第16話:一宿と一飯
「Bonan matenon !」
ーん?
「Bonan matenon !!」
「・・・ボーナン待ってのん?」
ーここは・・・ああ、人の家だった。解釈。
「おはよう!」
目の前にはススーリがいた。陽の光はすっかり明るい。天井のカンデラは消えており、ヴァルマさんとベラローゾさんもキッチンで何やら作っている。というよりも、昨日の煮込みを小分けにしているようだった。
「お、起きたかい”元気な”少年よ。」
ー少年っていうほど若くないつもりだが。ん?振り返ったヴァルマさんの目が僕の股間に・・・あ!朝だから!これ朝のせいだから!!ってか声に出さなくていいから!!!
僕はとっさに起き上がって毛布で膝の上を隠した。
「お、おはようございます。Bonan matenonでしたか?」
(そうそう その調子だよ。少しくらい言葉を覚えた方がいい。その子がいくら精神魔法のテレパシーを使えるといったって、口でしか伝わらないこともあるぞ。)
ーそれ・・・はそのとおりだ。<解釈>でわかる言葉も片言で、時勢や接続が不明だもんな。できればちゃんと習得したい。
アニマはまだ眠っていた。チュビヒゲに至っては元気に飛び回って、ススーリに追いかけられている。
ーペットなのか?お前はベットになりたいのか?
(言葉も学びたいんですが、その前に魔法の使い方が知りたいんです。特にテレパシーがあれば、もっといろんなホーマと話せますし。)
(ほー、なるほどね。いいんじゃないかな。魔法は簡単さ。理がわかっていればいい。あーそうだ。どうせ君達も出発するのだろう?アライテルの宮殿と方向は同じなんだし、村まで一緒に行こうじゃないか。その間に、基本の原理くらいは教えてあげられると思うよ。)
(ありがとうございます!)
(あ、でも、どうだろう。君の服は目立ちすぎるし、魔導帽とこの国の服を貸してあげるよ。)
ーなんてありがたいんだ!!ヴァルマさん優秀すぎる!!!そして、魔法使いっぽい帽子!それだよ!それがなくっちゃ異世界じゃない!
(あ、それならこの服をもらっていただけないでしょうか?大したものではないですが、”こっち”では珍しいものなんじゃないかと思います。売ろうと思えば売れるでしょうし!)
(お、いいのかい?生地の縫い方や色を見るにとてもじゃないが、その辺で手に入るものじゃないぞ?)
ーさすが、ヴァルマさんお目が高い!これは地球でも最高品質のユ○クロの一品だ!
(どうせ、手荷物になってしまうので!あ、アニマさんの着てるものも多分ここで置いていった方が・・・)
ーこれはあくまでアニマさんにあげちゃったものだし、本人に聞いた方が良かろうか。
(いいかどうか、アニマさんに訊いておきます。)
奥にいたベラローゾさんが、手を叩いて注目をあつめる。
「朝 食べる ご飯 どこに 寝坊 いる !」
ーふむ、やっぱり<解釈>だと味気ないな。まるで言葉を解する魔物みたいなノリだ。別にベラローゾさんが粗野だと言いたい訳ではない。
僕はアニマを揺り起こして、一緒に顔を水で洗うと、食卓に着いた。一瞬アニマと目があうと、僕は早朝の一幕を思い出しては、恥ずかしさに思わず顔をそらした。横目にみるアニマは不思議そうな顔をして、数秒悩んだだけで、あとは朝食にすっかり夢中になってしまった。
ーアニマってほんとよく食べるよなあ。
アニマがスープのお代わりを求めるとヴァルマさんは快く装ってくれたが、さすがに少しだけ顔が引きつっているように見えた。それは僕の主観である以上わからないことだが、ただ、アニマには遠慮を教えようと思ったことは確かだった。僕は少し慌てて取り繕う様に服の話をした。アニマがそれを承諾したことを伝えると、食事の後に着替えをもらって2人に手渡した。重さにびっくりしているようだったが、ベラローゾさんもススーリも驚きならすりすりと触り、お礼を言った。お礼の言葉は「Dankon! 」だったとおもう。
そして、せめてものお礼に洗い物はまたしても僕とアニマの2人・・・とススーリの3人で行った。皿を渡す時にほんの少し手が触れると、アニマは一瞬きょとんとした。なにを考えているのかはわからない。本人も不思議でしょうがないという顔をしている。一体なんだ?
「お兄さん 泡 !」
「あ、ほんとだ。。。うーん。やっぱり洗い物は苦手だ。」
(ならあとはやっておきます。)
アニマがともすれば強引に思える手振りで僕からお皿を取った。手が触れる。またしてもアニマはキョトンとした。
(モシ?タイラさん。)
「ん?なんでしょう?」
(どうしてタイラさんの手に触れると胸が熱くなるのでしょうか?)
「え?ええ!?」
ーいつのまにか、アニマに恋愛フラグが立っている!こんなに早く?ここ1日の展開はいくらなんでも早すぎる。それは幾ら何でも・・・焦りすぎだろう。ストーリ的に!!そして僕の心の準備的に!!!
「そ、それはオキシトシンってやつ・・・だったかな???ま、まあ気にしないでください。別に悪いことじゃないと・・・僕はっっ!思います。」
(ススーリとは何ともないのに。地球の方は変ですね。)
ーいざ、ときめき展開になると、頭が真っ白になってしまうもんなのか・・・・。知らなかった!!!
僕はいわゆる女性との会話に弱かった。すなわち慌てて気の利いたことも言えないタチであることをこれほど後悔したのは久しぶりのことだった。




