第3話:来訪者
僕はというとなかなか寝付けないでいた。寝心地の悪さもさることながら、興奮していたのだろう。空を見上げると、星は地球のそれと同じように輝きながらも、明らかに見知った配置とは違った。しかしその異様な明るさは地球とは比にならなかった。9つの星が縦に並んでいるところがある。あれはなんという名前がつけられているのか、いつか聞いてみよう。僕はアニマの方を見た。アニマはすぐ隣で寝ていたが、その間には踏み固めなていない草の壁があり、表情は見えない。無論月明かりがないので輪郭すらもよく見えない。おそらく角と思われるものが微かに上下している。彼女は何を思っているのだろうか?それとも何も思っていないのだろうか?そうだろうな。別に野暮ったい男が一人帰り道で増えたところで。
ーはあ・・・。えらいところに来ちゃったよ。随分と勢い任せで、そもそも僕のアパートどうなっているんだろう。だれも被害を受けていないといいなあ。両親にも迷惑はかけたくないし。いつか、恩返しできればいいのだけど。
僕はもう一度、彼女をみた。冷静に考えればアニマは他人だ。主様とやらに言われれば僕のことを見捨てるのは道理だ。美人が罪というのは本当だ。男はすぐに勘違いして、熱を上げて、後先も考えられなくなる。
ーくそ!!!まるで、アニマが悪いみたいな口ぶりじゃないか。僕らは”友達”だ!アクシデントがあったにしろ、責めるのはお門違いじゃないのか?ああ・・・くそ!くそ!くそ!・・・嫌な気分だ。それもこれも全部このちくちくする草が悪い!
そうして一向に眠れないでいると。空を黒いものが横切った気がした。
ー鳥か?こちらの鳥は夜も寝ないのかもしれない。
{バサッ}
ーえ、近くない?
{バサッ}
ーちょこれ、え、近づいてるよね?
{ズゥン}
ー降りたああ。重めの生物おりたああ。これだよ、アニマさんこういうのを魔物っていううんだよぅ。
(アニマ!アニマ!)
僕は声も音も出さずにテレパシーを送った。
{・・・}
つもりでいた。テレパシーはアニマの魔法だ寝てる間に通じるわけでもないらしい。
僕は慌てて、腕を伸ばす。微かに服の衣擦れが音を出した。
(うん?モシ?・・・えっとだれ・・・あれ、タイラさん?・・・あっ。)
アニマは何かに合点が入ったようだ。そんな朝が懐かしい。
(アニマさん、なんか来てますが・・・。)
(え、え、この匂い・・・・”ドラコ”?)
ードラコ?人か?マルフォイなのか?なんとなく予想するけどそれドラゴンのことじゃないよな??
アニマはゆっくりとこちらに体を向けた。緊張しているのが伝わる。僕は怖くてただじっとアニマを見つめているのが精一杯だった。草原にはあいかわらず風の音だけがあり、そのせいで自分の心臓の鼓動が耳障りだった。
「Du personoj estas ĉi tie ... Ne movi ! Kiu vi estas? 」
聞こえたのは青年を思わせるよく通る低い声だった。
ーさっきの魔物の声にしては人間ぽいな。なんて言ってるんだ?ああ、せめて言葉がわかれば。せめてわかれば。何もできずに死ぬのはごめんだ・・・。
(2人 ここに, ない 動く ! 誰 君 ?)
え?あれ、今なんか頭に浮んだような。
(アニマさん、彼はなんて?)
(動くなって。言っています。)
「Mi etas Araitel servisto, kaj kiu vi estas ? 」
アニマは早口で何かを言った。
ーああ、自分だけが蚊帳の外だ。生きるか死ぬかの瀬戸際で、何をすればいいかもわからない。くそ。。。どうすれば。
(私 アライテル 僕 誰 君?)
まただ、意味だけが脳に現れる。しかも謎の男とアニマが言った言葉は最後が同じだった。もしかしてこれが意味か?アニマがやってくれてるのか?
「やはり なら お前」
ーおっ!今度は言葉と同時に意味が翻訳できてる!やった!これだよ、異世界転移だよ!ファンタジーだよ!これくらいないとやってられないよ。というか僕に聞いた?
「僕はただのつ、付き添いです!」
「?」
「?」
ーあ、こっちからは伝わらないパターンね。
「彼 ない 関係」
すかさずアニマが答える。
「それ 説明 不可 ここに 居る 」
ー彼の声色はかなり殺気立って居る。よく耳を凝らせば、彼の背後からだんだんと荒くなる息遣いも聞こえる。それだけで明らかに人間じゃない生き物が居るのがわかる。それこそドラゴンかと思うほどの何かだ。ここは”普通の生き物”には居心地が悪いというが、それと関係があるのだろうか?
「ここ 嫌い 今 連れ去る」
彼?と思われる人っぽい何かはそういうや否や、こちらに接近して来るのが音でわかるが、あたりが暗くて何も見えない。僕とアニマはすぐに起き上がって、お互いに近づく。
(どうも主様の敵対勢力のようです。連行すると言っていますが、それは主様の望むところではないでしょう。精神魔法で意識を奪うのでその隙に、走りましょう!)
(はい!)
僕が返事を伝え終えると同時に、目の前にはすでに黒い影が近づいていた。アニマはすぐにハスキーな地声で魔法らしきものを詠唱した。
「PERDU KONSCION ! ( 喪失 意識!)」
その直後だった。
アニマが膨れ上がったように見えた。いやちがう、背後に影が回ったのだった。
「君 ディアブル キメラ」
男がそう呟くと同時にアニマが僕に向かって叫ぶ。念話はより流暢な言語として理解される。
(いけない、魔法が効かない!逃げて!)
{キュイーン}
不思議な音だった。金属が振動する音を柔らかくしたような音。それは黒い影がアニマの後頭部に触れた瞬間の出来事だった。アニマは気を失い倒れたのだ。そしてそれを受け止める仕草で黒い影が手で受けとめのを僕はただ呆然とみているしかなかった。僕は完全に気が動転した。
「うわあああ!!!」
・・・そう、アニマを見捨てて逃げ出したのだ。
ー仕方ないだろう!!どうしようもない!!!!こんなん聞いてないよ!!!
目の前で自分が惚れた女性をおいて逃げ出す男、それが大凡平という男だった。
{ドン}
後先も考えず、背後に迫った男の影と反対の方向に全力で走りだす。1歩、2歩、3歩、加速がついた瞬間になって、すぐにそれが悪手だと気付いた。なぜならそちらには・・・象ほどの大きさの真っ黒な影があったから。
びっくりするほど意気地なしで、臆病な生命、むしろそれが、生命。




