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ただいま


 詩織はいつもと同じベッドで、いつもと同じように目を覚ました。

 スマホを確認すると、一月二日と表示されていた。


 あの後みんなで笑い合い、また一緒に会おうねと約束して、応接室の隣の部屋にある氷のゲートをくぐったのだ。

 そうしたら、自分の部屋にいた。しかも寝起きだった。


 右手がなんだか冷たくて、何かをつかんでいると気がついた。てのひらを開けると、アスタリスクのネックレスだった。


「おお、これのことか!」


 低血圧の詩織にしては珍しく、寝起きなのに大きな声を出せた。まあ、寝起きという自覚はないのだけれど。


 ゲートをくぐる前に、キオネアが子ども一人一人にネックレスを渡してくれたのだ。中央にアスタリスクの宝石がくっついている因縁のあれだ。


「困ったことがあったら、そのネックレスを割ってくれ。僕がどれだけ忙しくても、絶対に助けに行くから」


 キオネアはそう言ってくれた。


「定期的な招待も忘れないでよ」


 それに対して、サナは念を押すように答えていた。

 サナはすごかった。一番年下だったのに、一番頭が良かった。倒れていた雪の妖精を隠したこと。その正体を見破ったこと。一人で怪物を殺して罪を背負おうとしたこと。どれをとっても、小学三年生とは思えない思考のキレだった。


 ――サナちゃんがいてくれたから、私たちはみんな生き延びることができた。それに比べて、自分はあまりみんなの役に立てなかったなぁ。


 と、詩織は思っていた。


 別れの挨拶はあっさりとすませた。単純に疲れていたのだ。

 しんみりしたくない、という気持ちもあったかもしれない。


 氷のゲートをくぐったら、自分の部屋にいた。そして手の中にはネックレスがちゃんとあった。あの経験は夢じゃなかったと、このネックレスが証明してくれている。


 いったん自室を出て、居間に行く。

 居間のすりガラスを開けると、お父さんはソファに座ってテレビを見ていたし、お母さんはキッチンに立って朝ごはんを作っていた。


「おはよう、詩織。今朝は早いね」とお父さん。

「おはよ~、詩織。よく眠れた?」とお母さん。


 二人は、いつもと同じように挨拶をしてきた。二人とも、詩織が昨日の夜に大冒険をしてきたなんて夢にも思っていない様子だ。

 仕組みはよくわからないけど、詩織がいなくなっていた、という事実はないみたい。


 二人の笑顔を見ていたら、急に胸が苦しくなった。走ってお母さんに近づき、思いっきり抱き着いた。


 ――ただいま。


 声に出さずに、胸の中で告げた。


「どうしたの? 怖い夢でも見たの? もうすぐ中学生になるのにね」


 お母さんは詩織の背中に両手を回して、優しく撫でてくれた。

 数時間しか離れていなかったのに、この匂いを懐かしいと思った。


 ああ、いい匂いだなぁ。あったかいなぁ。


 お母さんの両手に包まれたことで、やっと緊張が解けた。

 詩織は長い間、そうしていた。しばらくしてから顔を上げると、ソファに座っているお父さんと目が合った。お父さんは不思議そうな目で詩織を見て、


「あれ? 顔つきが変わった?」

「顔つき?」

「責任感ある顔というか、ちょっと大人になったっていうか……なんだろう。もうすぐ中学生になるから?」


 さすがに鋭い。


「私に抱き着いて甘えたり、お父さんからは大人になったと言われたり、今日の詩織は不思議ね」


 お母さんはそう言ってくれた。

 詩織は二人の顔を見て、安堵の気持ちから「えへへ」と笑った。


「あ、そうだ! 調べなきゃいけないことがある」

「え? 朝ごはんは?」

「先に食べて!」


 詩織は母から離れて、自室に戻った。

 ラインを開き、教えてもらったIDを検索する。すると野崎優、野崎サナ、春原隼人のアカウントがちゃんと表示された。早速三人を友達登録すると、すぐに向こうからも追加された。

 四人のグループラインを作り、そこでやりとりを始めた。


 昨日のあれは夢じゃない? みんなは本物? 無事に帰ってこられてよかったね。


 そういった言葉を交わす。

 みんな、意外と近くに住んでいた。同じ町ではないものの、同じ路線沿いの町だったり、同じ県だったりした。これなら実際に会うのも難しくない。


 それから四人は頻繁に連絡を取り合う仲になり、誰が決めたわけじゃないけれど、一年に一回以上は必ず会って遊ぶ、という約束事ができた。

 リアル脱出ゲームをしたり、花火を見に行ったりもした。


 この四人の不思議な縁は末永く続いていくことになる。


 そんな四人にキオネアからヘルプが届いたのは、また別のお話。


いったん、完結します!

お読みいただきありがとうございました!


角川つばさ文庫に出すつもりで書いていたのですが、セルフレイティングがR15な時点で、これはもう児童文庫向けじゃないなと思い、途中から開き直って全年齢向けとして書きました。


書いていて楽しかったです!

この物語が、読んでくださった皆様にとっても楽しい時間になっていたなら、これ以上嬉しいことはありません!


でもこれ、どこの公募に出せばいいんでしょうね……。

児童文庫はやっぱりカテエラかなぁ?


続編の構想はあります。

今回は名前を出さなかった魔兵研究院の天才とサナの対決を書きたいです。


それでは、改めて、お読みいただきありがとうございました!

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