第12話:夕日の色は
J●SRAC回避!
アニマさん!アニマさん!?」
(え?あ、はい・・・。)
ーよかった!無事だ!
(えっと・・・・。)
・・・
「・・・。」
怪物をみつめるアニマさんの目が死んでる気がする。
(タイラさん・・・お強いですね・・・。)
ーう、どうみても引いてる。というよりか、怖がってる?いや、加えて自分の危険を賭した精神魔法が必要なかったのではないかという一種の無力感に打ちひしがれているのか?いや、わからん。
「ち、地球の人は、タックルが得意なので!」
ーもちろんそんなことはない。
(そうですか・・・。)
「チュビ!」
ーそうだそうだ、チュビヒゲの功績もかなり多い!
「あ、ありがとう!チュビヒゲ!!チュビヒゲのおかげで不意をつけたよ!」
「最高 ! 最高 !」
パタパタとしながら、チュビヒゲがこちらに寄ってくる。僕は左手のひらに止まらせると、背中から尻尾までを右手の人差し指で撫でた。
「アニマさん、この子、ほんと気が利きますよ!!気が効くなんてものじゃない、頼りになります!!」
(そ、そうなんですか?)
アニマは下を向いてしまった。何かを口にしているようで、地声で話すハスキーな声が小さく響いた。
「役に立つ・・・。」
ーおそらく僕に念話で伝わらないようにするためであるのだろうけど、<解釈>で意味ーー痛みーーが伝わってしまう。
「アニマさんだって!」
アニマさんは余計に俯いた。
ー能天気な言葉は却って逆効果か・・・。
あいかわらず怪物は動く気配すらない。せめてなんて言っていたかくらい<解釈>しておけばよかったと思ったが、時はすでに遅かろう。僕はすっかり冷静さを取り戻していた。それどころかさっきの会話の続きを考え始めていた。少し動いたおかげで気持ちがスッキリしているせいか、頭が冴える。ありがとう怪物。
「さっきの話なんですけど・・・」
ー確かに、アニマさんは高潔だ。しかしそれはあまりに脆い、まるでガラスの針のような高潔さだ。意固地なまでのそれはきっと誰も幸せにならない。と思う。
「アニマさんは弱いひと・・・じゃなかった。弱い”キメラ”ですね。」
(・・・ええ。とても。)
アニマはまだ俯いている。
「去る前に教えて欲しいんですけど・・・」
ーこちらを見上げたアニマの瞳が気弱に見える。想像できないだろう?あんなに端麗な黒く金色の瞳が、まるで水面に浮かぶ月のように頼りないんだ。
「アニマさんはどう思いましたか。これまで僕と居て、嫌な気分でしたか?」
(いえ、そんなことありません。)
ー・・・はあ、やっぱりこの人はタチが悪い。。。
(モシ?私の気持ちがなにか価値が?なにか間違っていましたか?)
ーいやいやいや。
「問題が大アリですよ。僕は、”それ”が弱いって言っているのです。」
ー思わず、すこし語調がきつくなってしまった。意趣返しなんて被害妄想じみた感情があったせいかもしれない。
「”それ”が僕の・・・そう、僕の価値観では、弱く感じます。」
(モシ?)
アニマさんは話が見えないという顔をしている。
「アニマさんの自分を蔑ろにするその態度が見るに耐えないのです。僕はそれが気に入りません。」
「・・・。」
「アニマさん。僕はあなたをとても人間らしい、と思います。語弊があるかもしれませんけど、あなたは感じてる。痛みも喜びも悲しみも無力感も感じている。・・・そして弱い。」
時刻は夕暮れ。青緑色の夕日にアニマが染まっている。
「知ってますか。弱い人間は、苦しむんですよ。」
ー僕は一体何を言っているんだろう。着地点を見失いそうだ。
「苦しいから何かに縋るし頼る。もしも頼るのを恐れて、考えることも感じることも諦めたら、それはずっとずっと余計に苦しい。・・・もう救いようがない。・・・僕はアニマさんに救われてほしいと思います。苦しいところに留まって欲しく無いと思います。」
(・・・しかし、私に救済は許されません。)
「だから!それはアニマさんの感情じゃ無いって言っているんです!!」
{ヒュウ}
それまで凪いでいた風が急に荒れ始めた。風の中で風が棚引いている。髪の毛がアニマの口をチラチラと掠めるのになぜだかドキドキした。
「チュビ ?」
ー無視する。
「・・・アニマさん、僕はあなたが美しいと思います。髪も目も角も肌も美しいと思います。人への接し方も、自分の律し方も、その勇気も美しいと思います。」
ー正直に言ってしまえば、単に僕のタイプという意味になるのか・・・な?
