第22話:平和と平原
魔法を覚えてからと言うもの、あれこれと試すと、意外にもすんなりと使える魔法が多かった。もちろん、制御には難があるが、やはり科学の力は偉大だ。幸いにして、この世界の物理法則の多くは地球のそれと変わらない。しかし、一番重要な違いは魔力を介して意思が物質に作用するところだった。
「空気よ拡張せよ!」
一見すると何も起きていないように見えるが、気温が下がるのと呼吸のし辛さから周囲の空気が徐々に薄くなって行くのがわかる。イメージは空気の分子を球体の外側に動くように揃える感じだ。
ーみよ!これが”PV=nRT”だ!・・・あかん、苦しい。
「チュビィ・・・」
{ブワッ}
意識を空気の分子に働かせるのをやめたとたん、周囲から風が吹いた。座って休憩しているアニマのローブの裾が揺れている。僕はそこになにか異性的なものを感じ、図らずもドキドキとした。チュビヒゲは必死にこらえている。離れてればいいものを・・・。
ーや、やっぱり、空気が拡張すれば一時的に気圧が下がり風が吹く!ちなみに気温も下がっているようだ。すなわちこれが風の属性魔法の原理なのだろうか?それなら・・・
「空気よ球状に拡張せよ・・・そいでもって、こうだ!・・・ぶっ!」
「チュ・・・」
イメージは両手のひらの前でそれぞれ空気を薄くしていき、少し近づけて解除する。左と右から空気がぶつかって風が特定の方向に強くなるはずだ。事実、思いの外強い風に、一瞬顔を持ってかれた。チュビヒゲはもちろんぶっ飛んだ。
「いいぞ!こりゃあ、いいぞぉ!最高だ!!!」
(モシ?もしかしてまた新しく魔法を覚えたのですか?私にも少しおしえてくださいませんか?)
先ほどから魔法とは呼べるかわからない代物だが、空気を吹かせたり、空気中から水を凝集させたり、雲を作ったり、身につけている金属の先端から微量な放電をすることに成功した。しかし、ちょっと規模を間違えると魔力をごっそり持っていかれるあたり、ある程度の法則性があるようだ。
「うーん、でも、どれもまだ”魔法”と言える魔法じゃないんですよね・・・。実際、僕のステータスにないし。。。」
(うーん・・・”ステータス”ってなんですか?。)
ーあっ・・・。
「チュビ !」
チュビヒゲが突然僕の目の前に飛んできて・・・
「なっ・・・!」
顔面に張り付いた。
ー解釈!
「見よ!」
最後の一鳴きの後、チュビヒゲはくるりと宙を舞うように飛び、目の前に小さな竜巻を引き起こした。小さいながらに風圧はなかなかのもので地面の砂と合間って、目を開けていられなかった。
ーははーん。対抗意識を燃やしたのか?
「相変わらず、なかなかやるなあ!チュビヒゲ!」
ー
しかし、今の動きと風の属性魔法には何か関係があるのだろうか?
(モシ、今、チュビヒゲの去った後から、風が起きましたか?)
「ん?言われてみれば確かに、風が渦を巻くようにぶつかったのはチュビヒゲの通ったすぐ後だったかもしれないですね。」
ーそれってつまり、体の動きに沿わせて触れた箇所の空気だけを操作したってことか?確かにチュビヒゲは詠唱もせずに、魔法を使う。なるほど!意識を宙に向けて放つよりも、体の周囲に触れるものに作用させる方が繊細な制御ができるってことじゃ?
