第一話∶受肉
あなたのやりたいことは何ですか?
その為に何を差し出せますか?
昔々、あるところにお爺さんとお婆さんがいました。
お爺さんは山に柴刈りに、お婆さんは川に洗濯に出かけました。
慎ましく生きる二人は、先日息子夫婦が孫を授かったことを大層喜んでいました。
そんなある日、村に鬼がやってきました。
鬼は生きたまま孫を食べ、息子とお嫁さんを殺して木に吊るしてしまいました。
お爺さんとお婆さんは物陰で声を殺して泣いていました。
そのうち怯える村人を眺めながら腹を満たした鬼達は、満足して帰っていきました。
お爺さんとおばあさんは残った亡骸と一緒に全ての形見を燃やすことにしました。
ところが、二人は気が付いたら家の中のもの全てを燃やしてしまいました。
お婆さんは川で桃を拾ったことを思い出し、それも火に入れました。
二人は何が何だかわからなくなっていました。
「どうか息子達が受けた以上の苦しみを鬼に与えてください。」
その祈りだけが唯一確かなものでした。
気付くと、二人の後ろに見たことのない人が立っていました。
茨の飾りを着けたその人はお爺さんとお婆さんに問いました。
「あなたのやりたいことはなんですか?」
「その為に何を差し出せますか?」
とても静かで美しい声でした。
「差し出せないものなどない、私たちの大切なものは奪われてしまった。」
二人はそう答えました。
その人は悲しそうな顔をして
「では、これを食べてみてください。」
と、見たことのない果物を差し出しました。
お婆さん達はそれを受け取りましたが、何も食べる気が起きず、そのまま幾日かが過ぎました。
息子達には未来があったのに、老人だけが残ってしまった。
二人は泣いていると、何故かあの人からもらった果物に呼ばれた気がして、食べてみることにしました。
その果物は桃のような味がしました。
実を食べた二人は見る見る若返りました。
そして、さらに不思議なことに二人は理解していたのです。
若返りは一時的なこと。
その間に自分達が預かった未来を渡さなくてはならない。
二人は子供を授かりました。
そして桃の味に似た不思議な果物のおかげで生まれた子だから、その子を桃太郎と名付けました。
その後、お爺さん達は数日で老人に戻ってしまいましたが、それと同じ早さで桃太郎は成長しました。
桃太郎は言葉を覚え、目に見えるものと照らし合わせ、それらを理解していきました。
村の人達はそんな桃太郎をお爺さんとお婆さんが拾ってきた子供だと思って仲良くしてくれました。
わからないことを村の色んな人達に聞いたことで語彙も増え、桃太郎の思考精度は上がり続けました。
体力も村一番で、誰より速く走り、重いものを持ち上げ、遠くの的に石を投げつけることができました。
そして桃太郎の長い桃色の髪が流れる様は、まるで花が舞う様でした。
賢く、強く、美しい桃太郎。
どこか殺されてしまった息子の面影のある桃太郎。
時折、お爺さんとお婆さんは涙を流すので
「どうされたのですか?」
と桃太郎は聞きましたが、二人はいつも微笑むだけでした。
そしてある日、鬼がまた村にやってきました。




