第八話∶アポリア
何をしたいのか、その真実も知らず
求める先に続く道も見つけられず
その道中を全うする力もない。
不完全でしかないのに足掻くこと。
それもあなた達のやりたいことなのでしょう?
ねぇ、桃太郎。
お前でさえも。
桃太郎は一人で村に帰りました。
鬼ヶ島を討ち滅ぼしたことは桃太郎が帰るより早く伝わっていて、村の人達は桃太郎を英雄と讃えて迎えました。
でも桃太郎が村の人達の顔を見ることはなく、空を見てばかりいました。
お爺さんとお婆さんに桃太郎は言いました。
「犬猿雉は私を守るために死にました。私が気を付けていたら死なせずに済んだことだったのに。私は彼らを連れて行くべきじゃなかった。そして、彼らが命を使ってまで守った私にどんな価値があるというのでしょう。」
お爺さんとお婆さんは
「お前は私達のたった一人の子供なんだよ。犬猿雉は残念だけど、お前が生きて帰ってきてくれて本当に良かった。怖かった。」
と涙を流しながら桃太郎を抱き寄せました。
桃太郎はお爺さんとお婆さんを抱き返しながら、空を見ていました。
肩を寄せ合って抱き合う三人に、村人が声をかけました。
「そうだ、桃太郎。お客さまがいらしているんだ。」
そう紹介されて、奥から身なりの良い男が現れました。
「私は帝の使いです。鬼退治の御武勇、感嘆いたしました。帝もそれをお聞きになり、大層喜ばれております。そこで貴殿を仕官させるように、私は申しつかって参りました。」
「なんて素晴らしいことだ!」
お爺さんとお婆さん、村の人達は歓声をあげました。
しかし桃太郎だけは悲しそうな顔で、懐に手を当て静かに口を開きました。
「私は鬼を討ち滅ぼす為に生をもらいました。そして、その途中で三人の家族を失いました。彼らにとっての鬼退治は自身の生い立ちに決着を付けることだった様に思います。ですが、彼らは私を守る為にその命を差し出してしまいました。帝が私を見込んでくださったことはとても光栄に思っています。ですが私は何も目指せることがない、ただ在るだけの者なのです。」
帝の使いは少し面食らった後
「やりたいことがないのであれば、帝の御為に働くと良い。とても誉れ高いことであるし、それに見合った身分と姫、金銀財宝を帝はご用意くださっている。」
と答えました。
「誠に申し訳ないのですが、私はまだあまりに世のことを知らないのです。帝が私に差し出してくださるものはどんな価値を持つのでしょう。何故なら鬼退治は私にとって困難ではありませんでした。しかし犬猿雉には違いました。また、彼らは鬼ヶ島で何かを得たのかも知れません。かと言って望んで死を差し出してはいませんでした。希望の途中で不意に命を落としてしまったのです。それで私は彼らがしたことの是非も判断できないでいます。」
犬猿雉と夕食を囲んだ記憶が過ぎり、桃太郎は懐の遺髪を握りしめました。
「そして私の是非も。私は人の為に自分を差し出せたのでしょうか。この村の人達がしてくれたように。それとも差し出す為に奪ったのでしょうか。ですから教えてください。」
それは、たとえ答えを得られたとて満たすものの無い問い。
「あなた方は私に何を差し出して、何をなさりたいのでしょうか。」