「でもアニマさんは”自分”を見ていない。僕はそれがとても気にいりません。自分を見ようともしない、その態度は美しくない。」
(・・・すいません、やっぱり言っている意味がよく・・・わかりません。私は自分を見て、自分で醜いと思うのですよ?)
ーう、うう・・・
「その・・・だから・・・」
ーああ、ええい、ままよ。
「ああ、もう、さっさと幸せになればいいじゃないか!幸せを求めればいいじゃないか!・・・悩んで、自分を許せばいいんだ!そして、満たせばいいじゃないですか!自分で自分を!」
「チュビ?」
風に反応したのかチュビヒゲがか弱く啼く。
「・・・と思います。」
ー自分でもうまく整理できなかった。次に話すことがあれば、その時はもっとうまく相手を勇気付けよう。そして笑ってもらえるような終わり方をしよう。
アニマはさらに不安そうな顔をした。顔にかかる髪を拭うその手が震えている。
(モシ?・・・モシ?私は何かを間違えていると?)
「・・・正解なんかどうだっていいじゃないですか。僕はアニマさんの幸せそうな顔が見たいんですよ。」
ー日本だったら絶対、気があると思われているぞこれ。しかし残念ここは異世界!”ニラ焼かない”でーす!
(私・・・は期待に答えられません・・・。)
アニマの顔が強張る。
「・・・笑い方を知らないならせめて・・・。せめて、去り際に見せた悲しそうな顔だけはもう見たくないです・・・よ。」
ーくう、恥ずかしい。無垢な女性相手だと思って、言いたい放題言っている自覚がある。このこの。
(モシ・・・でも、私は・・・・タイラさん・・・を間違った方向・・・にしか導きません・・・。)
ー最後の、沈黙を表情で語る感じすごくいい!!いやいやそうじゃなかった・・・。
「咲かせるものなら、悪の華でも咲かせて見せたいものです。」
「?」
ーいや、ちょっと自分に酔いすぎた・・・すいません。
「じゃなくて、えっと・・・僕はアニマさんともっと居たいです。その気持ち以外に先立つ物なんてありません。言ったでしょう?正解なんて陳腐ですよ!ね、陳腐!つまらない!そんなのは後回し!」
{スゥ・・・}
それだけ言うと、僕は手詰まりを感じ、目を閉じて腹に手をおくーーチュビヒゲは肩に移らせるーー。
ー・・・僕は歌うことを決めた。
「ぴーか ぴーか ひかーる まーよーなーかーのほーしはー 」
(モシ?)
「チュビ?」
「ほら、歌ですよ!歌!さあ一緒に!」
「おーかしな ちーから」
(・・・)
「・・・」
「・・・」
ーみんなキョトンとしてる。僕さえも!だめだなんかおかしい!
「ぷっふ。ははは!むっかしから音痴なんだよなあ!」
(タイラさん、私は真剣な話をしていると思って居たのですが?)
「え?あ・・・だめだったか。あ、なんかすいません。」
ー僕は指で西の空を指差した。
「と、とにかく、あ、ほら、夕日が綺麗ですよ。」
(私は・・・あまり好きではありません・・・。)
ーそういえばそんな会話もつい昨日のことだ。ずいぶん長い時間が経った気がするが。
「そうですか・・・。アニマさんが好きにならなくても、それもいいかなって思えるくらいになるまで、僕は伝えると思います。我儘ですいませんってかんじですけど。」
ー沈黙・・・か。
「迷惑ですか?」
アニマも何かに気づいたようだった。目をパチクリさせている。しかしまだ何かに逡巡しているらしい。
(いえ、別に・・・。)
ーよかった、やっぱり彼女は”素直”な人だ。
「よし、じゃあみんなでいきましょうか!お腹もすいたし!なんか探さないと!」
「出発 ?」
ーチュビヒゲは乗り気だ!あとはアニマだけだ。
(モシ・・・)
ーあとは待つだけだろう。僕はぼんやりとまさに今、ターコイズ色に染まった空ーーアニマの髪とそっくりな空ーーをじっと見上げた。
(地球の人は本当に変わってます。)
僕らは足並みを揃えて歩き出した。
自転はチキュウと同じ右回り!!




