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第二十一話 竜の王子と友人襲来

 目の前には食欲魔神と化しているイシマちゃん。混乱しかけている僕の背後から、くっくっく…と笑いをこらえる先生の声が聞こえてくる。


「く、くくく…いやイグウィル君のあの裏返った声は初めて聞きましたよ。陛

下には内緒にしておきましょう。いや、むしろこれを報告したら面白いかも」

「面白くありません!先生、この様子だと本当は正体が分かっていたから遊ん

でいたでしょ?」

「あはは、…ばれていましたか?」

「いくら先生でも落ち着きすぎです!驚いた時ならともかく、冷静になったら

おかしいと思いましたよ」

「ふう、うまうま…。今誰か私のこと呼んだ?」


僕がそうため息をついたとき、ポトフをあらかた食べ終えたイシマちゃんが顔

を出してきた。とりあえずご飯を食べられるってことは本物確定だろう。よく

見ると鍋の底に残った芋を全て口に含んだのだろう。頬が左右にふくらんでい

る。これで口をムグムグさせているので正直悪魔より不気味だ。


「ふう…、生き返った助かった。これって素朴で美味しいけれど、素材の多様

さにはちょいと欠けるからぎりぎり及第点ってところかな。あ、誰かと思った

らいつもご飯をくれる王子じゃん、これおかわりある?」


僕を見て一言目がそれかい。本当に食べ物に目がないなこの子。いや、食べ物

以外には目はないと言った方がこの場合正しいか。


「明日の朝食用の取り置きでよければあげるけれど…。それより君はどうやっ

てこの世界に来たの?」


「わたし知らないよ?それを知りたいならみんなに聞いたほうがいいんじゃな

い、もうそろそろやってくる頃だろうし?」

「え、そのみんなってどういう…!?」



「こっちだあああああああ!!!」

僕が言い終わらないうちに、表からばたばたという足音が響く。続いてガチャ

ガチャという音がバルコニーから聞こえ、猫少女ナナが窓から転がり込んでき

た。言葉を挟む間もなくファーザスが続いて床にヘッドダイビング。更にはマ

ナとルヒエルまでもがやってきているし…。


なんてこった、ここで全員集合かい。


「みんな、窓は入り口じゃないのに何をやっているの!?鍵を開けるからちゃ

んと正面のドアをノックして入るように…!ちょっと、みんな聞いてい

る!?」

「聞いた聞いた!とりあえず聞いたからこれでいいだろ!!それよりメシだメ

シ!早く何か喰わせてくれ!早くしないと飢え死にするぞ、化けてでるぞ!」

「ちょっと!まずは私みたいな可愛い子からお願いするからあんたは遠慮しな

さい!というわけでイグウィルご飯!飢え死にする前に大至急!」


ずいと顔を寄せてくるナナ。その背後ではその背後ではイシマちゃんを中心

に、鍋の前で喜びの表情でスキップダンスをしているマナとルヒエル…。

 もう、ここのホラー現場が泥酔者だらけの宴会場に変わっていた。何なんだ

このカオスは・・。




「これはみんなのお腹が落ち着くまでは話にならないでしょうね」

先生の言葉に僕は別の鍋に移していたポトフを差し出すと、5人は皿ごと飲み

込まんばかりの勢いで食べ始めた。

 余程お腹が空いていたのか、普段は大人しいマナやルヒエルまで食欲旺盛な

姿を見せている。イシマちゃんに至ってはほぼ鍋の中に住み着いているし。

全く、ここがうちの宮殿じゃなくてよかった。うちの専属テーブルマナー師が

見たら卒倒するぞこの光景。


「いやあ…本当にヤバかったけれど助かった!地獄に王子とは言ったもんだ」

「本当!タダで食べ放題万歳!」

「それは良かった…じゃない!タダで何でも出来ると思われるのも心外だぞ、

全くもう」

「まっ!タダじゃだめならお金と食べ物のためならもう何だってするわよ!何

なら一生アンタの専属娼婦になる!?そんじょそこらの女の子がしないことだ

ってヤリまくってあげるんだから!」

「頼むから本当落ち着け!というかもうそれ嫁とは言わないのか?」

「当たり前よ!自由は残るし抱かれる度にお金をバッチリ払って貰うんだか

ら!!私に指図してタダで私に触れてもいい連中なんてアウトオブ眼中!」


早口でまくし立てながらがつがつ食べるナナ。もうこれ娼婦というか肉食獣か

ナニカだ。

 既にポトフは食べ尽くされ、引っ張り出してきた作り置きのパンも次々に消

えていく まさか追加で作った10人分のスープまで空になるとは思わなかっ

た。備蓄の大切さを身をもって知ることになる程だよ…全く。

 そんなどんちゃん騒ぎの食事は30分ほど続いただろうか。ようやく、ナナ

一行は食べるのをやめて、満足そうに椅子にもたれかかっていた。先生はニコ

ニコしているだけで何も言わない.この場は僕に任せるつもりなのか。


「ふう、満腹までいかないけれど餓えはとりあえずしのげたな 礼を言うぞ」

「何かあべこべになってないかさっきから?普通王子を飯炊きと給仕に使う

か?」

「良いじゃないですか。国民をみんな食べさせるのが王族の義務ですから」

「もっとマクロな意味合いで使う言葉じゃないかそれ?まぁ、実際にご馳走す

るのが嫌って訳じゃないけれどなんかひっかかるような」

「王子様なら細かいことは気にしないの!あ、これ美味しい…!この焼き芋っ

てまだどこかに残ってない?」

「…もう好きにしてくれ」

本当に遠慮なく食べるな。頭で計算したら、備蓄が3日で食べ尽くされる消費

量だ。またスティルに光の魔術をお願いしないと生産量が厳しいかも知れな

い。


「とりあえず王子はありがとさん。もうこれだけ喰ったことだしもう大丈夫

だ。さてと…それじゃあまずは…」


ふう、ようやくやっとまともに話を聞くことが…あれ?