「よっしゃ!相変わらずお前ってやつは!!!」
僕はすかさず、手先にだけ意識を集め、空気を押さえ込むように丸めた。さながら某忍者漫画のようである。
ームム!手応えある!このまま。このまま・・・
「これで・・・どうだ・・・エイ!」
手の中に包められていた風は指の隙間からかすかに風が漏れている。その輪郭を意識しながら横投げで手から話す。目では見えないがこのスピードなら数秒もすれば10mくらいの距離になるだろう。僕は数秒ほど意識を球に向けるつもりでー
{バンッ!}
「チュビ!」
「くぁwせdrftgyふじこっ・・・!!!!」
僕の手から離れてほんの1秒もしないうちに、目の前で風が吹き出した。僕は台風に煽られるよりも強い衝撃を受けて、足をひきづりながらに2mばかり後ろに吹き飛ばされた。
ー衝撃で、舌噛んだ・・・・いたあ・・・
(大丈夫ですか?今のは風の属性魔法の”風爆”に似ていますね。主様が蚊を殺すのに使っていました。)
ーオーバーキル!あ、チュビヒゲは飛ばされはしたものの・・・よかった無事みたいだ。予想したより威力が強く、制御も難しかった。普通に使うのなら、やはり宙に空気を集めないと厳しいか・・・やっぱり、見えないと制御が難しい・・・。
前を向くと、20m先で、旋回したチュビヒゲが猛スピードで戻ってきた僕の顔に張り付いた。
「危ない! 危ない!」
「悪かったよ、チュビヒゲ・・・。」
(やはり、風魔法がお得意なようで!)
(えー、ま、まあそうかもしれません。っ!・・・)
ーこの倦怠感・・・うわ、魔力が100を下回ってる・・・。
「あ、そろそろ暗くなってきましたし、手頃な林でも探しましょう!僕の知ってる魔法も教えますけど、アニマさんのも教えてくださいな。」
________
幸いなことに、そこから30分もすると道の片隅の林に人が2人ほど寝れそうなスペースがあった。
ーこの辺りには危険な獣も野盗もいないということだったし、とりあえずはこれで辛抱するか・・・。
「相変わらず、夕焼けが綺麗ですね。」
「・・・。」
「とにかく、干し肉とパン・・・食べませんか?」
僕はベラローゾさんにもらった、朝の袋から、小さめのパンと干し肉を取り出して、アニマの分、自分の分、それとチュビヒゲの分を分けた。
「でも喉が乾くか・・・。」
ー水はこうして、意識を集中させて・・・。
手で作った器に、に空気中の水分を凝集させるイメージを持つとほんの少しづつそこに水が溜まり始めた。同時に下から漏れていくので、僕はある程度のところで口に運んだ。
「んーやっぱり純粋なH2Oって、なんかうまくないんだな。。。」
(モシ?水が出せるのですか?しかも、無詠唱ですね!よければ私にも少しください!)
僕は無言で彼女に手を器状にするようにジェスチャーし、そこに水を貯める。
(わ、わ、すごい!どうやるんですか?)
ーそれを教える役目は普通ならこの異世界の住人であるアニマの方じゃないのか?と思ったのは内緒だ。
「空気中には水の分子が漂っています。かたちはええっと・・・こんなんです。まあ、イメージですけど。」
僕は砂の上に3つの丸を描いた。これは地球での、それもただの”概念図”だが、こんなイメージで魔法が意外とうまくいっているのだから不思議だ。
「こいつらを頭の中でイメージして、手の中にどんどん押し込む!それだけです!」
(うーん?宙に水が浮かんでいるのですか?)
ーあ、ああ、そこからか。
「えっと、そうですよ。見えないほど散らばってるだけで。ここが地球と同じ環境なら・・・ですが。でも実際にほら、こんな風に集められる!」
アニマの手から水がポタポタと滴っている。アニマはそれを一思いに全部飲むと、見開いた目でこちらを見つめた。
(本当に水!・・・私もやってみます。)
・・・
それからアニマが水を出せるようになったのはあたりが完全に暗くなってからだった。月明かりのない、この世界ではもはや何にも見えない。
「で、できた!!」
「ん・・・ん?あ、ああ・・・。おめでとうございます!」
ーつい、ちょっと眠ってしまった。アニマが無言でああでもないこうでもとやっているものだから、退屈でつい・・・。
(うれしい!ありがとうございます!タイラさん!)
