれば…げへへへへへへ」
宝石をほおずりしたナナから女の子らしからぬ声を聞こえてくる。凄いと行っ
ているもう4億に順応したナナも、凄いというか凄まじい。
「言っておくけれどナナ、あくまでここは仮の世界だからね。残念だけどこの
世界を出たら、これらのお金も全部消えるぞ、所詮はこの仮想空間のお金なの
だからね」
「え?」
僕の言葉に、頬ずりをしたまま固まるナナ。
「嘘でしょ?これどう見てもちゃんとした銀行券じゃない!まさかその宝石も
「もちろん赤い水晶製、僕が作ったのじゃないのだから」
僕の言葉にナナの表情が一変した。この表情に題名をつけるなら『悲しみよこ
んにちわ』…あたりか。
「だめ、私にはできない!一生使い切れないこの金を捨てるくらいなら、私こ
の世界に永住する!』
「おいおい、無茶苦茶言うな!」
「嫌なのは嫌!お願い!イグウィルが作り直して!もちろん嫁じゃないけど専
属娼婦にはなってあげるから…」
「できるかあっ!」
この後、必死で食い下がるナナを説得するのにかなりの労力を費やすことにな
った。『どうせお金が無くなってしまうなら、滅んじゃえこの世界』ってぶっ
そうなこと言っていたけれど、どのみち街自体も消えて無くなるのだからね、
ナナ。
「何処で何やっても金持ちになれるんだな…このリア充…いやリア竜王子」
不毛な説得をする傍ら、ファーザスがうめくようにつぶやいた言葉が妙に印象
にのこった。
このイグウィル、某警官長寿漫画に出てくる大金持ち警官に似ていますね。
境遇は勿論、友人との腐れ縁という意味でも(笑)




