オレは…
璦奈は、さっきたくさん泣いたので少し目が腫れぼったい。
璦奈は、しばらく外に出ていなかったらしく、外の空気って、こんなに清々しかったんだと、嬉しそうに空を見上げて、自然の素晴らしさを実感していた。
最近璦奈は、ろくに食事も摂っていなかったみたいで、ケーキをあっという間にたいらげて、ちょっとだけど回復したみたいだ。
おとうさんとおかあさんは、びっくりしつつも、嬉しそうに顔を見合わせて微笑んでいた。
病室に戻り、おとうさんとおかあさんは先生とお話があるから、少し二人きりで待っていてと病室をあとにした。
正直オレは…璦奈に今すぐにでも、復縁を申し込みたかった。
だけど…
今の状態でそんなこと言われても璦奈は、困惑してしまうかもしれないし…そもそも、赤ちゃんを失ったばっかりで相当な困惑だと思い、毎日連絡してもいいかな?ってことだけ、聞くことにした。
赤ちゃんの父親の存在も判明したし。
復縁や諸々は、後で璦奈が落ち着いたらはなすこととしようと考えている。
毎日連絡してもいいかな?って、オレに聞かれた璦奈は、携帯という存在を今思い出したっぽく、慌てて携帯を手にとって
「充電がない」
って、充電器を探しだした。
そんな様子を見ていて、璦奈はよっぽど…携帯の存在を忘れるくらいに、精神的に参っていたのだと確信した。
たぶん入院中、放心状態だったのだろう。
だとしたら、今日一日でよっぽど回復したんだな。
「璦奈、オレが今日外に連れ回して疲れたでしょ。少し横になろうか」
「うん、ありがとう」
璦奈は、横になるとすぐに目を閉じた。
そっと璦奈の手を握ると、とても細くて冷たかった。
璦奈は、一瞬で眠ってしまったのでこのままそっと帰ることにした。
でも、起きたときに寂しくないように、うさぎのぬいぐるみを置いてきた。
ちょうど、ケーキ屋さんにかわいいぬいぐるみがあってよかった。
ぬいぐるみの隣には、手紙もかいてきた。
また来るねって。
あまり長文はどうかと思って、あとは璦奈が元気になったときに、ゆっくり話そうと思う。
オレは正直…璦奈には、大丈夫だよと言いながらも、ついた病院が産婦人科ではなかったことに驚いた。
そして、心の中で寮梧と冴木さんにお詫びした。
一瞬でも、黒い心を持ってしまったオレは情けない。
この病院に来て、璦奈にも寮梧にも冴木さんにも詫びた。
特に、璦奈…
オレのせいで璦奈は、こんなことになってしまったんだもんな。
時間が許す限り、オレは璦奈の病院に、あいに行こうと心に決めた。
幸いお年玉を、幼い頃からほとんど使わず貯めておいたので、学校が終わったら毎日でも向かうつもりだ。
でも毎日暇なわけではなく、バイトが…
璦奈と赤ちゃんのためにお金を工面するつもりではじめたバイト…今は赤ちゃんがいない状態なので、シフトが入っている日だけ璦奈とは、電話しようと思う。
それ以外は、電車とバスを乗り継いであいにいく。
オレが璦奈の心の傷を負わせてしまったのだから。
大切な人を守ってあげられないどころか、傷つけてしまうなんて…
オレは、ほんとうにどうしようもない人間だ。
帰り道の車で、我慢できずに声をころして泣いた。
でも、やっぱり気づかれちゃうんだよね…
璦奈のご両親は、璦奈が突然変なこと言いだしたから、寮梧くんを困らせちゃったよね、ごめんなさいと謝ってくれた。
でも…
そうじゃない。
そもそも、オレは璦奈の妊娠のことは知っていたし、困ってもいない。
ただ…
ただ…赤ちゃんを…
オレが赤ちゃんを…
…
続く。




