雪崩
動ける仲間が一人、また一人と減っていく。
フォリアの焦りが、一気に突き抜ける。
「バージル!!女王様!!回復は!?」
振り返ると、団長が立ち上がったところだった。
「団長!!」
「あぁ……すまない……」
「……!!」
ゾク、とフォリアの背筋に寒気が走る。
傷こそ回復させたが、満身創痍のそれだ。しかし、感じる龍力は大きく上がっている。
「……情けない……団長の私が……」
口から流血したのを、拭ったのだろうか。
血まみれの両手で、剣を握る団長。
その血は、流動する地龍のオーラに乗り、散っていく。
否。散っていったにしては、滑らかすぎる。こんな状況だが、フォリアはそれを見逃さない。
(いや……あれは、飛んでない……)
正確かは分からないが、鮮血が彼の龍力オーラに乗り、『混ざった』ように彼女の眼には見えた。
散ったのなら、もっと弾けるように飛ぶだろう。しかし、「あれ」はオーラの流れに乗り、溶け込んでいるように見えた。気のせいかもしれないが……
ただ、唯一分かったのは、団長がブチギレだと言うこと。
「……平和のために、死んでくれ」
クラッツは雪の大地を強く蹴る。普通ならツルっと行ってしまいそうな勢いだが、彼の足は大地をも凹ませた。
そして。
「……地龍崩撃ッ!!」
その刃は、スノーマンを斜めに切った。
まさに、一刀両断。
「す……すごい……」
どういう訳か、戦闘序盤の団長の龍力とは桁外れに強力だ。フォリアは素直に感動する。
最大の一撃。
スノーマンの筋肉は裂け、胴体部分から大量に出血している。
そして、そのまま動かなくなる。小さな呼吸は繰り返しているようだが、動きは見られない。
「倒れない、の……?」
剣の高さを維持したまま、固まるフォリア。
団長とレイラも、その異様な光景を見ていることしかできない。
(なんて強さだ……)
最前線で戦っていたクラッツが、一番よく分かる。
こちらは剣で、向こうは(鋼鉄のように固いが)毛皮に覆われた皮膚。通常の感覚なら、刃物と龍力がある、こちらが有利のはずだ。
しかし、それは通常の場合。
凶暴化の影響か、肉体的にも変化が現れ、戦闘能力が大幅に上がったスノーマン。
戦闘序盤の剣による傷、レイズたちが作った小さな傷、そして、今の傷。
コツコツとではあるが、それなりにダメージは与えているはず。それなのに、傷口を庇うような仕草一つ見せなかった。
そして、大技を受けた今ですら、倒れることなく、仁王立ち。
動きが、止まったが。
(こんなところで……!!)
大事な部下を失い、自分も墜ちるのか。
そんなこと、あってはならない。が、どれだけ思おうと、力の差は埋まらない。
頭が回り始めた頃、スノーマンの身体が傾いた。
「あ!」
スノーマンはそのまま、雪の大地に倒れ込む。
鈍い音を響かせるスノーマン。それの周囲が、じわじわと紅に染まっていく。
それは、ピクリとも動かない。
「やったの……?」
「……あぁ。しぶとかったが」
「そのよう、ですね……」
「よかった……」
力が抜け、フォリアはその場に座り込む。
大ピンチだったが、切り抜けた。それと同時に感じる、興奮。
俯いた彼女の口角は、上がっていた。
平穏は幸せだが、刺激が足りない。彼女の心は、大きく興奮していた。
……懲りない性格らしい。
そんな顔になっているとは知らず、団長は口を開く。
「場所を変えよう。レイラ。回復を――――――」
と、言葉が止まる団長。
「団長?」
レイラが団長を見ると、彼の視線は山の上の方に向いていた。
その顔は、引きつっている。
一瞬で、悪いものを見つけたと理解したレイラ。
彼女もそちらに目を向けると……
「嘘……」
そこでフォリアも顔を上げる。その顔に口角上昇はなく、疲労困憊の顔。
「え……?」
彼らの目線の先には、またもスノーマンがいた。
ただ、そのスノーマンは、先程倒したそれよりも一回り大きい。
「もう一体いたの……!?」
別に、不思議じゃない。
ここは町の外。魔物の世界である。そして、群れの発生エリアに足を突っ込んでいる。
当然の結果だろう。逆に、他の魔物に見つかっていないのが幸せなレベルである。
「やれるか!?」
「えぇ……!!」
「ウソでしょ……!!」
一応は武器を構えるが、力は消耗している。戦えるメンバーも少ない。
団員のサポート有+団長の全力で倒せたスノーマンをもう一体。
しかも、大きい個体を。
大スノーマンは、こちらと数メートルの所まで来た後、止まった。
視線は、倒れたスノーマンに向いている。
(マズいな。家族か……?)
