不思議な時間
あいかわらず、璦奈からは連絡はないが、もうすぐあえるんだって、それを励みに待った。
璦奈…今までは、幼馴染でずっと幼い頃から一緒で…
でも、時には思春期なんかで少し距離置いたり、お互い忙しくてすれ違ったり…
そんななかでも、オレは心の中にずっと璦奈がいたんだ。
璦奈の病院の日、璦奈のおかあさんが迎えに来てくれた。
運転は、璦奈のおとうさん。
そもそも璦奈のおとうさんとは、よく幼い頃遊んでもらっていた。
うちの父親は走るのが苦手で、キャッチボールなんかは一緒にしてくれたが、サッカーは苦手だということで、元サッカー部だった璦奈のおとうさんが、よくオレとサッカーをしてくれていたのだ。
もちろん、幼い頃から活発だった璦奈も一緒にサッカーをしていたっけ。
そんなことを考えながら、車の中から外の景色をボーッと見送った。
「寮梧くんとは、よくサッカーしたっけなぁ。懐かしいよなぁ」
って、璦奈のおとうさんが言ってきたから、びっくりした。
同じことを考えていたんだって…。
「今、同じこと思い出していました」
って話して、そこから車の中では昔はどうだこうだって話して、あっという間に病院の前についていた。
「こんな遠くまでありがとうな。ここだよ」
と、ついた病院を見上げると…
真っ白くキレイな病院だった。
少し森の方だったので、病院の白と森のグリーンがいい感じに調和されていて、なんとも落ち着く光景だった。
ここに…
この病院に璦奈がいるんだ。
おとうさんとおかあさんに案内されて、璦奈の病室の前までやってきた。
…そして、
おかあさんがドアをあけた。
「璦奈、お見舞いにきたよ。」
「どうだ、調子は?今日は、いい天気だぞ」
おかあさんとおとうさんの声に、反応しない璦奈。
寝てる…のかな?
おとうさんとおかあさんが、目で入りなって合図してくれたので、
「失礼します」
と、病室に一歩踏み入れると…
ガバッと璦奈が起き上がった。
そして、オレをみるなり…
「寮梧‼︎りょ…りょうごぉ〜…」
って、泣き出してしまった。
気を利かせてくれて、おとうさんとおかあさんは、部屋を静かに出ていってくれた。
オレは璦奈を抱きしめた。
「璦奈、大丈夫だよ」
って、優しく。
抱きしめられたままの璦奈は、しばらく泣いた後、
「わたし…わたし…ごめんなさい」
と、必死に謝ってきた。
「謝るのはオレの方。璦奈…ごめん。璦奈は、ずっとたたかってきたんだよ。立派だったね。でも、もう大丈夫だから、大丈夫。」
「うん…」
璦奈の手には、ギュッと手編みの靴下が握りしめられていた。
たぶん…
この状況からすると、璦奈のお腹の中には、残念だけど、赤ちゃんがいないのだろう。
どういう経由でそうなったのかはまだ、わからない。
でも、そうなってしまった以上、その現実を受け入れて、生きていかなければならない。
「璦奈、お疲れさま。元気になったら、ケーキ食べに行かないか?ここにくる途中、可愛らしいケーキ屋さん見つけたんだ。うさぎの看板のケーキ屋さんだった。璦奈が昔、よく読んでたうさぎのおばさんと…なんだっけな…えっとー…」
「ミミ。」
「あ、そうそう‼︎ミミ‼︎」
「…行きたいな。でも…わたしは…わたしは…寮梧との大切な命を…」
…
「璦奈、赤ちゃん早く璦奈にあいたくて、間違えてきちゃったんだって。だから、いっかい戻ったんだ」
「どこに?」
「ミミたちのところに」
「えっ?ミミのところに?」
「うん。今ごろたぶん…口の周り真っ赤にして、ジャム舐めてると思うよ」
「ジャム…わたしも食べたい。赤ちゃんの食べてるやつ…」
「じゃあ、行く?」
「えっ?どこに…」
「さっき話したケーキのお店だよ」
「…うん」
璦奈は、少し元気を取り戻した。
なので、おとうさんとおかあさんに連絡して、病院から許可をもらい、車椅子で病院のすぐ近くのケーキ屋さんに向かった。
璦奈の車椅子をおしながら、おとうさんとおかあさんも並んで歩いた。
景色も空気も澄んでいて、とても不思議な日常の一コマだった。
時間がゆっくり流れているような、なんだかタイムトラベルしているような感じだった。
時間旅行
ゆっくり進む時間という温泉に浸かっているような、なにかに包み込まれているような、なんだかわからないけど、不思議な感覚だった。
続く。