「あれ?みんな、テーブルに突っ伏してどうしたのさ!?」

「「「眠くなった!寝る!」」」


……………がごんっ!

 先生の笑い声が聞こえる中、僕もテーブルに鈍い音を立てて頭から突っ伏し

た。もうやだホント、頭が痛い。




「う~ん、ここに来るまでの経緯を聞かせて欲しいって言われてもなあ…?」


 みんなと会話が再開できたのはそれから数分後、本当に寝ようとしたところ

で、先生が「経緯を説明してくれたらおやつはパンケーキですよ」という言葉

で、みんなはあっさりと起き上がった。流石は先生、みんなのことを良く分か

っている、でも出来ればもっと早く助けて欲しかったな。

 とはいえ、なぜここに居るのかは、みんなも良くは分からないらしい。いつもの通り僕の部屋で遊びまくろうとやってきたら、目の前がいきなり真っ白に。気がついたらこの世界にみんなそろって転移していたということだ。それにしても、この様子だとまた勝手に上がり込んできたみたいだな、どうやってうちの警備をくぐり抜けているのだか。

 とにかく、みんなの話はもっぱら転移後のサバイバルに集中していた。転移

先のスタート地点によほど強烈なインパクトを植え付けられたらしい。


「そりゃそうだって!俺たちが飛ばされたのってあのてっぺんだぞ。しかも真

夜中、信じられるか?真上に満月がなかったら、暗い中さまよって、屋上から

落ちていたかもしれないっての」


指さした方角は中心部にある摩天楼、一つ一つがライトタ

ワーに匹敵する高さを誇っている。そのほぼてっぺんに飛ばされていたのか。


「それはまた…、なんであんなとんでもないところに転移したのさ?」

「知らないわよ!それからがまた大変だったわよ。降りようと思っても、肝心

の降り口が何処にもなかったのよ?管理用の手すり一つ無いなんてどういうこ

とよ、もう!」

「ああ、それは分かる…」


僕らの世界とは違って、この世界の施設って空を飛べる天使前提の設計だから

無理もない。この友人メンバーで飛べるのはルフィエルとイシマちゃんだけだ

から、階段のない立体交差だらけの街を通過するだけでも苦労するはずだ。


「結局僕が時間を掛けて、一人一人を地面まで降ろす羽目になりましたよ。や

っとの思いで全員を降ろしたと思ったら。その目の前にはレイヴンが…」

「最悪、いや災厄としか言えないなそれ。あ、その時のレイヴンって樽に変な

ことやっていただろう?」

「変どころかシュールの域に達してた。樽を縛り吊して鞭でベチベチ叩いてた

んだからよ。ドン引きしてみんなして逃げた」

「やれやれ、彼の行動は理解する気になれませんね」


ファーザスの話に先生が頭を振る。先生が彼をそうした張本人と言えるが、や

っていることは先生の予想すら上回っていたか。


「本当にその…大変だったな」

「大変?そんな言葉だけで片付けたら怒るわよ、その後の方がもう散々だった

から!街はあちこちで行き止まりになっていたり、お腹が減って食い物を買お

うと思っても、うちの世界のお金は使えないし両替も出来なかったんだから。

ようやくお金をゲットして食べるものを購入したら、全部赤い石ころに変わっ

ちゃうし。一体何なのよあれ!」

「それで一日、―いや一日半かじゅう食べられるものを探し回って、ようやく

見つけたのが僕らの家だったのか。匂いで分かったのかな?」

「そゆこと。ふう、話したから何か報酬くれくれ」

「わかっているよ、ほら」


差し出した更にパンケーキを積み上げると、皿ごと食べる勢いで食べ始めた。

ぱくついている友人一行を見届けると、僕は先生へ向き直った。


「先生、これって巻き込まれたのでしょうね…ナナ達は」

「ええ、おそらくスティルちゃんが居たベッドから、この世界へ飛ぶ一方通行

のゲートができあがっているようですね。まさか救援とは別に迷い込んでくる

とは思いませんでしたが」

「ちょっと、今巻き込まれたとか救援って聞こえたけれどどういうこと?」

話していた僕らの席に、真っ先にパンケーキを食べ終わったナナが割り込んで

くる。

その隣では、イシマちゃんがパンケーキが残るかけらと蜜が残る皿をぺろぺろ

となめ回していた。ああそれも、行儀悪いからやめろと宮殿で何度も言ったの

にな…。チラリと先生を見ると、コクリと頷かれた。『言いましょう』ってこ

とか。

 とにかく動揺しないように、言葉を選んで説明しないと…。さて…


「あっ、イグウィル一つだけ!」

「ん、どうした?」

「ごめん、また眠くなったから寝る、話しはやっぱいいや」


………お・ま・え・ら…。

レイレイ君かイグウィル友人ご一行が出てくると、シリアス場面もどんどんギャグになってくる…(笑)

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