魔物の家族意識の強さは知らない。
だが、群れとして存在する状態がある以上、横の繋がりは存在するだろう。
依頼により幾千万と魔物を討伐してきたが、この光景を見ていると、どちらが正義で悪なのかが分からなくなる。それでも、剣を置くわけにはいかないが。
「…………」
誰も動かず、喋らず。まさに、膠着状態。
それを破ったのは、大スノーマン。ゆっくりと両腕を上げる。
回転攻撃か!?と身構える三人。だが、現段階で攻撃範囲内には誰もいない。
突然のダッシュ。腰を低くし、どの方向にでも逃げる準備を整える。
しかし、大スノーマンの次の一手は、ダッシュではなかった。
僅かに感じた魔力の上昇。そして、頭上に描かれた氷の紋章。
「ッ!!」
「これって……!」
魔法だ。
魔物の中には、龍魂のように、紋章を描いて攻撃をしてくる者がいる。
龍力者やドラゴンであれば、龍術。
魔物が使うそれは、魔法。
表現は分かれているが、紋章の模様は近しいものがある。
術の起源。ドラゴンが先か、魔物が先か。
ただ、今はそんなこと、どうでもいい。
「来るぞッ!!」
「「!!」」
団長の声で、弾かれたように走るレイラとフォリア。
紋章から、隕石のような雪の塊飛んできたのは、その直後だった。
(アレも魔法で!?)
しかも、一発ではなく、何発も。魔力を感じてから、すぐの発動だったが、えげつない量をつぎ込んでいる様子。
(でも、良く見れば避けることができます!!)
狙いがどうなっているか不明だが、ランダムに飛んできているように見える。自分たちを狙っているものもあれば、明後日の方向に飛んでいるのもある。ただ、範囲が広大だ。
目線を走らせれば、両脇の山の斜面にまで雪塊が飛んできているのも確認できた。その塊は、地面にぶつかっては砕けて転がっている。
「え……」
「ちょ……何……?」
大スノーマンの目的が分からず、困惑するクラッツ、レイラ、フォリアの三人。
だが、それはすぐに分かることとなる。
雪玉による攻撃が終わったと思えば、大スノーマンは背を向け歩いているところだった。
「助かった?」と思った瞬間。凄まじい轟音と、地面の揺れを感じた。
「そんな……!!」
「これって……!!」
「く……!」
ペルソス街道は、両サイドの緩やかな山の間を通すように造られている。
辺りに積もった雪が、今の衝撃で、徐々に坂に沿って流れていく。
その雪の行きつく先は、自分たちの所だ。
「雪崩が来るぞ!!!」
地響きが大きくなり、崩れた雪がクラッツたちに襲いかかる。
「ダメです!!間に合わな……!!」
「……!!」
レイラはバリアを。フォリアは水のベールを。
倒れてしまっている三人は、迫る雪崩に対して何もできず仕舞いだ。
「!!」
轟音と地響きしか感じられない。
時間にして十数秒。
あっという間に、全員漏れなく雪崩に呑まれた。
後に残ったのは、スノーマンの勝ち誇った遠吠えだけだった。




