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第十三話 竜の王子と不思議の都

幾つかの世界を渡った後、私は荒野の中に作られたとある町に立ち寄った。

 そこはガラスと水晶で出来た建物が建ち並び、精巧な機械技術で溢れてい

た。町の住民は誰もが「美しい町だろう、これこそが理想郷だ」と豪語して、

ずっと笑顔を見せていた。

「ここは生き物には天国でしょう。奴隷の代わりにありとあらゆることを機械

が肩代わりしてくれます。酷使する機械に心があったら地獄でしょうが、命を

持たぬモノなんて私たちには関係ありません」

ここで永く暮らしているという彼は得意そうに胸を張ると、壊れた窓ふき機を

捨てて新しいモノに取り替えていった。 

 なんならお前もここに住まわせてやろう。そんな彼の誘いを丁重に断ると、

私はこの町で何も買わずに出口となるゲートをくぐり抜ける。

 出口の少し先には、斜めに傾いた看板がぽつんと立てられていた。


「仮初めの町~ここの住民は全て自動人形です」


看板に書かれていた文字を見て、私は小さなため息をつく。

顔の部分が笑顔しか作られていない『彼ら』の姿を思い浮かべると、私は振り

向かずに破片とヒビだらけになった町を後にした。


(トーラス100年の旅 第4章)





渦に身体の全てが吸い込まれたと思ったのはほんの一瞬だけ。次の瞬間、僕は

薄暗い路地のような場所に座り込んでいた。

 腕の中には、スティルが僕にしがみついたまま眠っていた。さっきまで絡み

ついていた白い鎖も消えてしまっている。彼女の首を撫で、首輪の痕跡が毛皮

に残っていないことを確かめるとふう…っと大きなため息をついた。

 正直言って怖かった。気持ちはもう落ち着いたつもりなのに、彼女を抱く僕

の手が震えが止まらない。彼女の安心しきった寝顔がせめてもの救いだろう

か。

 あれ?抱きかかえてる彼女から熱と感触が伝わってくる。さっきまでは触覚

がぼんやりと感じられるだけだったのに…。そういえば、先ほどまでなかった

土埃らしい匂いも感じられる。夢の中にしてはどこかおかしい。

 とりあえずここを出よう。僕は立ち上がって片手でスティルを抱き直すと、

空いた手で埃を払落し―そういえばさっきは埃もなかったな―光が差し込む方

向へと路地を歩き出した。程なくして、進む先に広い空間が見えてくる。どう

やらこの界隈の大通りらしきものがあるのだろう。あそこに出れば何かがわか

るな、そう思って薄暗い路地を抜けた光へと足を出したところで…、

「うわっ!?足場の踏み場がないっ!」

そう、路地から先は本当に足の踏み場がなく、ずっと下の大通りらしき所まで

空間が続いていた。いや、正確には大通りより高いところを通っている路地

が、ここでスッパリ途切れているのだ。

 酷い立体交差に怒る余裕は無かった。妙な浮遊感と近づく白い石畳を見た瞬

間、僕はスティルを抱き直して水平に翼を広げると勢いを付けて羽ばたき急上

昇をするように飛び上がった。翼の浮力を感じ、左右の建物より高いところへ

飛び上がったところてホッと一息を付く。


「危なかった…一体なんなんだこの街は…?」


いくら何でもあの立体交差はないだろう、翼の無い種族だったらほぼ即死だ

ぞ。もう不親切を通り越して嫌がらせレベルだ。理不尽な道の作りに文句の一

つを言おうと下を向いたその瞬間、僕の目を大きく見開いた。


挿絵(By みてみん)


 そこは、まさに創作に出てくる。天使の都と言える世界だった。眼下には、

おもちゃ箱の中をそのまま大きくしたような様々な建物が広がり、地平線から

広がる朝日に照らされて不思議な輝きを見せている。見た目は石を組み合わせ

たような建物だったけれど、デザイン、材質、高さ全てがそれぞれ異なってい

た。それなのに、この異なる建物群がパズルのように組み合わさって全てが違

和感なく揃う不思議なバランスを保っている。よく見ると、すべての建物にバ

ルコニーがつけられ、住民らしい種族が、そこから空へと発着する姿が見え

た。ここは有翼種族が多いのだろう。

 前方に目を凝らすと、建物群に混ざって高くそびえる塔もいくつか立ち並ん

でいる。表面がきらきらと反射するところを見ると、どうやら未知の材質で作

られているみたいだ。

 