そういうとアニマは僕の手を掴み、そこに水を満たした。
ー冷たい・・・無言で手を掴まれながらーー念話はしてるけれどーー、水を注がれるのなぜだろう、卑猥だ・・・・・・さあ寝よう。
(私は・・・攻撃魔法は使えません。もとより感覚的にわかる召喚魔法と空間魔法、それと他のキメラが教えてくれた治療魔法と認識魔法以外にはなにも知りません。もっと魔法のことを知りたいとは思うのですが、それは許されていませんでした。)
「ん?ああ、やっぱり勉強しないと魔法も身につかないのですか。」
(はい。・・・だから嬉しいのです。)
ーんー見えないけど、たぶん目は輝いていることだろう・・・。
「仲の良かったそのキメラは他には教えてくれなかったのですか?」
(仲が良かったわけではありません。自分の傷は自分で治すようにと、私に教えてくれたものがいただけです。精神魔法は地球に行くときに主様が教えてくださいました。”少しは長生きするだろう”という心遣いからです。)
「そうですか・・・。」
ーなんか、眠気も覚めてしまった。この際、聞いてみるか。
あたりは真っ暗だった。僕は木の幹にもたれかかりながら、真っ暗で何も見えないアニマの顔を見た。
「アニマさんにとって、アライテルの存在は一体なんなんですか?僕にはどうしても、彼を大事にする理由が見えてきません。」
(・・・。)
「・・・。」
チュビヒゲは僕の頭の上で安らかに眠っている。垂れ下がったヒゲが耳にかかってくすぐったい。
(それは、主様が私の唯一の救いであり、絶対の父であるから・・・です。)
ーなんだかその歯切れの悪い返答はなんだかもやもやするなあ・・・。
「なぜそう思うのですか?」
(・・・そうであるからとしか言えません。)
「つまり、そう思い込んでいるだけということですよね?」
(何が言いたいのですか?)
ーアライテルのところには行くなと、ただそう言いたいだけだ・・・。そういったところで、なにかが変わるとは思えないが・・・。
(タイラさん。むしろ私は、それだけの存在です。それ以外を知りませんし選択できません。)
「それは思い込み・・ですよ・・・あなたは自由です。」
念話だと本当に伝わっているかわからないから、僕は言葉で伝えるのが好きだ。それに対してアニマは念話で返してくる。そのやりとりはふと俯瞰するとまるで、独り言のようで寂しくなる。
(・・・この話はこの辺にしましょう。)
ーう・・・情けない。何を言えばいいのかいつだって僕にはわからないままだ。もっと賢く、優しくあれば、この胸のもどかしさを言葉にできたのだろうか。
アニマが無言で麻の袋から毛布を出して僕に進める。
「いえ、今は大丈夫です・・・あ、あの、おやすみなさい。」
「・・・」
返事はなく 、毛布のきぬ擦れの音だけが響いた。あとになって考えてみれば、おやすみの挨拶という文化を知らないアニマにとっては当然のことであったが、その時の僕には返ってこない”おやすみなさい”がとても寂しく感じた。それは真っ暗なこの世界にたったひとりになってしまったような錯覚を起こす。僕はとっさに頭の上のチュビヒゲを手で確かめた。チュビヒゲは不機嫌そうにヒゲで僕を叩き、僕はそれにひどく安心する。その夜はそんな夜だった。そして僕は最後にやっぱりステータスを確認した。
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名前: -********-( -********-)
種族:キメラ (ディアブル+ホーマ+カート)
性格:従順
魔力保有量: 112/3070
体重:6.69kg
状態: 認識阻害
魔法:精神魔法 召喚魔法 治癒魔法 空間魔法(喪失)属性魔法(水)
能力: ー
加護:「生命の冒涜」
アドバイス:「余りに従順すぎることは悪徳である。」
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名前:大凡 平 (おおよそ たいら)
種族:*ホモ・サピエンス>モンゴロイド>日本人
性格:優柔不断
合計魔力量: 11/1520
体重:70.28 kg
状態:ー
魔導:精神魔法 属性魔法(水・風)
能力:「解釈」
加護:「拾う者」
アドバイス:「千里の道も一歩から。」
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念話()と会話「」の使い分けはもはや気分です。(((
モダリティってやつです。うん。モダリティを出すの大事。




