第8話:綱渡り
ー彼女は困惑した様子で、服を着た。もちろん、僕が泣いていることに戸惑っていたのだ。僕は自分一人が甘ったれた平和ボケした子供だと言われているかのようで、恥ずかしさで、悔しさで、何も言えなかった。彼女を救いたいと思った。救う?いや、それすらも僕の自分勝手な気がして、彼女の壊された心に僕が何をできるのかそれすら浮かばなかった。・・・ああ。もうどうにでもなれ。僕には関係のない話だろう。そう思えたなら楽に違いない。
「最後に・・・もう一つだけ、訊いていいですか?」
(もちろんです。)
「そんなに色々としゃべっていいんですか?」
ーひとしきり泣いて、怒鳴って、それでもどうにもならなかった僕はもうなにもかも諦めようと思った。次元が違いすぎる。僕が無理矢理に彼女を説得しても、彼女には何も伝わらないだろう。・・・くそ!!!。
それでもどうしても気になっていたことは、これまでの話の内容だった。他の人間にこうも容易くあれこれと話していいものなのか?自分が仮に鬼畜野郎・・・・”主”とやらであったなら、誰にも明かすなと命じるであろうに。
(構いません。思いの外、こちらのホーマと話すのも楽しいものでしたし。最初から、貴方には救済を施すつもりでしたから。)
ーああ、どうすればいい・・・どうすれば、この女性は救うことができるんだろう。救済・・・えっと、この人の言う救済ってどういう意味だっけ?
(安心してください?貴方の罪は私が引き受けますから。仲良くなれたのですし、私のことは気にせずどうぞ安らかに。)
ーあ、これあかんやつや・・・。彼女はいつのまにか既に手元にあの漆黒のナイフを手にしている。召喚魔法かなにかなのだろうか?やめて、おねがいだからしまって!!どうしよう、アライを憎むよりも先に、この人の対処しなきゃいけないんだった。可愛いから油断してたけど、客観的に言えば人格破綻者だもんな。そもそも出会った最初から殺す気まんまんだったし、しかも断ると残念そうな顔をしていたし、あの時は冗談だと思っていたけど、ここまで聞いたらわかる。。。コイツ・・・本気だ・・・・。
「ま、待ってください。でもそれだと、貴女が代わりに罪を背負うことにな、なるんですよね?」
ーと、とりあえず相手の教義に乗っかっておこう。なにかうまい抜け道があるはずだ。
(最後まで私のことを気にかけてくださるのは本当に嬉しいことです。あなた程熱心であれば主様もお喜びになられるでしょう。でも、安心してください。私は主の元に懺悔し、そのお許しをいただく奇蹟を授かることができるのです。ですからどうか安らかに・・・。)
ーやばい・・・抜け目がない。逃げ道もなかった。これが親切心とか笑えない。。。何か、何か、抜け道は・・・”主の元に懺悔”と言ったはずだ。それであれば、、、
「っで、では帰るまで、その時まで待っていただくことはできませんか?」
(手伝ってくださるのですか?しかし、そこまでしていただくわけには・・・)
ーいっいける!
「や、やらせてください!それが僕のため、ひいては社会のためになるのです!」
ーそうだ、異世界と異世界を転移するのだ帰る方法とて容易いものではないだろう。下手をすれば一生かかるかもしれない。それまで、この子と一緒にいれるならそれはもはやご褒美だ!ピンチをチャンスに帰る男、それが僕だ!たぶん。
(そうですか・・・わかりました。しかしこれらの話はどうか内密によろしくお願いします。)
そういうと彼女は嬉しそうでいて悲しそうな、慈愛に満ちた表情をした。ともかく、こうして、”大凡平”と”ニャー”の桃色生活が始まる?予感だけがした。
回避成功!