「凄い…、こんな世界があったのか…?」


空中をホバリングして、不思議な都市を眺めていると、腕の中でもぞもぞと動

く感触が伝わってきた。視線をスティルに戻すと、彼女の背中から白い羽が左

右にと広がってゆく。それと同時に、閉じられていた彼女の目がゆっくりと開

いていった。


「大丈夫かスティル、身体はなんともない?」


声をかけると不思議そうに周囲を見回していたが、僕の声にがばっと身体を起

こすと、そのまま僕の腕から抜け出した。殆ど羽ばたきをせず僕のすぐ前でふ

わふわと浮いて頭を下げてくる。


「すいません、よく分からないけれど眠っていた私を介抱して頂いたのです

ね?ごめんなさい!ご迷惑だったですよね?いつの間にうたた寝していたのか

しら私って…」

「え!?」


スティルがしゃべっている!?随分かわいらしい声だけれど、これまでの記憶

のスティルと流暢に話す彼女とのギャップに僕は困惑したままだった。


「あ、あの初めまして!私はここに住んでいるスティルといいます。助けてく

れたのですね、本当にありがとう!」


初めて見る笑顔のまま、スティルはぺこり僕に頭を下げた。


「いえ、その初めまして…?」

「あの…もしかして前にお会いしたことがありましたか?ごめんなさいおこら

ないで…」

「あ…、ああいや怒っていないから安心して。それから、僕の名はイグウィル

…だよ。イグウィル=ユグドラシルさ」

「イグウィルさんですね、よろしくお願いします!良い名前ですね♪まるでど

こかの国の王子様みたい!」


いや王子様です…って冗談を言えればいいけれど、推察している頭にそこまで

の余裕はなかった。

 スティルに僕が絡んだ記憶がないことから察するに、どうやらここは僕と出

会う前、いや、不幸に見舞われる前までに巻き戻ったスティルの故郷らしい。

ただ、名前は先生が名付けたスティルのまま、おまけにスティルの服装は僕が

最近プレゼントした天使服だから、本当の過去の世界に飛ばされた訳ではなさ

そうだ。

 まずは情報が欲しい、僕はスティルにお願いすると、最寄りの主要道路まで

案内してもらい、歩道へと着陸した。この辺りは比較的低階層の建物が多かっ

たが、建物は明らかに僕らの文化圏とは異なっている。ヒトの通りが比較的少

ないのはまだ時間が早いから、朝食でも食べているのだろう。


「スティル、ここはどこなの?さっきの口ぶりからこの辺りに詳しいみたいだけれど」

「はい、ここは 聖都ヴァークスのミヤ通りです、マーケットが盛んで、欲し

いものがあったら、この通りの左右をずっと向こうに進んでいけば必ず見つか

るって言われているくらいですよ!」

「そう…。出来れば国と世界の名前も教えてくれるかな?」

「はい、ここはセレス世界にあるヴァークス大天使国です。聖都ヴァークスと

名前が一緒ですが、この都市そのものが国として機能していますから」


セレス?ヴァークス?どちらも聞いたことがない名前だ。


「それにしても凄いです!あなたみたいな綺麗な毛を持った竜のヒトは初めて

見ます!」

「そう?それじゃあ僕のようなヒトは見たことがないのかな?」

「ありません。だってここは天使の国ですもの。周りを見ればわかりますよ」


スティルの言葉に、僕は改めて周りを見回した。なるほど、周囲の人々をよく

改めて見渡すと、みんな白い翼持ちだ。マントで翼を隠しているヒトも居たか

ら気がつかなかったよ。飛ばずに歩いている人も多かったし。

 向こうでは天使の子が店主と一緒に雑貨店の準備をしているし、その向かい

ではカップルらしい男女が並んで歩いている。そして通りの先には…天使のカ

ッコウをした……ん?


「うわっ!?何で居るんだよあいつが!?」


向こうに居たモノを見た瞬間、僕はスティルを引き寄せて前に出た。スティル

の姿が見えないように背中へとくっつけて翼を大きく広げてみせる。


「きゃっ!いきなりどうしたの!?」

「ごめん!でもやばい奴を見つけた。ほら、あの通りの向こう側!?」

「まさかそんな…、キャッ!?」


僕らの所から距離にして20メートルほど、通りの向こう側に見えたのは、見

まごう事なき悪魔、レイヴンだった。前見たときは商人の変装だったけれど、

今見えるのはヒラヒラした天使服を無理矢理着込んでおかしな服装になってい

た。おまけに背中には白い羽根が歩行にあわせてヒラヒラと揺れている。おい

おい、まさかあれ天使に変装しているつもりじゃないだろうな?わざわざそん

なものまで用意していたのかレイレイ君。もっとも肝心の翼は一目見ておもち

ゃと分かる適当っぷりなので、余計酷さが際立っている始末だ。


どうしようこれ、恐ろしい場面のはずなのに、笑いがこみ上げてきた。


残虐非道なはずのレイブンが、バイキ○マンや戦隊ものの悪の幹部みたいな役回りに…(笑)

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